廊下と教室

「チョコバーのスネッカーズ!」


 お昼休みが終わり、購買で何も買えずに空腹の中で早足で教室に戻る。そんな中、太子タイシが手に持っていたのはスネッカーズだった。しかし前回のスネッカーズ早食い競争で勝ち、購入代金を支払わずにすんだのはいいけど。食べ過ぎたせいか、結局は甘ったるさがトラウマになったチョコバーだった。


「太子それはいらない!」


「はははっそっか!」



 僕と太子は、購買から早歩きで教室の前に到着した。休憩も終わりもうすでに授業が始まる寸前なのか、山背高等学園やませ こうとうがくえんの廊下は静まりかえっていた。静けさの中、僕と太子教室の扉が閉まっていることに気づく。


「あっ! 教室こっちも閉まっている! そうだよな……」


「太子これ授業……」


「雄一! 皆まで言うな!」


 廊下側から見て、扉の閉まった教室を見ることの緊張感は半端がない。なぜならクラスの中が見えなく、なおかつ午後の授業が始まっているかも分からない。もし始まっていたら先生とクラスメイト達に声を出し、謝らないと行けない。しかし逆に授業が始まっていないのなら、セーフになる。それは僕と太子が、中身が見えない教室のブラックボックスを開けるようなかけでもある。


「太子! 一緒に扉をあけて、遅くなってスイマセンでしたって謝ろう!」


「同じタイミングで言おうな!」


「せーの!」

「せーの!!」


 緊張が走る、教室の中はセーフかアウトなのか……。


「遅くなってスイマセンでしたっ!」

「遅くなってスイマセンでしたー!」


 扉を開けた瞬間、すでに着席状態のクラスメイト達が僕と太子をぽかーんと見ていた。教壇のほうに目を向けると、先生はいない。その時僕と太子は悟った、授業はまだ始まっていないのだと。

 その反面、大声で謝ったので僕たちはフライングをしたのだ。授業前、つまりセーフでもあり、恥ずかしいという意味でアウトだった。その後、クラス中が大笑いに包まれた。


「めっちゃ笑われてるよ……」

「雄一! 耐えろ! 俺たちは、笑いがあるだけでも、救われているんだ……」


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