第18話 天才と素材袋


 食事も終わり、薬づくりを再開する。

 といっても、単純作業なので難しいことはない。


 一日中調合していれば、作業はすぐに終わった。

 休憩と称して、隣の部屋の素材を鑑定していた時間の方が長かったかもしれない。


 手元にあった分の素材では足りなかったが、アサシンがあれから何度か名取草以外の素材も補充してくれたため、揃えることができたのだ。


「クレア様、ありがとうねぇ」

「ありがとうございました、クレアさま!」


「クレアちゃん、頂き物、また隣に置いておいたからね」


 薬を配り終わってから、さらにお礼に来る人が増えた。

 作業中は遠慮して来なかったのだとリアが言う。


 お礼を言われるのは嬉しいが、これでは一向に進まない。

 私は、夕飯後はやりたいことがあるからと断って、部屋に引きこもった。もちろん、鍋を持って。


「さてと……。楽しい楽しい、調合ターイム!!」


 頼まれていたものも作り終わったし、隣の部屋にはたくさんの素材がある。

 これはもう、調合するしかないだろう。


「クレアちゃん、また調合するの? 倒れちゃうよ?」


 いつの間にか私のお世話係と化しているリアは、心配そうだ。

 ゴイが食後のお茶をそっと差し出してきた。


 お礼を言って、飲む。

 やっぱりおいしい。


「この程度、私にとってはへっちゃらなのよ」


 異世界渡りの宝珠は、調合に5日もかかった。

 薬でドーピングしていたから耐えられたというのもあるが、他の物でも1日2日は当たり前なのだ。

 休憩だって取っている。これくらいなんともない。


 すでに作りたいものの構想はできていた。あとは試してみるだけである。


 それでも心配そうな目で見るリアを適当になだめて、さっそく調合に取り掛かった。


「必要なのは、糸、植物、皮、水」


 とりあえず、試作なので品質の悪いものを適当に選ぶ。分類さえ合えば、おそらく成功するはずなのだ。


 それらを鍋に投入していった。


 そして混ぜる。中で十分に解けたら、魔力を変えまた混ぜる。

 完全にくっついたのを感じてから、取り出した。


「試作品にしては上出来ね!」

「すごいクレアちゃん! 布ができた!!」


 隣で大人しく調合の様子を眺めていたリアが声を上げる。

 いつも隣で見ている気がするけど、飽きないのだろうか?


「ええ、布よ。けれど残念ながら、普通の布なのよね……」


 しかも品質のすごく悪い布。何にも成れない布だ。


「え、これでダメなの?」

「少なくとも私の求めているものではないわね」


 天才の私であっても、環境の整っていないこの場では、求める品質のものを一発で作ることはできなかった。


 ――けれど。

 キラリと私の眼が光る。


「ここにはそれぞれ数種類づつもの素材があるわ!」


 素材が小山になっている。全部試せば、一つぐらい相性の良いものがあるだろう。

 その組み合わせかつ、高品質の素材で調合すれば、最低ラインのものが出来るはずだ。


「さあ、腕が鳴るわぁ!」

「ひえぇ……」


 私の雄たけびと、リアの小さな悲鳴が村長の家に響いた。


 ********


 真夜中。

 むしろそろそろ日が顔を出すだろうという時間。


 寝泊まりさせてもらっているリアの家をこっそりと抜け出すと、いつもの森に来ていた。


「アサシン、アサシンいるかしら?」


 さすがに真っ暗だ。

 小さな生き物の気配にも敏感になる。

 暗闇に目を凝らし、アサシンを探した。


「いるヨ。こんな時間に珍しいネ、クレア」


 案の定、後ろに現れた彼に、手にしていたものを渡す。


「渡したいものがあったのよ。――これが素材袋、こっちはマントよ」

「おや、これが噂の素材袋ネ……」


 アサシンはさっそく、袋の中に採取したと思われる素材を入れていった。


「品質と素材に含まれていた錬金要素が低かったから、重量数量無限とはいかなかったけれどね。時間停止の効果と、少なくとも私2人分の重さなら入るわ」

「十分にすごいヨ。それで、このマントは何かナ?」


「そっちは雨具として使ってちょうだい。少量だけど、隠密性と速度が上がるわ」

「……君、これで本調子じゃないんだよネ。さすが、だヨ」

「これくらい当然よ。本当はもっと上の性能を目指せたのだけど――」


 そこで一旦、言葉を区切る。

 アサシンは不思議そうにこちらを見た。


「……ねぇ、そろそろこの村から出るわよ」


 彼が驚いたかのように、瞬きをした。

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