第6話 血糖値が足りない
目を覚ましたときには病院のベッドの上だった。
「起きましたか」
声のした方向へ首を巡らせると、見知らぬ若い男性の姿があった。髪は短くさっぱりとして、スーツを着ているから大人だろうと思うが、学生に見えなくもない。
「だめっスよああいう無茶をしちゃあ。どうやって相田にたどり着いたのか知りませんけど、乱闘とか何考えてんスか」
「……あの、どちら様ですか」
そうだった。男性は小さく呟いてスーツのポケットから手帳を取り出す。正しくは警察手帳だ。
「新見聡と言います。警察官です。澤田沙也加さんの事件で、あなたを追っていました。三沢崇さん」
「警察官……」
「あのねえ、たまたま相田が武器持ってなかったからいいっスけど、持ってたらどうする気だったんスか。死んでたかもしれないんスよ三沢さん」
説教口調で釘を差されてつい少し笑う。
「それもよかったかもしれないです」
新見と名乗った警察官は少し目を丸くした後で、「やっぱごんぎつねじゃないスか」と小さくぼやいた。「だめっスよ死んじゃあ。少なくとも事情聴取終わるまでは生きてください面倒なんで。ちょっと待っててください、上司呼んできます。喫煙所でタバコ吸ってるんで。ヤクザみたいなの来ますけど逃げないでくださいね」
言いながら新見は病室を出ていき、病室に一人取り残されることになった。
あの店の前で相田にかち合ったのは偶然だ。というより、相田という名前すら今さっき初めて聞いた。彼は書店の前に居た。通りかかっただけなのだと思う。一緒に居た仲間に向けて書店を指差し、ここの店員だよ、今朝やってやったの、と笑った。そこからの記憶が殆ど無い。
冴木という警察官から聞いたところによれば、俺は相田に殴りかかっている。殴りかかり、何かを叫び、殴り返され、数人で殴打された。書店内に警察官が居たせいで相田たちは逃げる羽目になり、その直後には全員捕縛されている。
倒れた理由は殴られたことによる脳震盪の他、急激なストレスで血圧が上がったのも一因であるらしい。すぐにでも帰っていいとのことだったので、そそくさと病院を後にする。
冴木さんは俺の話を聞くと露骨に訝り、一旦保留にすると宣言して話を終わらせた。俺としても記憶の証明などしようがないのでそれはそれでよしとした。
「失礼」
一言断って、冴木さんは携帯電話を耳に当てた。二三相槌を打ち、何のために? と聞き返し、最終的には首をひねりながらそれをまたポケットに仕舞う。
「三沢さん、これからお時間ありますか?」
「え? ええ、いくらでもありますけど、何か?」
「いえ、うちのが捕まえておけと言うので。少々ご面倒をおかけします」
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