第8話 天才と異世界の村
「ようこそ、私たちの村へ。先に私の家に寄らせて?」
「ええ、もちろんよ!」
女性の後ろを歩きながら、きょろきょろと村を眺める。
そんな私の様子に、女性は微笑ましいものを見る目で見ていた。
その視線に気づきながらも、天才の私はスルーして情報収集を優先させる。
――家は木製。道路の補強はなし。川も自然のままで、特別手が加えられている様子もない。畑仕事も全て人間の手で行っているようだ。住人の健康状態も可もなく不可もない程度。
この村の発展性はそこそこ低いとみた。
だが、皆が笑顔で暮らしていた。それはとても良いことだ。
「おーい、リア。なんだ、その子は?」
「ゴイ! この子とは水汲みする川で出合ったんだけど……そう言えば、名前聞いてなかったね」
「クレアよ。リアお姉さん」
「ふふ、よろしく、クレアちゃん」
「ええ。ゴイさんも、よろしくね」
「クレアか。おう、よろしく」
三人で笑い合う。
警戒心を持たれなかったようなので、一安心。
「そうだ、ゴイ。あなたの家に大きな鍋はある?」
「鍋か? 鍋はあるが、大きいかは知らねえな。母ちゃんに聞け」
「それもそうか。もし、お母さんに会ったら大きな鍋があれば貸してほしいって言ってて」
「ああ、別に構わねえよ」
「じゃあ、よろしく」
それだけ言うと、ゴイは畑仕事に戻っていった。
「クレアちゃん、私の家に行くよ。父さんが病気で寝ているから、静かにしててね」
「わかったわ」
病気、それはちょうどいい。この世界の病気をぜひ鑑定したい。
「ここが私の家。……ただいま、父さん」
「おじゃまするわね」
リアの家はこじんまりとしていた。
玄関をくぐってすぐに、ベッドで横になっている男性が目に入ってくるぐらいには、狭い。
「お帰り、リア。可愛らしいお客さんも、こんにちは」
「こんにちは、私はクレアよ」
「ご丁寧に、ありがとう。リアの父のデンだよ」
「デンさんね。よろしく」
デンにもにこやかに対応しつつ、鑑定をする。
――状態異常:衰弱。
なるほど、こんな感じで病気は表されるのか。
「デンさんって病気なんだって? どういう状態なのかしら?」
「ああ、ろくにおもてなしできなくてごめんね。どういった、と言うと説明が難しいけど。ただの流行り病だよ」
「なるほどね」
軽く情報収集も行う。
そうやってデンと話していると、奥からリアが話しかけてきた。どうやら鍋を探してくれていたらしい。
「クレアちゃん、家にある鍋はこれくらいしかないよ」
「うーん、小さいわね」
「これ以上となると、うちにはないかな」
リアの持ってきてくれた鍋は、正直小さすぎた。
この鍋で錬金術はさすがにできない。
「他だと、ゴイが持ってきてくれるのを待つか、あるいは村長に聞いてみるしかないね」
「そうなのね。とりあえず、リアお姉さんの手伝いをするわ。クシェというのを収穫するのでしょう?」
「そうだった! 父さん、行ってきます」
「それじゃあね、デンさん」
「ああ、気を付けていってらっしゃい」
手を振ってくれているデンさんに手を振り返す。
クシェ、どんなものなのか今から楽しみだ。
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