第10話 第三章 隠れていた女の子(2/2)

【前話まで:放課後となり、華図樹かずきが、妖精桜の代わりに華図樹を守る、妖精ローズを連れて部室へ行くと、敵妖精撫子と同じクラスで同じ部活の十八反田冬花じゅうはったんだとうかがいた。撫子は特育地大会で残っている妖精は、もう3人だけと華図樹に告げたのだった】


「そうじゃな、ローズは腕力と闘う能力は一番だったのじゃ。じゃが、もう負けたのじゃ。今残っておる妖精は桜とわらわを含めても、もう3人しかおらぬのじゃ。大勢おったのじゃが、ついさっき、1人やられて、妖精は3人となったところじゃ」


「えっ! いつの間に、もう大詰めっていうこと?」

 特育地大会は始まったばかりであり、バトルロイヤル形式で、大勢の妖精が争っていると、俺は思っていた。


 運命の大きな手によって、ここにいる全員と一緒に、鷲づかみにされ、いきなり狭い穴へ放り込まれた気分になった。


 ローズも驚きの目つき。

「オレも知らなかったぞ! 2日目なのに、もうそんなに減ったのか? えーと確か、妖精が20人はいたはずだぞ。オレは5人しか倒してないんだ。なのにもう、オレを含めて17人の妖精が負けていると言うのか?」


 妖精の中では状況把握にうといローズを、撫子は哀れむかのように見る。

「そうじゃ! ローズは鈍感じゃから、全く分からなくて当然じゃ。さっき、17人目が負けたのじゃ。そうじゃ! ちょっと見せてみるのじゃ!」


 撫子はローズに近づきワンピースの裾を大きくめくった! ローズの下着があらわに!


「おい! こら! 何をする!」

 ローズは叫ぶが、されるがまま、撫子の手を払うこともできない。どうやら、負けた妖精は、生き残っている妖精には手を出せないようだ。


 撫子はローズのスカートの裾を持ったまま。ひるむことなく、まじまじと中身を覗き込んでいる。


 し、下着が見えちゃってる! 俺は見てられない!

「わー! ちょっと、撫子! スカートをめくるなんて! 女の子同士でも、やっちゃダメだよ!」

 妖精同士でも、スカートめくって、中を見るなんて……破廉恥だよ!


「しばし、待つのじゃ!」

 撫子は俺の言うことなんて、聞きもしない。


 俺は気になって仕方がない、破廉恥行為と思いつつ、チラリチラリと目をやる。ローズは普通に下着を着けてなかった。黒い木綿のスパッツのような物を履いていた。


 な~んだ、下着じゃないのか。少しホッとする。


 ローズが履いてるスパッツのような物は、肌にフィットしていない。余裕を持ったサイズだ。そのスパッツのような物の下側、左右の太腿が出ている口には、それぞれ紐がぐるりと太腿を一周して織り込まれていて、太腿の真ん中辺りで、口の裾がめくれないように、チョウチョ結びにされていた。


 つまり、下からは隙間ないので見えず、肌にフィットせずに余裕サイズのため、腰や足の線が分からない構造となっていた。なので、俺的には下着と言う感覚がなくなった。スカートの下に、短いジャージを履いてるくらいに感じた。


 ススス

 撫子はローズが履いている短いジャージを少し下げた。ワンピースの裾が落ちないように押さえながら、ジャージの上部をずり下げたのだ。そして、腹の辺りを見ながら、指でその腹を触っている。


 ローズは逆らえないが嫌そうな顔。

「おい! 撫子! 何すんだよ! 助平だな!」


「妖精同士で助平もないのじゃ! ローズは負けたのじゃ。もうちょっと、じっとしておるのじゃ」


 撫子はローズの要求を切って捨てる。なので、スカートは、めくられたままだ。ローズだって恥ずかしい。

「華図樹がいるんだよ!」

 顔を赤らめてる。


「いつもは、もっと肌を見せておるくせに、よく言うのじゃ!」


「……」

 ローズは反論できない。まあ、昨日や今朝の方が露出度は高かったな。


「そんなことよりじゃ、冬花も見るのじゃ。ローズ本人も言っておったが、やっぱりローズは5人の妖精を倒しておったのじゃ。わらわの探索結果と同じじゃ。冬花よ、わらわの探索能力が証明できたのじゃ」


 十八反田さんは離れた所から、少しだけローズのお腹を見て、うなずいた。満足したのか、撫子は押さえていたローズのスカートを放した。


 証明? 俺には、この一連の破廉恥行為が何だったのか、全く分からない。

「ねー、十八反田さん、何を証明できたの?」


「今朝、撫子ちゃんはローズさんが5人の妖精を倒したと言っていたのに、電車で1駅以上離れていたから、あたしは信用しなかったのです。だから今、撫子ちゃんはローズさん本人を見て、花印かいん花点かてんの確認をしたのです」


「カイン? カテン? 何? それ?」

 聞いたこともない言葉だ。


「お主は何も知らんのじゃな。よくそれで、桜のパートナーを承知したものじゃ!」

 撫子は呆れた顔を向けてくる。


「昨日は何も聞かないうちに、そうなっちゃったんだよ。今朝、初めて詳しいことを聞いたんだ。でもその中にはカインとか、カテンとかはなかったな……」

「花印はこれじゃ!」


 撫子が再びローズのワンピースをめくる。


「こら、また! やめろ! 助平め! 自分のを見せたらどうだ!」

 ローズにとっては、迷惑が、はなはだしい!


「わらわには、まだ付いておらんのじゃ」

「さっき実戦練習したって言ったぞ!」


 ローズは口でしか、反撃できない。

 いやいや、俺には会話の尻尾すらも見えないよ!


「ちょっと、待ってよ! カインとかの意味を先に教えてよ。俺は言ってる意味が、全然分からないよ!」

 俺はフーと鼻から一息吹いた。


 撫子はローズのワンピースの裾を押さえながら、俺を見る。

「花のしるしと書いて花印じゃ、花印とは自分が倒した妖精のマークじゃ。妖精を配下にすると、それが腹に浮き出るのじゃ。ほれ、ここに5つ花のマークがあるじゃろう。そんな所では分からんのじゃ! お主も近くに寄って見るが良いのじゃ!」


 撫子はさっきと同じように、ローズが履いている短いジャージを、へそ下辺りまで下げ、へその下近くにある小さいマークを数度指差してから、俺に手招きをする。


 コインくらいの大きさをした、薄いピンク色のマークが水平に並んでいた。色白の肌に薄いピンク色だ。


 目立たない。今よりは暗かった昨日の夕方や今朝には、気付かなかいのも無理はなかった。


 でもまあ、遠くからだと小さくて、色くらいしか分からない。俺はマークをよく見るために、撫子に導かれるままに、マークに近寄りしゃがんだ。


 近くで見ると、そのマークは図形化された花に見えた。薄いピンク色のインクを使って押した、刻印のようだ。


「本トだ。小さい花のマークなんだ。並んでいると、なんだが、戦闘機の撃墜マークみたいだな。でも、みんな違う図柄なんだね」

 俺は撫子の隣にしゃがんだまま、図柄の違いを真面目に確認した。


「花印は花の図形じゃ。倒された妖精が、つかさどっておった花の図形なのじゃ。桜にはバラのマークをした花印が1つあるはずじゃぞ」


「桜は柔道着を着てるから、見えないはずだよ。それで、あと、もう一つ、カテンは何?」

 俺は撫子を見る。撫子も俺を見返した。


「花の点と書いて花点じゃ、点と線の点じゃ。花点は自分が倒した相手がすでに倒していた妖精のしるしじゃ、花印が子なら花点が孫じゃな。ローズにはないから例は見せられんが、花印の下に同じ色の点として浮き出るのじゃ。


 きっと、桜にはローズの花印の下に5つの花点があるはずじゃ。点じゃから、妖精がつかさどっておる花の種類は分からんが、1人の妖精に対して1つの点が出るので、花印と花点の数を数えると、その妖精が直接的、間接的に何人の妖精を倒したかが分かるようになっておるのじゃ。


 闘いはバトルロイヤルじゃ。花印と花点の合計が19個の妖精が勝者なのじゃ。足らん時は、まだ相手がおると言うことなのじゃ」


 そうか、街中でバトルロイヤルだもんな。撃墜マークがないと、勝者が自覚できないのか。


「えーと、直接倒した相手が花のマークで子供、間接的に倒したと見なされる相手が点で孫、と、言うのは分かったけど……じゃあ、ひ孫は?」

「孫より下は全部花点じゃ!」


「おい! 華図樹! 恥ずかしいぞ!」

 ローズの声が、俺の頭に上から降りかかった。同時に、花印の載った地肌がセカセカと前後に動いた。ローズの声に合わせて腹が動いたのだ。


 ハッ! 声と腹、俺は自分の行為に気付いた! 俺はローズの腹を覗き込んでいた!


「うわっ! ごめん! ローズ! 俺は何てことしていたんだ! スカートをめくられた女の子の、お腹を見るなんて! ……」


 慌ててローズから離れた。撫子も、ローズのスカートから手を放して、立ち上がった。


「相手は妖精じゃ、騒ぐほどのことではないのじゃ」

「そんなことないよ! ローズ、ごめん! 俺が悪かったよ。花印と花点しか頭になかったんだ。自分で破廉恥行為をしてしまった。本トに、ごめん! 嫌な思いをさせて……」


 ローズは顔を赤らめつつも、臨時収入を得たような表情となる。じわりじわりとニンマリが、にじみ出てきている。


「いや、ちょ、ちょっとだけ、ちょっとだけ恥ずかしかっただけだぞ。むしろ、嬉しいくらいで、……あ、でも、華図樹の方こそ、見ていて恥ずかしくなかったのか?」


「ごめん! ローズの体を見ている感覚がなかったんだ。それにローズが履いていたのは下着じゃなくて、ジャージのようだし、昨日より肌を見せていなかったし、……でも、いけないことだったよ。花印を知りたくて夢中になっていたんだ。本トにごめん!」


「い、いいんだよ。華図樹」

 ローズの姿が、できた姉のように、寛容に見えた。


「あ、あたしはびっくりして、何も言えなかったのです! 夢草君が女の人の前にしゃがんで、スカートの中を覗くなんて、……覗くなんて、とても、……とても、……なのです。……」


 十八反田さんは両手で顔を覆っている。むしろ、こっちの方がヤベーかも。

「お主のせいで冬花が興奮したのじゃ! 何とかするのじゃ!」

 撫子が声を張り上げた! おいおい! 呼んだ撫子が言うか?


「「撫子が見せたんじゃないか!」」

「「撫子ちゃんが見せたのです!」」


 十八反田さんとハモった! 


 撫子はビビるどころか、ニンマリ。

「おー、同時に言ったのじゃ! 二人は、息がピタリと、合っておるようじゃな」

 撫子は冷やかしの目で、十八反田さんを見る。


「そ、そんな、息が合うって、……そ、それに、あたしは興奮なんて、していないのです!」

 全身に力を入れて否定してるよ。


 当の撫子は、サッカーで言うカウンター攻撃からの鋭いシュートを見た程に感動している。


「面白いのじゃ! 人間の男女というのは、面白いのじゃ! どうじゃ! ローズよ、この人間達の間に入れんじゃろう」

 鋭いシュートを見れた喜びをローズへと振る。


「う、うるさいな!」

 ローズには、敵側のシュートで、全く面白くない。そんなローズに撫子は満足したみたい。


「ローズの思いなんて、どうでもよいのじゃ。とにかくじゃ。今ので、わらわの探索能力が確認できたのじゃ。と言うことで、わらわにとっては、ローズはもう用済みじゃ。桜と代わるじゃ。わらわは桜に勝って、残りの1人にも勝つのじゃ。わらわが桃源郷で一番の場所を手にして、戻るのじゃ。今度はよい母となるのじゃ」


 撫子は小学生の体型で母なんて、言っている。でも、桜も母の愛とか言ってた。


「オレはまだ華図樹と一緒にいたい! 代わりたくない!」

 ローズは俺の後ろに隠れた。


「何を言っておる! ローズは桜の代行として実体化してるに過ぎんのじゃ。敵のパートナーを攻撃する意思が、わらわにない以上、実体化は無駄なのじゃ。桜よ、ローズと代わってわらわと闘うのじゃ!」


 撫子は俺の中にいる桜に言っているようだ。でも、ローズには未練がある。


「おい! 桜! 聞いているだろう。オレはまだやり残したことがあるんだ。もう少し時間をくれ!」

「ローズは妖精じゃ! 人間に想いを寄せても無駄なのじゃ」

 冷ややかな撫子。


 すぐにでも、戦闘モードに移りそうな勢いだ! このままじゃ、まずいぞ!

「二人とも! ちょっと待ってよ! ここで闘う気?」


「わらわは、どこで闘ってもよいのじゃ。ここから遠くなければ、どこでもよいのじゃ」

 よかった! 桜も早まって欲しくない。


「桜は、学校で出ちゃダメだよ! 先輩と間違われるし、それに、ここで闘ったら部室がメチャメチャになるよ。場所を変えようよ!」


「わらわはこの近くなら、どこでもよいのじゃが、あまりゆっくりしておると、あやつが来るのじゃ。まだ10キロ以上先におるのじゃが、こっちに向かっておるのじゃ」


 何? 何を言ってるの? 俺には撫子が何を言ってるのか、よく分からない。

「あやつって、誰だよ?」


「残っておる3人の内の1人じゃ。まあ、あやつはすぐには闘わんじゃろうがな。そんなに強くないのに1人倒したばかりじゃからな。わらわ達の闘いに間に合えば、用心深いから、わらわ達の闘いを見て、作戦を立ててくるじゃろうな」


 もう1人の敵のことを言ってんのかよ! 俺より先にローズが撫子の前に立った。

「おい、撫子! 残った妖精は誰なんだ? オレの知ってるやつか?」

 フウ、撫子はため息を一つ吐く。


「ローズなんぞに、教えてやらんのじゃ! だいたい、ローズは負けたのじゃ。教えるわけがないのじゃ。あやつのことは、教えんようにして、桜を悩ませて隙を作るのじゃ。


 それに、わらわは桜との闘いをあやつには、あまり見せたくないのじゃ。桜と同じ策でも、あやつを十分倒せると思うのじゃが、見られんに越したことはないのじゃ」


「撫子が言う策って何なの?」

 俺はダメもとで、軽く聞いてみた。


「闘う相手に教えるわけなかろう。今日一日かけて、うまく使えるようになったばかりなのじゃ。妖精を相手に実戦練習までやったのじゃ。冬花もわらわも必死に会得したのじゃ。そんな、虎の子を教えるわけがないのじゃ!」


 やっぱな。

「撫子は実戦って言うけど、さっき、花印はないって言っていたんじゃないの?」

 だから、ローズのお腹を見たんだよな。


「実戦はしたが、決着がつく前に、戦闘から離脱したのじゃ。あくまで、一番始めはお主じゃからな。わらわの練習相手は、みんな別の妖精がしとめたのじゃ。闘えなくなった対戦相手を平らげたやつがおったのじゃ」

 撫子の食べ残しを、全部食べて回ったやつがいたのか。要領いいな。


「その別の妖精が3人目なんだね」

「違うのじゃ! その別の妖精をあやつが倒したのじゃ。それが、ついさっきのことなのじゃ。とにかく、わらわ達の策は10人もの妖精と闘って使えるまでにしたのじゃ。そう簡単に策を教えるわけがないのじゃ」


 10人も?

「朝から、今までに、撫子は10人と闘ったの?」

 ローズの撃墜マークは5つだ。その倍の人数と闘ったのか?


「そうじゃ、倒せそうな妖精もけっこうおったのじゃが、一番目はお主と桜にすると決めておったので、勝負をほっぽらかして全て離脱したのじゃ。わらわとしては、もったいなかったのじゃ」


「そうか、撫子が一番の猛者かも知れないね」

 体が小さくても10人か、体力があるのかも知れないな。


 撫子は照れつつも、不機嫌そうな顔を作る。

「少々、しゃべり過ぎたのじゃ。もう情報はやらんのじゃ!」


「分かったよ。でも、闘う場所は変えてよ! そうだな、神社の裏はどう?」

 学校の隣は神社だ。平らで、ある程度広い場所に、心当たりがあった。


 十八反田さんが撫子の前に出た。

「あの、それに条件を付けていいですか?」

「十八反田さん、条件って、場所を変える条件ってこと?」


「はい、移動を認める代わりに、あたしの願いを聞いて欲しいのです」

 なんだか、決心の色がにじんだ顔だ。


「願いって何? 俺ができることなの?」

「できるのです!」

 十八反田さんにしては大きな声が出た。


「何なの? その条件って?」

「あたしが勝ったら、撫子ちゃんが勝ったら、夢草君はあたしと付き合うことを、真剣に考えてください。……真剣に考えて欲しいのです!」

 痛いほどに、真面目な目で俺を見る。


「あの、えっと、十八反田さんと俺が付き合うの?」

「付き合うことを真剣に考えて欲しいのです!」

 バシッと、答えた。


 なのに、撫子はもどかしい顔。

「冬花よ。『考えて欲しい』などとは言わずに、『付き合え』と言えばよいのじゃ」


「嫌なのです。強制で付き合うなんて、あたしは嫌なのです。夢草君なら真剣に考えてくれるのです。その上での答えなら、あたしは受け入れるのです。その代わり、ちゃんと理由を教えてく欲しいのです。答えだけでなく、真剣に考えたその過程も教えて欲しいのです」


 十八反田さんは、昨日、俺が告白したのを知ってて、こんなこと言ってんだよな。スゲー勇気だよ。きちんとした答えを用意しなくちゃならないのか……。それにしても、いきなりな進展だよな。


「うーん、俺は女の子から好きと言われたのは初めてなんだ。自分から好きと言ったのは昨日が初めてだった。二日続けてこんなイベントが起こるなんて考えてもみなかったよ」


「それは、わらわ達、花の妖精のせいなのじゃ。わらわ達が存在することで、人間の愛に影響を与えておるのじゃ」

 でも、俺が告白したのは桜と会う前だった。


「妖精に会う前から?」

「この地に送られた時から、花の妖精は近くにおる人間達に影響を与えておったのじゃ」

 花の妖精が近くにいるだけで、人間の心に刺激を与えてるってことか……。



 十八反田さんは、撫子の手をつかんで後ろへ追いやった。

「もう、撫子ちゃんは黙っているのです! 夢草君、どうなのですか?」

 真剣な目で見てるよ。


「分かった。十八反田さんが勝ったら真剣に考えてみるよ」

 付き合えって、ことじゃないんだ。受け入れよう。


「嬉しいのです。ありがとう、なのです。今日は特別な日になるのです」

 すでに、気持ちは天馬となって空をかけている。


 ローズとしては面白くない。

「なあ、このお嬢さんは、もう勝った気でいるのか? 華図樹の力を得た桜の強さは、お前達の想像を遥かに超えているんだぞ! 撫子程度じゃとても敵わないぞ!」

 ローズが一番、桜を認めている。


「ふん、勝つのはわらわじゃ」

 撫子は腕を組んで、そっぽを向いた。


 まあ、これで、学校で闘わずにすむな。

「じゃあ、移動しよう。神社の裏だよ」


「よし! 行くのじゃ!」

 ローズが切ない目をして俺を見た。


「今朝、オレ達が一緒に参った神社、……だな」

 ローズが俺にくっついてきた。胸が腕に当たる。


「え、ローズ?」

「このまま、こうして欲しいんだ」

「廊下をくっついたまま歩くの?」


「嫌か? オレの術で、他の人間には見えても、認識できなくしてやるから、このままでいさせてくれよ」


 ローズの態度に、十八反田さんが寂しそうな顔をして、俺を見ているのに気付いた。

「十八反田さん、ローズは妖精なんだ。桜と入れ替わると、もう実体化できないんだ。許して欲しいんだ」


「知っているのです。妖精の悲しい定めは聞いているのです。それに、まだ、あたしは許すなんて言える立場ではないのです。ちょっと悲しいけど、夢草君の考えるままでいいのです。これもあたしの試練なのですから……」

 健気に振る舞う。


「ありがとう、十八反田さん。やっぱり君は優しいね」

「そんな、……なのです……」

 恥ずかしそうに身をすくめる。


「同じクラスで、同じ部活なんだ。十八反田さんのことは見ていたよ。……」


 グイッ! てててっ!


 ローズが俺の頭を両手でつかんで、力を込めて向きをローズへと変えさせた。


「華図樹! もう、そいつとは、敵同士なんだ! オレの方を見てくれよ!」

 妬いてるみたいだ。撫子の登場で、ローズの時間はもう秒読みなんだよな。


「わ、分かったよ」

「モテモテなのじゃ!」

 撫子の顔が、男女の気持ちを知らない小学生に見えた。





■【第十話、ここまで、199段落】


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