第12話 天才と錬金術


「そもそも、みんなは“珍しい力”“特別な力”って聞いて何を思いつくのかしら?」


 そう質問すると、三人は少し考えてから語りだす。


「んー、私が知っているのは、まずお医者さんだね。それも普通のお医者さんじゃなくって、協会に勤めているお医者さん。他には冒険者さんたちかな。有名な人ほど強力で珍しい力を持っているって聞いたことあるよ」

「ああ、そこらへんが有名だな。俺もその二つを真っ先に思いついた。……他には魔術師か。冒険者と被るが、城勤めもいるからな。それと魔道具師も有名なんじゃないか?」

「それ以外となるとそうだねぇ……。巫女というのも聞くね。神の声を聴き、その力を行使できる。協会の象徴とされる存在かね」


 三人は当然知っていることであるかのように、説明する。


 知らない情報ばかりだ。近い職業を思い浮かべられるものもあれば、想像もできないものもあった。

 私はもちろん知っていましたよ、というのを装い、神妙にうなづく。


「ええ、そうね。……私はね、そのどれでもない、錬金術という力を使える者なの」


 雰囲気にのまれたのか、リアがコクリと喉を鳴らした。


「錬金術というのは……説明しながらの方が良いわね。鍋借りるわよ」


 そう言って、私は席を立ち、村長の家にあった大きな鍋を手に取る。


「これはいい鍋ね。……本当なら、大釜といって大人が二・三人入れるほど大きなものでやるのだけれど。ないものねだりね」


 その鍋を床に置き、手をかざして魔力をためる。

 しばらくすると、鍋の中が七色のもので満たされた。


「キレイ……」


 いつの間にか近くで様子を眺めていたリアが、つぶやく。

 そうでしょう、そうでしょう。


 私は気を良くしながら、今度は懐に忍ばせていた木の棒を強く握り、魔力を込める。


「本当はこれも、そこらの木の棒なんかじゃなくって、専用の杖が良いのだけれどね」


 木が私の魔力で満ちたら、手を離す。

 さらに懐から、道中取ってきた草を並べた。


「お願いがあるのだけれど、水をコップ一杯分持ってきてくれないかしら」

「ちょっと待ってて!」


 リアが素早く出ていく。

 楽しみにしてくれているようで、私も嬉しい。


 少しもしないで、持ってきたよ! と元気よく水を差し出された。


「ありがとう。――さて。今ここに並べている物を使って、リアお姉さんのお父さん、デンさんの病気が治るかもしれない薬を作るわ」


 リアが大きく目を見開いた。


 ゴイも義理の父であるから心配していたのだろう。祈るように手を握っている。

 村長だって、みなを家族と言っていた。期待のまなざしで私を見る。


 ――自分でハードルを上げといてなんだけど、失敗した時がつらいわね。


 それでも成功させるのだけど。


「だって私は、天才なんだもの」


 自分に言い聞かせるように宣言して、材料を鍋へ投入していく。


 入ってすぐ、鍋の中で材料たちが解けていくのが分かった。

 それを木の棒を使って、丹念に混ぜる。

 元の世界と変わらない感覚。ひとまず安心だ。


「錬金術というのわね。素材を分解して、再構築させる力のことなの」


 私の魔力が危なげなく木の棒を伝って、鍋へと浸透していく。

 ああ、心地よい。楽しい。嬉しい。


「存在する全ての物は、物質が集まって構成されているの。例えば人間だけど、私たちの体は一つよ。けれど、体にも腕があって、足があって、頭があるわ。頭にも目があって、耳があって、口があって、鼻がある。さらに言えば、目にもまぶたがあって、まつ毛があって、眼球がある。……そんな感じで、物はどんどん小さくしていけるの」


 伝える魔力を変える。

 そのまま混ぜていくと、解けた材料たちがまた一つになっていく。それも、先ほどとは違う形になって。


「小さくしていって、バラバラになったものを集めて一つにする。元は組み合わさっていなかった物たちを一つにするの。合わせ方は何通りもあるわ。もちろん、うまく纏まらなくって砕けてしまう物も出来てくる。けれど、そうならないように特性を見て、機嫌を見て、思った通りの形に整えるのが錬金術よ」


 整えるようにグルグルと数回混ぜる。


 ――できた。


 この世界で初めての、私の調合品。


 水の入っていたカップに完成した薬を注いで、リアに渡す。


「飲ませるのも、そこで捨てるのも。あなたと、そしてデンさんの自由よ」


 その言葉を最後まで聞かずに、リアは外へと駆けだした。

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