第10話 天才と村長


 小さな村だから、村長の家にはすぐに着いた。

 だが、入る前に段取りを説明される。


「クレアちゃん、いい? クレアちゃんが取ったそのクシェの実を半分でいいから村長に差し上げて。そして名乗って、この村に来た理由を話すの」

「なるほどね、わかったわ。でも、この村に着いてすぐ来なかったけれど、それはいいのかしら?」

「よそ者だからって、必ず村長に挨拶しなくちゃいけないわけじゃないからね。そこは大丈夫」

「そうなのね。頑張るわ」


 リアは一つ頷くと、村長の家の扉を大きく丁寧に叩いた。


「村長。リアとゴイです。この村に着いたばかりの女の子を連れてきました」

「入りなさい」


 一拍おいて、老婆の声がする。


 失礼します、とリアとゴイが言って家へ入っていくので、私も失礼しますと言ってから入った。


 村長の家は他の家に比べると大きく、耐久性に優れてそうである。

 さすが、ここで一番の権力者だ。家の中の装飾品も、多い。毛皮も飾ってあった。……あれは何という動物なのだろうか。欲しい。


 廊下を抜けると、目的の部屋に着いたのだろう。リアとゴイがそこへ入っていったので、私も続く。


「村長、彼女です。少しばかり滞在したいとのことでした」

「ああ、ご苦労だったね」


 リアとゴイが膝をつき、礼をする。

 献上する分のクシェの実を横に置き、私も同じ形をとった。


「初めまして、村長。こちらはクシェの実です。よろしければお納めください」

「ありがとう、クシェの実は使い勝手がいいから嬉しいよ」


 そこで村長の顔を見た。


 笑いジワの多いご老人だ。

 装飾品を多くつけていたので、手早く鑑定する。普通の装飾品だった。うむ、残念。


 勝手なことをしているとバレたらまずいので、それはおくびにも出さずに挨拶を続ける。


「私はクレア。クレア・ジーニアスと申すものです。貴村には数日の滞在と、鍋を借りに参りました。お取り計らいのほど、よろしくお願いいたします」

「クレアね。――いいでしょう、滞在を許可します」

「ありがとう存じます」


 もう一度深く礼を取る。そこで場の雰囲気が一気に軽くなったのを感じた。


「もう大丈夫だよ、クレア。さあ、立って。……すまないね、これもこの村のしきたりだから」

「すごいね、クレアちゃん! 間違えずに完璧に名乗れたね!!」

「度胸あるな、お前」


 厳格な空気が一転、和やかなものとなる。


 なんだかものすごく子ども扱いを受けている気もするが、褒められて悪い気はしない。素直に受け取っておこう。


「当然よ。私、天才だから」


 そんな私の発言に、ゴイ以外のみんなが笑った。


 ちなみにゴイは変な顔をしている。


「そう言えば、クレアは鍋を探していると言っていたかね? リア、ゴイ。すまないが鍋を持ってきてくれるかい? 調理場の下の棚に入っていると思うよ。ついでにお茶もよろしく頼むね」

「ええ、任せて。村長」

「行ってくる」


 そう言って、二人は調理場に行ってしまった。

 この部屋には、私と村長しかいなくなる。


「さて、どうぞかけて。それにしても、クレア。小さいのに一人でこの村まで来たのかい?」


 彼らの中で、私はいったいいくつに見えるのだろうか。

 少し遠い目をしつつ、質問に答える。


「いいえ、違うわ。アサシンという男も一緒だったのだけれど、自分の見た目は人を怖がらせるからと言って、村には一緒に入っていないの」

「おや、それはかわいそうに。ぜひ村にも入ってもらいなさい。おもてなしもしたいね」

「うーん、会ったら伝えておくわね。でも変わった人だから、どうなるかは確約できないわよ」

「そうなんだねぇ。無理にとは言わないけど、夜は冷える。寝る時だけでもどこかの家に泊めさせてもらいなさい。みなには私が言っておくから」

「ありがとう、村長。伝えるわ」


 優しく笑う村長に、ほっこりとなる。


「クレアちゃーん、あったよ! これとかどうかな?」

「リア、走るな。危ないだろう」


 部屋の外からにぎやかな声がする。

 村長と顔を合わせて笑い合った。


「楽しくて、いい人たちね」

「ありがとう、クレア。自慢の家族なんだよ」


 彼らの関係性が見える、暖かい言葉だった。

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