第17話 天才と服装


「本当に変じゃないよ! クレアちゃんにとっても似合っているし!! ……最初はびっくりしたけど。でもそれは変だからじゃないよ!」


 リアが強く否定する。

 それに続けとばかりに、他の女性陣も否定してくれた。


「ここらじゃ見ないってだけでねぇ」

「王都にでも行けば、クレア様のように布をたくさん使った服はよくあるみたいよ」

「それこそ冒険者は、珍しい格好をしている人が多いらしいし」

「私らは布がもったいないから、そういう服を作らないけどねぇ」

「うちの子に作ってあげようかしら」

「あんたんとこの子は男の子でしょ」


 ケラケラと笑う声が部屋中に響く。

 陽気な女性たちだ。


「でもね、クレア様。ここらじゃ邪な感情を持ったやつなんていないし、もしいたとしても私らが成敗してやれるけどね。……都市に行けば行くほど、いろんな人がいる。そんな高そうなものをぶら下げて歩かない方がいいよ」


 一人の女性が、装飾品を指さして言う。

 たとえ装飾品の効果を知らなくても、宝石を多用していることには変わりない。確かに安全面を考えるとその通りだ。


「うん、それにクレアちゃんはとっても可愛いし。変な人が寄ってきそうで心配だよ……」


 リアが眉を下げ、こちらを見る。


「ありがとう。心配してくれて嬉しいわ。……そうね、ここを出る時には服装を変えなければね」


 装飾品は身に着けていなければ、効果が発揮されない。


 洋服にももちろん効果が付いている。

 しかも、布や柄を統一することで効果が倍増するので、どれかひとつでも脱ぐことはできない。


 私は天才で、装飾品や服の効果を除いても強い方だと思う。レベルも高いし。


 けれど、後衛職の弱みである、防御力が紙で撃たれ弱いという欠点がある。

 さらに攻撃用の杖もないので、火力もいつもよりとても低い。


 装飾品も服もこれらをカバーするためには脱げない。

 何があるか予想できない異世界なのだ。安全には最善を尽くしたい。


「マントでも羽織ろうかしら……」


 脱げないのなら、隠せばいい。


 全てを隠すためには全身を覆う必要がある。

 そのためには小柄な私でも、たくさんの布が必要だ。さらに素材袋も作らなければならない。

 布はいくらあっても足りないな。


「クレアちゃん、マントって何?」

「あら、こちらにはマントはないのね? マントは袖のない外套のことよ。ものによって長さは違うけれど、私が欲しいのは膝ほどまでのものね」


 リアたちがふむふむとうなづく。


「袖のない外套か。雨具みたいなものかね」

「ええ、雨具として使えるものもあるわ」

「それなら旅をする者は皆着ているから、クレア様が着ても違和感はないねぇ」

「フードを付ければ、より安全になりそうだね!」


 口々にぜひ着るべきだと言う。

 違和感なく服装と装飾品を隠せるのなら、そうするべきだろう。


 せっかくだし、アサシンにも作ってあげるか。


 動きと武器の取り出しの阻害をせず、さらに防御力や速度が上がれば言うことなしだ。

 加えて雨具として使用するのなら、専用の布、もしくは塗料が重要となる。

 あとで聞いてみよう。


「それにしても、クレア様には何色が似合うだろうかね」

「キレイな赤髪に映えるような色が良いねえ」

「やっぱり黒が良いかな?」

「白もいいねぇ」

「バカ、白色だと汚れが目立つだろう」

「赤色でも十分に映えそうだね」

「緑とかどうだろう?」

「黄色もよさそうだ」


 本人そっちのけで話し始めた。

 なるべく大人しい色がいいなぁ、と思いつつお茶を飲む。


 色を付けるのなら、染料も必要か。

 布や染料をどうやって調達しようか。


 とりあえず、貰った素材で試験的に作ってみよう。

 未だに議論が続く女性たちの声をBGMにして、そう決めたのであった。

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