第11話 天才と歓談
「先にお茶にしようかね」
村長の鶴の一声で、ゴイが配ってくれたお茶を片手に、おしゃべりを再開する。
「クレアちゃん、このお茶美味しいからぜひ飲んで! ゴイが淹れると、なんでか美味しくなるんだ」
「リアが下手なだけだろう」
「うー。そんなことないもん……」
ふてくされたリアに思わず笑いがこぼれる。
言われるがままに、一口飲んでみた。
――美味しい!
「確かにこのお茶、とっても美味しいわ。何て言うお茶で、どうやって淹れるのかしら?」
「これはね、テサイ茶って言うの! テサイの葉を炒ってから、淹れるんだよ」
「へぇ、炒るのね。面白いわ」
ゴイを褒めたはずなのに、なぜかリアが得意そうに説明してくれた。
しかし、本当に美味しい。
次も次もと飲んでいるうちに、すぐになくなってしまった。
すかさずゴイがお代わりを淹れてくれる。
……嫁に欲しいな。
「おい、クレア。この茶菓子はリアが作ったものだ。一緒に食べるとウマいから、食ってみろ」
「そうなの? お言葉に甘えていただくわね」
勧められた茶菓子を手に取る。
見た目はクッキーみたいだ。
パクリと食べる。
外側をコーティングしてあったのだろう。サクッとふわっが見事に調和していて、素直にもう一つ食べたいと思った。
だが、やはり乾き物だからか口がパサつく。
そこをテサイ茶で潤した。
するとどうだろう。
潤いが得られたと同時に、先ほど感じられなかったテサイ茶の香ばしさが前面に出てきた。
好みはあるだろうが、私はこの香ばしさが好きだ。
「美味しいわ! とっても合うのね!! 本当に美味しいわ」
「えへへ、クレアちゃんの口にも合ってよかった」
照れたように笑うリアは、とっても可愛い。
「作り方を聞いてもいいかしら?」
「うん、材料はクシェの実と卵と小麦だよ。全部細かくして混ぜて焼くだけ。簡単でしょ」
謙遜も入っているのだろう。はにかみながらリアが説明してくれた。
「作り方は簡単なんだがね。その分量が難しいのさ。それぞれの家で味も硬さも変わってくる。中でもリアの作るものはゴイのテサイ茶とよく合うんだよ」
村長が補足してくれる。
そして同時に爆弾も落としてきた。
「さすが夫婦だねぇ」
「ぐふぅっ!!」
驚きのあまりせっかくのお茶を吹き出すところだった。
せき込みながらも、何とか飲み込む。
「ちょっ、クレアちゃん! 大丈夫?」
「だ、大丈夫……。だけど、夫婦。ケホケホ、夫婦って?」
「え? 夫婦? 夫婦っていうのは……好きあった二人が……」
「ああ、違うわ。夫婦の説明が欲しいわけじゃないの」
リアがもじもじと説明してくれていたのを、バッサリと止める。
「ゴイさんとリアお姉さんって、夫婦だったの?」
「何だい、教えてなかったのかい?」
村長がゴイとリアを交互に見る。
ゴイはそっぽを向いていた。
「え、えっと、隠してはわけじゃなくって、ただ説明する機会が……」
リアがおどおどとしながら言う。
つまり夫婦であることを認めたということだ。
――そんな、天才である私が気づかないなんて!
「でも待って。二人とも一緒に住んでないじゃない。それぞれ親のところで暮らしていたでしょう?」
「うん? クレアちゃんのところでは、夫婦は一緒に住むのが普通なの?」
「ここらじゃ、親と一緒に暮らすことが多いねぇ。夫婦で共に暮らすのは子どもが出来てからというのが暗黙の了解というもんかね」
リアと村長の言葉に納得する。これが文化の違いか。
「なるほど、わかったわ。それじゃあ、二人にはまだ子どもがいないのね」
「うん、まぁ、まだいないね。……欲しいけど」
リアがチラリとゴイを見る。
ゴイはそっぽを向いたまま動かない。村長もそんな二人の様子を微笑んで見ているだけだ。
しばしの沈黙。
ゴイには長い時間だっただろう。
「あー、……ごほん。クレア、そう言えばどうして鍋が欲しかったんだ?」
わざとらしい咳払いと、無理やりな話題変えに、女性陣が一斉に笑った。
ゴイは居心地の悪そうにしている。
あまりからかうと可哀そうなので、その話題変えに乗ってあげよう。
「みんなは錬金術って知っているかしら?」
三人の顔を見渡したが、全員首をかしげていた。やはりないのか。
私はどこまで説明するか。どうやったら分かりやすいかを考えながら、説明することにした。
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