第6話 第二章 妖精と登校(2/4)

【前話まで:華図樹かずきが自宅で寝ていると、早朝に妖精桜に起こされる。桃源郷から来た妖精は、特育地と呼ばれる種を蒔く場所の獲得をめぐって闘っていると、桜から聞く。華図樹は、桜のパートナーとなり協力することになる。桜は人間の影響で格闘家になったらしい。すでに、人間が桃源郷へ行っているのだろうか?】


「わたしは格闘家です! 格闘家としての誇りのためです!」

 か、格闘家! 柔道着を着ているし、気合と叫んだり、それらしかったなあ。でも、妖精だろう。

「妖精にも格闘家がいるの?」

「います、というより、人間の影響で好きになりました」

 人間? 鮫島さんは桃源郷へ行けるって言ってたな。過去にも行った人がいるのかな?


「人間って、今より前に桃源郷に来た人?」

「はい、わたしが小さい頃に来た人間です。その人間、わたしの師匠から格闘を教わりました。他の妖精達は、ただ特育地をかけた闘いですが、わたしにとっては、今まで頑張ってきた修行の成果なんです!」


 顔に力がみなぎっている。なんか、先輩らしい。あー、でも、別人、いや、別妖精だっけ。


「自分の得意分野での争いなら、負けられないね」

「はい、勝ちます!」

 拳に力が入ってるな。


「昨日は勝てたけど、ローズは強かったね。でも、関わりのない俺まで襲ったのは、ひどかったけどな」


「ローズが華図樹さんを襲ったのは、力の源を押さえれることで、勝ちに近づくからです」


「力の源を押さえるためとは言え、何も知らない人間を襲うなんてひどいよ。鮫島さんも協力していたけど、相手のパートナーがもっと凶悪だったら、二人がかりでやられて、俺の命も危ないと思うよ」

 何でもありなんてのは困るよな。


「パートナーが凶悪であることはないと思いますが、昨日のように協力することはあります」


「凶悪なパートナーはいないの?」

「わたし達は花の妖精です。花の妖精に力を与えられるのは、それなりの資質が必要です。凶悪なことを平気でできる人間に、その資質はありません!」

 花の妖精なんだから、悪人はパートナーになれないのか。


「そうなんだ。それなら、俺には、その資質があったんだね」

「はい、とてもよい資質と思います。と、言うより、そう感じるんです。昨日の闘いの時も、わたしをかわいそうな女の子と言って、見ていられない感じでした。そういう感覚が資質につながるものなんです」


 ゲッ! 聞かれてた!

「鮫島さんとの会話を聞いていたんだ……」

 なんか、ハズイな。


「はい、笑顔をしている女の子の裸がいいとも聞きました」

 葉波先輩に顔で、ニコッとする。先輩が裸を口にしたみたい……。

「そ、それは、つい、出ちゃって、内緒だよ、誰にも」

 ハズくてたまんないよ!


「わたしは誇れることだと思います。それは女の子が笑顔で裸になれると言うことです。二人の心が近いあかしです。華図樹さんは、そういう愛を望んでいるんです。いいことです」

 裸って言ってるのに、桜は清らかで真っ直ぐな目だ。


「ハズイよ。その話はもうやめよう!」

 こんな話は続けちゃダメだよ! ダメ、ダメ! 先輩の顔を相手に続けられないよ。


「分かりました。でも、わたしはそういう人間は好きです。そうやって生まれた赤ちゃんは、きっと、花を愛する人に育つことでしょう」


 桜は赤ちゃんを抱っこするポーズ! やめるって言ってんのに! 発展させてるし!

「だから、その話はもういいって!」


「分かりました。赤ちゃんは嫌いですか?」

 ニコニコ顔の葉波先輩だよ! その顔で赤ちゃんの話はハズ過ぎる!

「こ、子供なんて、考えたこともないよ。それにもう、そういう話はしないの!」


 早く次の話題を探さないと!

「分かりました。わたしは花の妖精です。言わば、生殖の妖精です。子供については、人間でも興味があるんです」


 その話から全然離れてないじゃん!

「だ・か・ら、まだ高校生なんだから、そういう話はいいの! 分かってよ!」

 すがるほどに、やめてもらいたいよ!


「はい、それではパートナーを襲うのが常套手段という話をします」

「そうそう、そういう……、えっ、パートナーはよく襲われるの? 凶悪なパートナーはいないって言ってたじゃん!」


「パートナーではありません。妖精本人です。わたしは誇りをかけているので、そんなやり方はしませんが、他の妖精達はローズのように平気でやります」


 ローズは容赦なく、俺に蹴りを入れてたな。

「それじゃあ、俺がいつ襲われてもおかしくないの?」


「はい、でも夜には妖精は活動しません。パートナー同士でやり合うことは考えられますが、凶悪な人はいません」


「全員がそうなの?」

「実績から言えばそうです。何かあったとしても、パートナー同士は、昨日のようなくらいです。あのローズのパートナーも逃げることを提案していました。そんな感じの人しかパートナーになれません。せいぜい服の取り合いくらいです」


 そうだな、俺もできれば人を傷つけたくないな。

「人間のパートナーは安心していいかもだけど、花の妖精はそうじゃないってことか?」


「はい、負ければ本人は今までの姿で故郷には帰れませんし、子供達である種の将来がかかっているんです。言わば、母の愛です。母は子供のためなら少々危険なことや、よくないこともできてしまいます」


 母?

「母の愛なの? 昨日のローズはそんな風に見えなかったけどな!」


「ローズは強さを求めていただけかも知れません。そういう妖精もいますので、昼は敵の妖精による突然の直接的または間接的な攻撃からパートナーを守ります。守りつつ妖精と遭遇したら闘います。つまり妖精は昼の間はずっと、パートナーのそばにいます」

 使命感を持った顔になってる。


 でも、ずっとって、……。

「なら、桜は学校までついて来るの?」

「はい、昼の間は一緒です。その方が闘いになった時も有利です」


「ダメだよ。学校に君は連れて行けないよ。女連れで学校へは行けないよ……」

「心配ありません。わたしは妖精です。そばにいても違和感ないようにできますし、そういう影響を回りの人間に与えます。誰も不思議に思いません」

 これまでのように自信のある先輩の顔。


「でも、桜は葉波先輩にそっくりなんだ。それが、まずいんだよ」

「そっくりの人は世の中に何人かいます。その一人と考えればいいと思います」


「でも、困るな。先輩になんて言えばいいんだ?」

「そっくりさんと言えば……」


「そういうことじゃなくて! その、俺は、昨日、先輩に振られたんだよ。次の日に、その先輩と同じ顔の人と一緒だなんて、振られたから似た人を、すぐに彼女にしたみたいな風に、見られちゃうよ」


「振られたのなら、いいのではないですか? どう思われても」

 はっきり言うなあ! でも、俺はまだ諦めてないんだ。


「機会を見て、もう一度アタックしようと思っているんだ。桜の顔を見て、さらにそう思うようになったよ。だから桜が隣にいて、いや、一緒にいるのを見られたりした後に、アタックなんて、まずいんだよ……」

 俺の気持ちが、先輩に伝わらなくなっちゃうよ。


「わたしを同じ顔と認識できないようにできますよ」

「それでも、何か思わぬもので分かったら困るよ」

 写メとか撮られたら、弁解できないじゃん。


「それなら、少し離れて守るのがよいのでしょうか?」

「学校の外からできるの?」

 近くにいないんなら、いいかも!


「離れても、20くらいでしょうか」

「歩数単位かよ! そんなの離れた内に入らないよ!」


 桜は少し考える。


「それなら、わたしの代わりに、配下の者に華図樹さんを守ってもらいましょう」


「配下? 代わり?」

「今、代われる配下は昨日のローズです」

 思いもよらない名前が出た!


「え、昨日のローズが桜の代わりになるの? ローズは消えたんじゃないの?」

「わたしの配下となって、実体化していないだけです。今はパートナーである華図樹さんの中に入っています」


「はあ? 俺の中にローズがいるの?」

 全く実感がない。


「はい、配下のダメージはリセットされていますから、パートナーを守ることができます」


「ローズが桜の代わりに俺を守ってくれるってこと?」

「そうです。連日連戦だと妖精も疲労します。疲れた時など直前に闘った相手に限り、代わりにパートナーを守ってもらえます。ただ、パートナーを守るだけです。別の妖精からの攻撃を防御するだけで、ローズからは妖精を攻撃できません。闘いが必要な時は、わたしがローズと入れ替わります」

 ポンと胸を叩いた。


「入れ替わるってことは、妖精は二人同時に、いないってこと?」

「そうです。配下の妖精が外にいる時は、わたしはパートナーの中にいて休んでいます」


「あのローズが一人で桜の代わりに、他の妖精やそのパートナーから、俺を守るってこと?」

「はい。もうローズは配下なので、華図樹さんに攻撃はしません。逆に守るんです」


 思いもよらない展開。

「なんだか変な気分だ。昨日の敵は今日の友か、……でも、あのローズが学校について来ても、誰も不審に思わないの?」

「はい、大丈夫と思います」


「本ト?」

「花の妖精ですから」

 花の妖精ってだけで、回答になるところが凄いけど、あの姿だぞ。

 女王様の姿!


「あのカッコで学校はまずいよ!」

「妖精なら、違和感ないようにできますから、安心してください」

「あの姿でも違和感ないの?」


 心配だよ。

「人間社会に溶け込む方法は妖精それぞれです。ですが、ローズも立派な花の妖精です。違和感なく溶け込めます」

 自信満々に言い切る!


 桜の顔を見てると、なんか、大丈夫そうな気になってくる。先輩の顔だけに説得力を感じてしまう。それに、また別の妖精に、痛いことされるのは勘弁だよ。


「うーん、分かったよ。ローズについてもらうよ」

「あのローズが守るんなら心強いですよ」

 桜的には何の迷いもないってことか。


「先輩にそっくりな桜と登校するより、いいと思うよ。……あと、不思議なことがもう1つあるんだけど」

「はい、なんでしょう」


「花びらが闘いの時にたくさん出ているけど、あれは何なの?」

「花の妖精だから、ダメージを受けると花びらが出ちゃうんです」

 出ちゃう? 真面目そうな桜にしては、滑稽な感じだ。それはいいとして!


「体の中に花びらが入っているってこと?」

「ちょっと違いますが、そうとらえて問題ありません。花びらが入っていると言うより、花びらで体が構成されていると言った方が近いです」

 同じような気がするけど、まあ、いいか。


「じゃあ、花びらがたくさん出ると言うことは、体を構成しているものが減って、ダメージが大きいってことなの?」

「そうです。花びらは出て来ない方がいいです。他に何かありますか?」


 桜は話を切りにきた?

 うーーん、勝った妖精のパートナーが桃源郷に行けるとか、あったな。でも、これは昨日小百合さんから聞いたし、改めて聞かなくてもいいか。長くなったから、なんか、疲れた。


「まだあると思うけど、朝から、いっぱい聞いて、俺も疲れたよ。今はもういいや。でもまだ6時前か、早いなあ」

「ローズに代わるのなら、早い方がわたしも休めるのでいいです。これからローズに交代しますね」


 まだ、疲れがあるのか? それで話を切りにきたのか。でも、あのローズと入れ替わるんだろう。

「えー、ちょっと! 心の準備が、……」


「よう、久しぶりだな。……って、昨日か」

 桜がいきなりローズになっていた。一瞬のうちに、桜の姿がローズの姿に入れ替わっていた。


 俺の前に、金髪をふわりと揺らした黒ビキニの女王様がいた!




■【第六話、ここまで、134段落】


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