第26話 天才とギルドマスター
「えっと……リリアさん、彼の登録もお願いしたいのだけれど」
リリアはひどくおびえている。こちらの言葉を理解しているのかさえ、怪しい。
「んー、困ったわね。……アサシン、呼んでおいてわるいけれど、必要事項を教えてくれたらもう一度姿を消しといてくれないかしら?」
「そうだネ。それがいい、ボクなら大丈夫だヨ」
アサシンは気にしなくていいヨと笑う。
威圧は本当に厄介だ。
こんなに優しい笑顔なのに、私以外の人からはそれさえも怖がられている。
改めてカード作成に必要なことを聞こうとすると、カウンターの奥の部屋から大男が勢いよく現れた。
「大丈夫かっ!?」
ちなみに、すでに獲物は抜き身の状態である。
大男はアサシンに対峙すると、威勢よく言う。
「貴様かっ! 嬢ちゃん、もう大丈夫だ。すぐに助けてやる!」
「いえ、助けてもらう必要はないわ。彼は仲間よ」
「貴様! 若い女子おなごを人質に使うとは、卑怯な奴め!!」
「人質じゃない、人質じゃない」
首を横に振るも、聞き届けてはくれない。
「いざ、尋常に勝負!!」
「だから、落ち着きなさいって」
大男の頭上に水を発生させて、一気に落とす。
氷水なので、落ちてくる氷が地味に痛そうだ。
「なっ、嬢ちゃん何を……!? ハッ、そうか、嬢ちゃんもそいつの仲間か!!」
「仲間だけど、そういう仲間じゃないわ」
脳筋ってどうやったら落ち着かせられるのだろうか。
縛るか。
そんな物騒なことを考えていると、大男の足元から芽が出た。
それは急速に成長していき、あっという間に大男を飲み込む。いくらかもしないうちに、大男は身動きの取れない状態となった。
アサシンがチラリと私を見る。
――私じゃない、私じゃない。
無罪を主張する。
「うるさいやつは黙らせました。……それで? うちのギルドになんの御用です?」
金とも銀とも取れるような、美しい髪。切れ長の目。白い肌に薄桃の唇。
そしてなによりも目を引くのが、髪から突き出ている長い耳!
――エルフだ! これが噂のエルフだ!!
グルリアの町で教えてもらった、伝説級に美しいことで有名なエルフに会えて、私は思わず手を合わせた。
「……あなたも縛られますか?」
――あ、そういう趣味はないので結構です。
丁重にお断りさせていただいた。
********
冷ややかな女王様――男だが――に連れてこられたのは、カウンターの奥の部屋。
いわゆる応接室だった。
「では改めまして、自己紹介を。ギルドマスターのルヴィリアルディリンクと申します。長いので適当にお呼びください」
「じゃあエルフ様で」
「却下」
適当に呼んでいいと言ったくせに。
冷ややかに見下されても、美しいと思ってしまうのだからエルフという種族はずるい。
「まあ、いいわ。私はクレア・ジーニアス。彼はアサシンよ。よろしく、ギルドマスター」
エルフ様な彼は、鷹揚にうなづく。
ギルドマスター呼びはお気に召したらしい。
「もがっももぐがぁ!」
「ああ……コレは副ギルドマスターです」
植物にがんじがらめにされていた大男も、この部屋へと運ばれていた。彼は未だに植物ぐるぐる巻き状態で床に転がっている。
「副ギルドマスターだったのね、この人……」
「副ギルとでもお呼びください」
ギルドマスターは優雅にお茶を飲んだ。
――これだけでも絵になるなぁ。
「それで? そんなに強い気を振りまいて、うちに何しにいらしたのですか?」
アサシンを見て、チラリと私のことも見て。
ギルドマスターは紅茶のカップをソーサーに置いた。
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