第13話 天才とお仕事


 出ていったリアを追いかけて、すぐにゴイが走る。


「人の話は最後まで聞きなさいよ」


 思わず苦笑するが、信頼されて悪い気はしない。


「クレアは優しい子さね」


 村長に頭を撫でられた。思いがけない言葉と行動に、驚く。


「私が? どちらかと言うと、リアお姉さんの方が優しいと思うけれど……」


 むしろ優しすぎる。


 今日初めて会った人物と共に行動したり、怪しい術から生み出された物体を父親に飲ませに行ったり。

 人のことを信用しすぎだ。


「ああ、リアもいい子さ。でも、クレアもいい子だよ」


 村長は撤回するつもりはないらしい。

 それどころか、もっとたくさん撫でてきた。


「ありがとうねぇ、クレア。ありがとう」

「……まだ治ったと決まったわけではないわ」

「治ったらもちろん嬉しいさ。でもね、治らなくっても私は嬉しいよ」


 ――この村の人たちは優しい。優しすぎる。


「いつか、人を信用しすぎて痛い目を見ると思うの」

「その前にいっぱい良いことが起こるから、悪いことなんて些細な事さ」


 村長の言葉に、私は頬を膨らませるしかなかった。


 そんなやり取りをしていると、にわかに外が騒がしくなる。


「戻って来たみたいだねぇ。……さぁ、行っておいで」

「ええ、そうするわ」


 照れ隠しのために不愛想にそう言うと、私はさっさと玄関へと向かう。

 外はすでに暗い赤色となっていた。


 扉をくぐる。ちょうど村長の家に入ってこようとしていたリアたちと出会った。


「クレアちゃん、クレアちゃん! すごいよ、クレアちゃん!!」

「クレア! デンさんが! デンさんが治ったんだ!!」


 興奮冷めやらぬという感じで、リアとゴイが詰め寄ってくる。


「はいはい、わかった。わかったから。とりあえず落ち着きなさい」


 あまりの勢いに、つぶされそうだ。

 身の安全のためにも、まず二人を落ち着かせる。


 落ち着くまで待っていると、ゾロゾロと村民たちまでもがやってきた。

 先頭にはデンがいる。


「あら、デンさん。もう立ち上がれるの?」

「ああ、クレアさん。娘が持ってきてくれた薬のおかげですっかり良くなったよ」


 出合い頭にコッソリと鑑定をする。


 ――状態異常:なし


「ええ、病気も治ったようね。よかったわ」

「ありがとう。娘から君が薬を作ったと聞いたが……本当なのかい?」

「本当よ? 私は天才なの。信じられないのなら、もう一度作りましょうか?」


 何気なく言った言葉だったのだが。

 デンが喜色満面となった。


「また作れるのかい!? だったら、彼らにも作ってもらえないだろうか」


 デンが自身の後ろに控えていた村民たちを示す。

 なるほど、ゾロゾロといた彼らは病人か、その家族だったのか。


「構わないわよ。……けれど、素材が足りるかしら?」

「素材! さっきの草と水だね!! みんなで取ってくるよ、どれが必要なの?」


 幾分落ち着いた様子で、リアが尋ねた。


「ここら辺かしら」


 採取した素材の中から、必要と思われるものたちを地面に並べる。


 他の人たちも腰を低くして、それらを覗き込んだ。

 暗くて良く見えない。

 誰かが、火を持ってきて、それで草を照す。すると、村民の一人が一つの素材を指さし、声を上げた。


「なっ、これ名取草じゃねえか!?」

「えぇ!? 森の奥地にしかないあれ!?」


 村民たちがにわかに騒ぎ出す。

 曰く、森の奥深くへ入らないと手に入らない、珍しい草なのだとか。


 病気の者は治してあげたい。

 だが、森の奥深くまで入っていくのはあまりにも危ない。そういう議論を行っている。


「あら。でもこれ、アサシンも持っていたような……」


 荷物持ちをさせていた時に、確か渡していた気がする。


「アサシン、この村のあたりにいるかしら?」


 会いに行かなければ。


 そう思って立ち上がると、気配を感じた。

 そして上からパサリと草の束が降ってくる。


「あら……?」

「へっ? 何、これどこから!?」


 リアをはじめとした村民たちが不思議そうに周りを見渡す。


 どうしてかは分からないが、誰からの物なのかは分かった。

 だからそれを手に取って、彼らに言う。


「名取草だったかしら。これだけあれば十分に作れるわね。――さあ、治してほしい人はここに並びなさい。状態を確認するわ。ここまで来れない人は後で私が回るから、案内なさい」


 思えばそれが、この世界で初めてのクエスト受注であった。


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