第43話 天才と薬学ギルド


 ――赤レンガの時計台の近く。薬瓶が三つ並んでいる看板。学者風のひょろい男たちが出入りしているところ。……よし、特徴はあっている。


 私は、薬学ギルドと思われるところに来ていた。

 場所はエーゲルに聞いていたのだ。おそらく大丈夫だろう。


 意を決して扉をくぐる。


 室内にはまばらにしか人がいなかった。

 冒険者ギルドのような活気はない。数人がこちらを見たが、本当に見ただけですぐにそらされた。興味も持ってもらえなかったらしい。

 今まで不本意ながらも注目されてきたので、ちょっと寂しい気がする。


 ――まあ、いいのだけれど。むしろ有り難いんだけども。


 気落ちしながら適当なカウンターへ向かう。とりあえず登録しなければ。


「ここのギルドに入りたいのだけれど」


「ああ、はいはい。では名前と年齢、種族を教えてください。あと、登録料で500ギル、一年ごとに更新料として100ギルかかります」

「……結構取るのね。まあ、いいわ。クレア・ジーニアス、17歳、人間よ」


 受付にいたやる気のなさそうなお兄さんは、年齢のところで動きを止めたが、めんどくさがったのかそのまま入力したようだ。

 お兄さんに言われるがまま、冒険者ギルドと同じように板に手を置くと、魔力が取られた。


 ギルドカードが問題なくできると、彼はとても驚いていた。


「……見えねー」

「声に出てるわよ」


 静かに失礼だ。

 今さら怒るようなことではないが、なんだか脱力してしまう。


「まあいいわ。それで、ここはどんなことをしてくれる場所なのかしら?」

「いや、知らずに登録したのか」

「知り合いに、薬を売るのなら入った方が良いって言われたのよ」


 彼は素でいくらしい。

 敬語で回りくどく説明されても嫌なので、特に指摘せずに話を続ける。


「ああ、うん。薬を売りたいのなら、売りたいものを一個ここに持ってくればいい。内容に問題なければ商品登録して、終わり。問題があれば販売できないし、売ったら罰金」

「そうなのね。他には何ができるの?」

「薬草の効果が書かれた本を借りれたり、生えている地域の地図が見れたり、あとは商標権を得られたりかなぁ」

「なるほど、それは便利ね」


 すべて、私には必要なものだ。やはり入ってよかった。


「さっそく効果が書かれた本と、地図を借りたいのだけれど」

「ん、ここで読んでいく分には10ギル。貸出だと1日ごとに1000ギル加算」

「本当に高いわね……とりあえず、一日借りたいわ」

「あいよ、ちと待ってろ」


 しばらく後、彼は二冊の分厚い本を持ってきた。


「はい、これ」

「ありがとう。……って、あら」


 確認のためだろうか。彼が本をパラパラとめくる。

 その内容に愕然とした。


「……私、文字読めないわ」

「いや、読めないのに、借りようとしたんか」


 ――お前、バカだろ。


 そんな彼の言葉に、ぐうの音も出なかった。



 本の借り出しは丁重にキャンセルさせてもらって、ギルド内をぶらぶらと歩く。

 学者風の人が多かったが、中には一般の町の人っぽいのもいた。そんな彼らは、一様に袋を片手にカウンターへ向かう。


「精算を頼む」

「承りましたぁ」


 やる気のないお兄さんが、やる気の感じられない返事をする。

 誰も文句も驚きもしていないところから、これが通常運転なのだろう。


 彼らは数回会話を交わした後、袋とお金を交換して立ち去った。


「ねえ、今のは何のやり取りなのかしら?」

「ん? ああ、さっきのは薬草の買い取りだ。冒険者や商隊が道の途中で取ったものを売りに来るんだよ。んで、買い取ったやつはギルドに併設されているか、近くで出している草屋に卸している」

「ここにはお店がないってことは、外に出しているのね」

「そ。うちは隣だよ。出てすぐ左だ。草っぽい看板が目印」


 やる気がないながらも、親切に教えてくれるお兄さんに笑みがこぼれる。


「ありがとう、また来るわ」

「仕事を増やさない程度に来てくれ」


 だるそうに手を振る彼に、手を振り返して薬学ギルドを後にした。

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