第14話 天才と村民


 日が完全に落ちたため、今日は重症な者、体力のない子どもとお年寄りを中心に鑑定して、薬を作る。


 場所は村長の家だ。

 十分に広いので、人がたくさん集まれる。現に私以外の人も多くいた。


 鑑定結果は、みな「衰弱」と表記されていた。

 今流行っているこの病気のみが、「衰弱」と判定されるのか、それとも全ての病気がそう示されるのかは分からないが、同じというのはありがたい。


 サクサクと調合していく。


「すげぇ……」

「キレイね!」


 野次馬たちの尊敬の念が心地よい。鼻高々だ。


 難しいものだと気が散ってしまうので無理だが、この薬のように簡単なものなら、今後も人前で調合していいかもしれない。

 調合時間も短いし。


「ミアのところのばあちゃんに、先に渡そう」

「そうだね。その次はソウのところの赤ちゃんかな」


 村長をはじめ、年配の方々が誰から先に配るかを話し合っていた。

 こういったことは現地の人たちに任せた方が、うまく行くことを知っている。とくに口を出さず、作成のみに集中した。


「クレアちゃん、キリのいいところでご飯を食べよう? クレアちゃんまでも倒れちゃったら意味ないからね」


 しばらくして、リアが声をかけてきた。


 野次馬の声が聞こえなくなったと思ったら、料理を作ってくれていたらしい。

 今作っているものが完成したら、ご厚意に甘えよう。

 空腹を訴えてくる腹に、もう少し待てとなだめて、鍋をかき回した。


 ********


 様々な料理が机の上にずらりと並ぶ。

 私と村長のみ椅子に腰掛け、そのほかは立食か床に座って食べていた。


 申し訳ない気もするが、これらが彼らからの感謝の気持ちなのだろう。

 ありがたく受け取る。


「クレアちゃんは料理とか材料とかに興味がありそうだったから、いろいろと作ってみたんだ」

「大したものじゃないけどねぇ。珍しいものがあるかはわからないが、お礼に隣にうちの村で取れるものを運ばせてあるよ。好きに見てくれ」

「まぁ、ありがとう! とても嬉しいわ!!」


 たくさんの料理はそれが理由だったのか。

 村長と村の人たちからの気遣いに感謝し、未知の素材を鑑定できる未来にワクワクする。


「とこれで、クレア。お連れの男性はどうだい? ここに呼べそうかい?」

「あら、そうだったわ。聞いてくるわね」


 調合に集中しすぎて忘れていた。

 断りを入れてから、家の外へ出る。


 村長の家の周りにも人が多くいた。


「あ、クレア様だ」

「クレアさん!」

「クレアさま~」


 手を振ってくる彼らに、手を振り返す。


 村長の家でふるまわれている大量の料理は、家の外でも消費されていたようだ。

 食事の手を止めてまで手を振ったり頭を下げたりしていたため、食事を続けるように促して人気の少ないところへと歩いていく。


「クレア様、どちらへ行かれるのですか?」


 外で食事をとっていた男が付いてきた。


「連れの男を探そうと思って。彼、みんなを怖がらせるからとどこかに隠れているようなの。とりあえず食事はどうするのかを、聞きに行ってくるわ」

「そうだったのですね! 我々はクレア様のお連れの方なら、大歓迎ですとお伝えください」

「ありがとう。伝えるわね」


 男と別れ、人の居ない方へと歩く。


 結果、森に着いた。ここなら大丈夫だろう。

 周りに人の気配がないのを確認し、声を上げる。


「アサシン。いるのでしょう? 出てきてくれないかしら」


 ぐるりと周りを見渡す。


 一拍して、後ろで草木が揺れる音がした。

 振り返る。


「あなた、人の後ろに回り込むのが好きね」

「ほら、ボク暗殺者だからネ」


 月明りも届きにくい森の中。

 全身黒ずくめの男が立っていた。


 闇に溶け込んでいて、気を抜けば見失ってしまいそうだ。


「知っていると思うけど、村民の皆様が料理をふるまってくれているわ。あなたも一緒にどうぞって言ってくれているの。行く?」

「ありがたいけど、お断りさせていただきますと伝えてほしいナ」


 やはり。なんとなく断られる気はしていた。

 私は小さく息を吐くと、アサシンを見据えて言う。


「それは……あなたから出ている、その強すぎるを懸念してのことかしら?」


 暗くてよく見えなかったが、アサシンが悲しそうに微笑んだ気がした。

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