第42話 天才と小さな露店


 昨日に引き続き、露店市へ来ている。

 フィーたちは念のため、今日は一日宿に居るそうなので一人だ。


 まだ早い時間だからか、人は少ない。

 その分開いている露店の数も少ないが、じっくり見て回れそうである。


 ふと、脇道に目立たないながらも露店を開いている少年がいた。興味が沸いて覗いてみる。


「あら、これ面白いわね。魔道具かしら?」

「ふぁ、はい!」


 少年は客に驚いたのか、勢いよく立ち上がる。


「ああ、座っていていいわよ。こいうのって、魔道具ギルドに申請してあるのかしら?」

「は、はいっ、きちんと申請してあります! 審査も通っているので大丈夫でごいます!」


 座るように促して、屈んで商品を見る。

 少年も客を見下ろすのは良くないと思ったのだろう、おびえながらも座った。初々しくって応援したくなる態度だ。


「そうなのね。……ねえ、商品の説明をお願いできるかしら?」

「はひ、えぇっと。あのこれは火種、です。くず石でも着火できて値段も安くしたもので。……でも、くず石でもある程度の大きさがないと作動しない、です。こっちは灯りで、同様にくず石で点きます。けど、やっぱり、大きさが必要です。……えっと、ごめんなさい」


 どんどんと説明する声が小さくなる。震えているし、なんだか私が脅しているようだ。


「謝る必要はないわよ。それにしても、くず石というものを知らないのだけど、どんなものなの? そこらの石でいいのかしら?」

「えっ!? ……あ、そっか。えっと、いえ。くず石は、えっと、魔石になれなかったくず……えっと、ごみのことで、普通の石じゃないです。魔力は入っているけど、少ないもので。けど、魔石よりも安くって、手に入りやすい、です」

「なるほどね」


 少年の反応を見るに、知っていて当然のことを聞いてしまったのだろう。申し訳ない。

 謝罪の代わりに、商品を一個ずつ手に取る。


「説明ありがとう。気に入ったから買わせてもらうわ。いくらかしら?」

「えぇっ!?」


 まさか購入してもらえるとは思っていなかったようだ。少年は盛大に驚いてから、小さくつぶやく。


「……3ギルです」

「安いのね。いえ、それがこの道具の商品的価値かしら。……はい、これからも頑張ってね」


 少々色を付けて渡す。

 偽善的だと言われてもいい。そうしたい気分だったのだ。


 少年に何か言われる前に立ち去る。


 ――ボロボロの服、清潔感のない肌、栄養も足りてなさそうでなのに腹部だけ異様に盛り上がっている。


 典型的な貧困者だ。

 そして彼の商売相手も貧困者でかつ、魔力を持たない相手なのだろう。だから、安い材料で魔道具は作ってあるし、安い燃料で稼働するようになっていたのだ。


 ――当事者だからこその発想。そして作りも悪くない。


 私は鍋や大釜を介してこの世界の言う“魔道具”を作る。これは実際に手で作る方法と違うようだが、元をただせば一緒だ。


 方法と結果の形が違うだけで、内容自体は変わらない。だからこそ、この魔道具の構成も理解できたし、評価も出来る。


「だけど、惜しいわね。この回線を無くして、入り口も大きくして、全体を金属にすれば……いや、金属だと高いし作成時間も増えるか。うーん、安く手早く作るにはどうすればいいのかしら。……帰ったらさっそく分解してみましょう」


 もしかしたら、小さなくず石でも稼働するように改造できそうだ。完成したら、彼に見せにまた来よう。


 杖を振り振り。少しだけ多くなった通行人をすり抜け、露店を流し見ながら次なる目的地へと足を向けた。

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