第25話 天才とギルドカード


「クレア、お嬢ちゃんと言ってすまなかったね」

「ディアナさん。構わないわよ、慣れているもの」

「私もごめんね、疑って」

「気にしなくていいわ」


 ディアナとリリアが、本当に申し訳なさそうに謝る。

 さすがにこれで怒る気にはなれない。謝罪を受け入れた。


「おおー! クレアのお嬢が許してくれたぞっ!!」


「いや、あんたたちは反省なさい」


 野次馬がえんやえんやと騒いでいる。


 喜ぶな。

 とくに10歳だと言ったやつ。私は忘れてないぞ。


 何度目かわからないため息を吐いて、リリアに向き直る。


「それで? 冒険者登録はこれで終了かしら?」

「あ、これを受け取って。ギルドカードっていうものなんだけど。ここに貢献度が加算されていくんだ。依頼を受ける時と完遂報告する時に見せてね」


 リリアから木の板を貰う。

 そこにはクレア・ジーニアスとだけ書かれていた。


「それ無くすと、木のカードでも再発行料金がとってもかかるから、気をつけて。それに……再発行する側も大変なんだ」


 なんでも無くした人の功績を一から調べ直して、貢献度を算出するらしい。

 それは確かに大変そうだ。


「ランクが上がると、木の板から金属製に変わって、それからいくつかの色を経て、貴金属のものを持てるようになるんだよ。……ディアナは確か、赤だったかな?」

「ああ、そうさ。緑と青の次が、赤だね。それから黄色が来て、その後に貴金属になれるんだよ」


 ディアナがギルドカードを見せてくれた。

 赤く、光沢のあるものだ。欲しい。


「この町の地下ダンジョンに入るためには、どのランクになる必要があるのかしら?」

「地下ダンジョンには赤以上だね。ここのは特に強いから」


 なるほど、つまりディアナは入れるわけか。


 ディアナを鑑定する。

 うん、当然ながら天才の私よりも弱い。


「私もダンジョンに入りたいの。手っ取り早いランク上げの方法を教えてほしいわ」


 ディアナとリリアが顔を見合わせた。


「クレア、悪いことは言わない。ランクはゆっくり上げろ。……急いで命を落とすよりかはよっぽどいい」

「そうだよ、クレアちゃん。最初は薬草摘みから! 怪我でもしたら、大変だもの」


 その後、私に詰め寄って来て、懇々と言い聞かせてきた。まぁ、そうなるよね。


「そう言われる気はしていたわ。……だったら、一番貢献度が多い依頼は何かしら? これは聞くだけよ、教えて?」


 リリアは躊躇していたが、観念したのか教えてくれる。


「どのランクでもモンスターを狩れれば、貢献度はたくさんもらえるよ……でもっ、無茶はダメ!」

「わかったわ、無茶はしない。約束する。……それで、もう一つ聞きたいことがあるのだけれど」


 薬草採取を強く進めるリリアをなだめて、質問したかったことを聞く。


「今、ここにいない人も冒険者ギルドに加入させたいの。代わりに私が登録させることって可能かしら?」

「代替者登録をしたいってことだね。ごめんだけど、無理かな。本人がギルドに来て、認証しないとカードは発行できないんだ」

「そうなのね」


 私は一つ頷くと、誰ともなしにつぶやいた。


「アサシン、聞こえる? 本人じゃないとギルドカードというものを得られないそうよ」

「クレア? どうしたんだ?」


 ディアナが不審そうにこっちを見る。


 ――が、次の瞬間。

 何かの気配を感じたのだろう。大きく飛び退いた。


 野次馬と化していた冒険者たちも、一斉に武器に手をかける。


 穏やかな空気が一転。ピンと張り詰めた。


「――それならしょうがないネ」


 振り返ると、そこにいなかったはずのアサシンが立っている。

 私以外の全員が、アサシンの一挙手一投足に気を配り、ビクビクしていた。


「名前とかを名乗ればいいんだよネ? クレア、悪いけど通訳お願いできるかナ」


 だが、その原因となっているアサシンはとてものほほんとしていて。

 私は思わず脱力してしまった。

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