第2話 第一章 闘う妖精(2/4)
【前話まで:
「上着を貸してください! お願いします!!」
痛みに耐える先輩が叫ぶ!
いや、違う!
先輩に似た桜だ!
別人だけど、先輩の顔で『お願い』なんて、言われたら断れない!
断れるはずがない!
服くらい汚れても、いいじゃん!
「分かった! 上着だね」
俺は上着を脱ぎ始めた。
すぐに、金髪女が気づいた!
「こら! 脱いでるんじゃない!」
ガッ! ダダダッ!
言うが早いか、足をつかむ桜の手を蹴り飛ばすと、俺へ向かって走ってきた!
ガツッ!
「グハーッ!」
蹴られた!
ドンッ! ゴロゴロ
脱ぎかけのまま、俺は地面に転がった。
「痛ってー! くそっ! だから、喧嘩なんて嫌いなんだよ!」
金髪女は、それだけでは終わらない!
「男が出てくんじゃねーよ! オラッ! オラッ!」
ガズッ ガズッ
俺の背中を何度も蹴ってくる。
「痛てっ! 痛ってーよ! やめろ!」
「うるさいんだよ! ウーラ!」
ドズッ!
大きな蹴りが一発、俺の背中に入った!
「痛ってーーーーっ!」
俺はたまらずゴロゴロと地面を転がる。
その勢いで、全部上着が脱げて、地面に大きく開いた。
「はあはあ、なんだよ、これ! 俺は何もしてないのに!」
俺は身を起こそうとした。
「ってー! グググ……」
身を裂くような痛みが、背骨に沿って電流のように走った!
俺は痛みに地面から身を起こせない。こらえるしかできない。
金髪女は容赦が無い。
「弱いくせに、シャシャリ出てくるからだよ! オラ!」
ギガッ
「ぐっわーーー!」
また、背中を蹴られた!
金髪女のつま先が、俺の背中に食い込んだ!
同じ場所! のたうつ程に痛い!
ガズッ! ガズンッ!
何度も同じ場所を蹴られてる!
俺は声も出せず、痛さにもがく! 顔が歪む!
「ローズ! 覚悟っ!」
ダガッ!
桜の回し蹴りが、金髪女の後頭部にヒット!
金髪女が吹っ飛んだ!
その飛んだ軌跡から、大き目の薄黄色い花びらが、何枚も舞い落ちてるように見えた。
ザザーザーーーーーー………
金髪女が地面を滑りに滑る!
しばらく滑って、やっと止まった。
見ると、金髪女は公園を対角線上に滑って、反対側の端まで飛ばされていた。
やった! 金髪女が遠くへ行ったぞ。
でも、背中が痛い、すぐに立てそうもない。まずは、背中を伸ばしたいな。
俺は痛みに耐えて仰向けになった。
「つっ!」
痛い側が下だとまずかったかな?
えっ?
見上げるような人影!
俺の傍らに誰かが立っている?
あの子だ!
桜だ!
どうやら、俺の上着を着れたようだ。でも、金髪女を追わなかったんだな。
下からじゃなくて、桜をきちんと見たい。俺は背中が痛いのを我慢して、腕を支えにして上体を斜めに起こした。
桜は柔道着を脱いだようだ。俺の上着を素肌に着ている。袖は捲り上げ、前のボタンは適当に何個かとめただけだ。
今にも、胸が飛び出そうだ!
でも、踏み止まってる。はみ出てない。
ヤベーカッコに拍車がかかったな!
桜がチラッと俺を見た。
「これから、ローズを倒します。今から気合を入れますので、驚かないでください」
「えっ?」
俺が戸惑っていると、
スーーーーーーッ!
と、桜は大きく息を吸った。
「ダーーーーーーーーーーーー! 気合! 気合! 気合! 気合! ! 気合! 気合! 気合! 気合! っ気合ーーーー! !」
桜のメチャクチャな声!
バチン! バチン!
そして、自分の頬を両手で勢いよく叩いた!
「くーーーー! 声が背中に響くーーーー!」
驚くと言うより、痛みが増したぞ!
格闘系の運動部が試合前にやるパフォーマンスか、根性漫画の主人公が魂を込め、集中力を高めたみたいだった。
見ると、桜の雄叫びにおびき寄せられるように、金髪女が桜に向かって来る。
ガツ! ガツ!
金髪女が激突!
桜が受ける!
戦闘再開!
バチッ! ドガッ! ズンッ! ダンッ! ダダンッ! ズシンッ!
打ち合い・蹴り合いの隙間から、小さいピンクの花びらや、大きな黄色い花びらが舞って出てくる。
今度は桜が押している。
バグンッ! ヒラヒラ
大き目の花びらを散らしながら、金髪女が吹っ飛んだ! 何度も吹っ飛んだ!
桜はその度、地面をえぐるように蹴って追い討ちをかける。闘いの場所が俺から離れていった。
背中の痛みが、少しは治まった。俺はやっと地面に座り一息ついた。
ふーっ!
座った俺に、桜が気付いた。
「上着、ありがとうございました!」
晴れやかな顔で闘う桜だ。
ズバッ!
「ぐわっ」
黄色い花びらが宙に舞った。
言うと同時に、倒れている金髪女に突きを一発入れちゃってるよ。
先輩と同じ顔なのに、結構、容赦ないな。
でも、それが闘いってことか……。
地面には花びらがいっぱい散らばっている。
まるで、そこはステージのよう。
淡い黄色の大きな花びらを敷きつめたようなステージだった。
闘いだから本来ならリングと言いたいところだけど、二人ともかわいい女の子だから、ステージみたいに思えた。
とっても、ファンタジー(幻想的な漫画)な世界に、俺には見えた。
そんなステージの真ん中で、金髪女が片手を上げた。
でも、攻撃っぽくない。
痛みのためなのか? それとも、何かの合図なのか?
「くっ、おーーーーい、近くにいるんだろう? 小百合ーーーー! 出て来ーーーーい!」
金髪女が誰かを呼んでいる?
俺も立ち上がり、金髪女が示す視線の先へ目をやった。
そこは、公園の端にある屋根に覆われたベンチ、……いや、ベンチには誰もいない。
柱だ!
ベンチの屋根を支える柱の影に、誰かがいる!
「いつの間にか、人がいる? 女の人? ええっ! 縛られてんの?」
柱の影にいたのは若い女性。おそらくは、金髪女が小百合と呼んだ女性なのだろう。
小百合さんか。
でも、その体には登山で使うザイルくらいに太く赤い紐? のような物が服の上からグルグルと、体を縛るように巻きついている。
けど、ただの赤い紐じゃない。バラの茎にあるようなトゲがたくさん、紐の表面に付いていた。そのトゲまで赤い紐だった。
その赤いトゲ紐は、小百合さんの両腕ごと縛っていて、腕は動かせないって感じだ。
よく見ると、小百合さんの服は所々が破けている。きっと、紐に付いたトゲが悪さをしたのだろう。そして、その服はバーゲン品のような安物のために、より痛々しく見えた。
そして、肩より少し下に伸びた黒いストレートヘアは、縛られて両手が使えないために乱れに乱れている。
その乱れた髪のために、小百合さんの顔はよく見えないが、髪の間から小百合さんのやや垂れた目が見えた。
でも、その垂れ目からは、生きる気力を
破れた服もあいまって、不幸にまみれた年上の、そう20才くらいの女性に見えた。
そんな両腕も縛られた小百合さんが、飼い主に呼ばれた子犬のように、金髪女の方へと足早に歩いていく。
「ローズ様、どうぞお使いください」
小百合さんは金髪女をローズと呼んだ。桜もそう言っていた。やはり、金髪女はローズと言うようだ。
でも、使うって何のことだ?
ローズはゆっくりと立ち上がった。なぜか、桜はローズが立つのを止めようとしない、攻撃もせずに見ているだけだ。
ローズは小百合さんに巻きついている、赤いトゲ紐の端を持つと、思いっきり引っ張った。
ギュィーーーーーンッ!
「きゃーーーー!」
グルルルル ベチッ!
小百合さんがコマのようにグルグル回って地面に倒れた。
時代劇でやっている和服の帯を引っ張って回すのと同じだ。
小百合さんは目を回して、すぐには立てないみたい。
どうやら、その赤いトゲ紐は長く1本のよう。小百合さんは、それを『使え』って言ってたよな。
そうか!
「あの紐、長い
俺が咄嗟に
女王様には、ふさわしい武器だな!
「違います。武器ではありません。わたし達の勝負は素手です!」
俺の上着を着た桜が近くに来ていた。
武器じゃないのか……。
ちょっとがっかりしていると、桜がすまなそうな顔を見せる。
「もう一つ、お願いなのですが……、下着を1枚貸してください!」
え?
「し、し、し、し、下着……?」
俺には桜の顔が先輩の顔に見えて仕方がない。その顔で『下着』と言われちゃ、ドキドキちゃうよ。
でも、桜は至って真面目な顔。
「はい、そのシャツの下にある下着をお願いします」
「なーーんだ! Tシャツのことか。貸せば、あのローズとかいう金髪女に勝てるの?」
「勝ちます! 勝ってみせます!」
桜は俺の真正面に回って直視した!
気合がメッチャ入ってる!
「わ、分かった、……分かったよ。俺もあいつにやられたんだ。あいつを、ローズを黙らせて!」
「はい!」
桜は胸の前で拳を一つ握った!
俺は体の痛みをこらえながら、制服のYシャツを脱ぎ始める。
気になってローズを見ると、ヒョイヒョイと赤いトゲ紐を自分の体に巻きつけている。
グルグルとではなく、デザイン的に黒ビキニとマッチして一体化していくように、取り付けている。
「本トだ。武器じゃないみたいだ。トゲがあるのに体に巻きつけて痛くないのかな?」
桜はその様子を見ているだけ、答えをくれないし、ローズに手を出さない。巻き付け終わるタイミングを見てるかのよう。
「なんで今攻撃しないのさ?」
俺はYシャツを脱ぎ終えたところで聞いてみた。
「誇りです。ローズはともかく、わたしには闘う者としての誇りがあります」
桜は真っ直ぐとした目をチラッと俺に見せたが、すぐにローズへ目を戻した。
でも、誇りって言われても、ローズは荒くれ者のように容赦が無かったぞ。
「なんだか、片方だけ損しているみたいだな」
「それでも、わたしは倒します。その下着があれば、やれます!」
言葉に決意の熱が染み込んでいる。
今まで、桜の闘いを見る限り、態度や口調は、その『誇り』と言う言葉に裏打ちされているように思える。
俺には真面目な格闘少女という印象が固まっていく。
格闘少女と言っても、顔は葉波先輩なんだよなあ……。
「うおーーーーっ!」
紐を巻き終えたのか、ローズが突進して来た! まだ俺はTシャツを脱ぎ終わってない。汗ばんでいて、体にくっついて時間がかかっていた。
「こっちに来た!」
ローズは桜ではなく、俺に向かっている!
ガチーーーーンッ!
桜がローズと俺の間に入った! ローズの勢いを止めてくれた!
「え! きれいな背中?」
俺の前へ出た桜の背中は、素肌!
縦長の窪みが、中心に真っ直ぐと伸びた背中だ。
なんと、白く、なんと、きれいな背中なのだろう?
せっかく貸した俺の上着はもう、脱いだみたいだ。俺はTシャツを脱ぎかけたカッコのまま、桜の背中を見とれてしまいそうだ。
いやいや見とれてる場合じゃないぞ!
と思いつつ、桜が全裸なのか心配になり下を見た!
スパッツは履いている。脱いだのは上半身だけだ。
「早く下着をお願いします」
後姿の桜が、俺を見ないまま叫ぶ!
そうだ! 背中だけじゃないんだ! 胸も裸なんだ!
桜は危ない姿をして、夕暮れの公園にいるんだ。そしてローズの攻撃を、俺のために食い止めている。
急がなきゃ!
俺は体をくねらせ、汗ばんだTシャツを背中から剥がした。裏返ったTシャツが俺の頭を覆う。頭を出そうと俺はTシャツを持ち替えようとした。
裾近くを持っていた手を、首穴の輪っかに移そうとした。
「はーい、そこまで!」
誰かが、脱ぎかけてるTシャツを、首の辺りで押さえてる?
グイッ グイッ!
引いてもTシャツは動かない! 脱げなくなったぞ!
「何するんだよ! 脱げないじゃん!」
「脱いじゃダメよ!」
邪魔をしているのは、声からすると、小百合という赤いトゲ紐が巻きつけられて現れた女の人だ。
でも、よく見えない。Tシャツが俺の頭を覆っているから、視界がほとんどない。小百合さんが見えないよ。
邪魔されてるけど、相手は女だ! 足を出してケガさせたら、まずいよな。
押さえているであろう小百合さんの手を、手探りで探すが見つからない。俺の手の動きを見て押さえる場所を変えているようだ。
いいように、あしらわれてるな。
なら、口で反撃する。
「放してよ! 邪魔するなって!」
「それは、こっちの台詞よ。闘いの邪魔をしないでよ。今ローズ様が優勢なんだから!」
「だから、あの子の願いに答えないと! あの子が、葉波先輩が負けちゃうよ!」
俺は別人と思いつつも、桜と葉波先輩が重なってしまう。
「それはローズ様が負ければいいと言うことでしょ。ローズ様の邪魔はさせないわ!」
この小百合と言うお姉さんは、ローズの味方? 桜の敵なのか?
「お姉さんはあんなトゲの紐を巻きつけられてたのに、あのローズという金髪女に味方するの? あのローズから痛い目に合わされてたんじゃないの?」
トゲが服を破いていたぞ。
「好きで協力しているのよ。だから君のTシャツは脱がさないわ」
俺のTシャツを押さえてる手は、全く緩まない。
「俺はあの子、……桜を助けたいんだ。なぜ、Tシャツが必要か分かんないけど、あの子が、桜が欲しいなら貸したいんだよ!」
「君は何にも知らないのね。服が何なのかも。……それなら、これ以上関わらない方がいいわ!」
小百合さんは事情を知ってるようだ。
でも、細かいことは後だ! 俺は桜が心配だ!
「嫌だ! 俺はあのローズに痛めつけられたんだ。桜を助けるんだ! それに、桜が負けると、次は俺の番だよ」
グイッとTシャツを引いてみた! でも、小百合さんは脱がさないように、まだ押さえている。
「あなた自身がやられると思うんなら、逃げればいいじゃない! 今のうちよ! 逃げるんだったら、放してあげるわ」
思いもよらないことを言ったぞ! でも、俺には逃げるなんてできない! 桜を、先輩の顔をした桜を、そのままにできない!
「嫌だ! 俺は桜を助けたい! あの子は先輩に似てるんだ。先輩の苦しむ顔を見たくない! それに今は上が裸だよ。早くTシャツを渡さないと、かわいそうだろ!」
胸をさらけ出した女の子が屋外なんて、いいはずがない!
「裸なら、あなたは嬉しいんじゃない? 知っている誰かと似ているんなら、なおさら見たいんじゃないの?」
小百合さんが誘惑の声で囁いた!
■【第二話、ここまで、233段落】
【次回は、第一章 闘う妖精(3/4)です。
振られた先輩にそっくりな桜に、言われるままにTシャツを貸そうとする華図樹。
桜は上半身が裸、早くTシャツを渡したい。でも、ローズに味方する小百合が誘惑する。さて、男として華図樹はどうするのか?】
【これは改訂版です。改訂により改行が増えています。ゆえに、当初の計画より段落数も増えています。旧版はあとがき以降に移しています】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます