第40話 天才と杖


 素材はやはり、今日購入したばかりのもの。

 露店で買った、少々質の悪い鉄と魔石、そして荒野で取った鉱石だ。


 鉱石はより色の薄いものを選ぶ。

 これだけでは心もとないので、質の良い宝石を一個選び、入れた。


「ああ、いいわ。やっぱり質の良い鍋は最高よ!」


 手ごたえが全然違う。

 自然と頬が緩んだ。


 杖を通して魔力を送る。素材へ浸透する速度も段違いだ。

 楽しすぎる。これだから調合はやめられないのだ。


 時間を忘れて混ぜ続ければ、あっという間に完成してしまった。

 まだ混ぜ続けたい感情に襲われるが、終わったのならしょうがない。オルザに渡すべく取り出す。


 出てきたのは、二本のヘアピンだった。


 近くにオルザはいなかったので、フィーに呼んでもらう。


「出来たのか」

「ええ。はい、ヘアピンよ」


 オルザからは良い匂いがした。おそらく夕飯を作っていたのだろう。


「へあ・・・・・? どうするものなんだ、これは」

「髪を留める物なんだけど。・・・・・ここに座って」


 オルザを椅子に座らせて、付けさせる。

 耳の横の髪をバッテンの形で留めた。


 フィーの時と同じく、すぐに変化は起きる。

 黒に近かった髪色が明るい茶色に変わった。目も深い青色になる。


 こっちの世界でよく見た色の組み合わせだった。


「この髪色なら、フィーと兄妹だって言っても問題ないかと思ったの」


 髪色というのは想像以上に、その人の雰囲気を作り出す要素を占めている。色が似ているというだけで、十分に親族として通るようになるのだ。


「そこまで考えてくれたのか、ありがとう。クレアお嬢さん」

「十分に報酬もいただいたもの、当然よ」


 感謝されると、それだけ嬉しい。鼻高々だ。


「さて、もう少し調合したいのだけれど、構わないかしら?」

「夕飯までまだ時間がある。好きにしろ」

「あたし、もっとクレアの調合見たい!」

「はっはっは、フィー様もこうおっしゃられていることだ。構わないよ」


 お言葉に甘えて、調合を続けたいと思う。

 次に作るのは杖だ。それも攻撃用の杖。


 さっそく、成りたいものが分からないと嘆いていたこの子を鍋へと入れた。

 全ての能力に秀でているため、とても優秀な杖となるだろう。


 その子をより高め、補助してくれる宝石たちも次々と投入する。

 ここでケチってはいけない。


 手持ちの中で一番品質と錬金要素が高い木材も入れ、さらに品質は悪いが良い特性を持っている水を加える。

 後は混ぜるだけだ。


 ――さあ、楽しい楽しい混ぜ混ぜターイム!


 喜々として錬金用杖を回した。


「出来たわ!!」


 完成した攻撃用の杖を取り出す。

 魔術良し、回復良し、打撃も良しの素晴らしいものが出来た。


 最高ではないが、手元にある素材でできた最も良いものであることは確かだ。さすが私、天才。


「相変わらず、サイズ感がおかしいな。どうなっているんだその鍋は」


 オルザの声につられて振り向けば、ちょうど料理がテーブルに運ばれているところであった。

 集中力が切れれば、嗅覚も役目を思い出したのだろう。良い匂いが部屋を満たしているのに気づく。お腹がグーと鳴った。


「もう、クレア、遅い! ご飯食べよう」

「良かった、間に合ったね。さあ、クレアお嬢さん。食事にしよう」


 視線を向けると、皆が食事の準備万端で待っていた。

 私待ちだったらしい。それは悪いことをした。


 杖を眺めるのもそこそこに、テーブルに着く。オルザが私の分の前菜も並べてくれた。

 準備が整ったのだろう。彼も席に着いた。


「さあ、いただこうか。オルザの料理は今日も美味しそうだね」

「オルザだもの、当然よ!」

「恐縮です」


 周りに倣《なら》って一口食べる。文句のつけようがないほどに、それは美味しかった。


 黙々と食べ続け、メイン料理へと差し掛かったところで、フィーがおもむろに言う。


「クレアは今日も泊まっていくんでしょ?」


 決定事項のように言われても困る。

 決定権は私にはないので、エーゲルへと視線を向けた。


「クレアお嬢さんさえ良ければ、好きなだけ居ると良い」

「そうよ、ずっと一緒に居たらいいじゃない」


 ずっとは居られないが。有り難い申し出に、小さくうなづいた。

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