第7話 天才と異世界人
アサシンが去った後を呆然と眺める。
どうしろっちゅーねん。
ここが一番大事な時じゃないのか。
異世界人とのファーストコンタクトだぞ。ここで運命決まるんだぞ。
アサシンへの殺意と焦る気持ちを抑え、さりげなく女性を観察する。
――顔のパーツ、特に違いはない。体、変わりなし。髪色、黄色。服装、ワンピースタイプ。布、植物性と動物性のもの。靴、草履。健康状態、まずまず。
鑑定で女性のステータスを確認し、自分たちとの相違点を探すが、幸い目立って違うところはなかった。
後は―――言語だ。
「……あの、大丈夫かしら?」
表情に気を付けながら、言葉を発する。
最悪、通じなくても敵意がないことを理解してもらえればいい。
「えっ! ……あぁ。ごめん、驚いちゃって」
女性は何度か瞬きをしつつも、返事をくれた。
――よし、言葉は通じる。
これで最初の難関は突破できた。
「あなた……たち? は、ここら辺の人ではないでしょ? どうしてここに?」
「ああ、実は都まで仕事を探しに来たのよ。この森を突っ切ってね」
実際に通ってきた道を指さす。
女性はまたも目を瞬かせながら、聞いてきた。
「この森を? 森の奥のモンスターはとっても強いけど、大丈夫だった?」
なるほど、森で出会った凶悪な生き物たちはこっち基準で強いのか。
「ええ、ありがとう。大丈夫よ、さっき一緒にいた男がとても強いもの」
ニッコリと笑って答える。
そこでアサシンの存在を思い出したのだろう。
女性は困惑した顔で、さきほどまでアサシンがいた場所を見た。
私は彼女が何か言う前に、畳みかけるようにしてお願いする。
「ねえ、突然で悪いのだけれど、よければ鍋を貸してもらえないかしら?」
「へ? 鍋……?」
「そう、鍋。できれば大きい方が良いわ」
私は自他ともに認める天才であると同時に、自他ともに認める美貌の持ち主でもある。
出し惜しみをせずに、己の美貌を利用しまくる。
「ダメ……かしら? あなたのお手伝いだってするわ! 水をくむのかしら、それも手伝うわ! だから、お願い」
上目使いで懇願する。
それが効いたのか定かではないが、女性は小さくうなづいてくれた。
「水汲みは、自分でやるから大丈夫。でも、鍋……ね。大きいものはあったかな?」
「ありがとう、お姉さん! 助かるわ!!」
にこやかに笑いながら、考え事をして無防備な女性に近づく。
彼女は特に警戒もせず、傍に行くことを許してくれた。
落ちていた木桶を拾い、彼女に渡す。
「とりあえず水を汲みましょう? その後は何をするのかしら、私に手伝えることはある?」
「えっと、そうだね。水を汲んだら村に戻るんだ。その後はクシェの実の収穫かな」
「それも手伝うわ! さぁ、早く水を汲みましょう? その後村に行くのよ!」
グイグイと女性を引っ張り、川へ誘導する。
私があまりにはしゃいでいたからだろう、彼女はこらえきれずに笑った。
「はいはい、今行くよ。ふふ、妹ができたみたい」
女性が柔らかく笑いかけてくれる。
ファーストコンタクトは上々のようだ。
女性を急かしながら、村へと案内してもらった。
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