花バト!-かわいい花の妖精達がバトルする!

亜逢 愛

花バト! 本編

プロローグ+第一章 闘う妖精

第1話 プロローグ+第一章 闘う妖精(1/4)

   プロローグ


「先輩、好きです! 気持ちが真直ぐな先輩が好きです! 俺と付き合ってください!」


 部活中の部室、俺は勇気をもって立ち上がり、3年の葉波愛美はなみあいみ先輩へ想いをぶつけた。


 俺の名前は夢草華図樹ゆめくさかずき白峰弓ヶ池乙しらねゆみがいけおつ高校の1年だ。

 先輩と同じ文化部に所属している。


 文化部と言っても、本や資料を読むだけの暇潰し部だ。

 俺は松下村塾の本を読むくらい。


 なので、部室は物置の一角、机置き場と化した空き教室だった。

 その机を後方へ寄せて、僅かなスペースを作って部室にしている。


 危険と言うことで、机は平置きだ。

 机を段重ねして、広いスペースは確保できなかった。

 その狭いスペースに部員が使う分のイスと机を並べて、形ながらの部室としていた。



 5月の放課後、俺は、そんなロマンチックの欠片かけらもない、2人きりの部室で告白した。



 長袖の白いセーラー服を着た先輩は、ショートカットで、自信のある笑顔の持ち主、女子運動部の部長を思わせる凛々しい上級生だ。


 試合で先頭に立つようなキャプテンではなく、事務方も卒なくこなす部長というイメージだ。


 でも、ここは、運動部ではなく文化部、先輩は文化部なのに運動部のような先輩だった。


 先輩は真っ直ぐ進むのが好きで、俺の意見はよく蹴散けちらされた。

 でも、それが頼もしく見えて、俺はドキドキするばかりだった。


 カッコいいとは、葉波先輩のためにある言葉だと思うばかりだ。


 そして、付け加えていいなら、胸はちゅうだい、大き過ぎず、小さくなない、標準よりはボリュームがあって、高校生の俺には嬉しいサイズだ!


 その葉波先輩は、俺が告白の声を上げるまで、イスに根を生やして資料を一心不乱に読んでいた。


 俺の声に、先輩はクイッと顔を上げた。その顔には、5月の薄雲と、冷たい窓ガラスのフィルターを、透かして抜けた淡い陽光が、穏やかに当っている。


 先輩の困った心の内が、鮮やかに照らし出されていた。

「わ、私?」

 戸惑う先輩。


 それもそのはず、先輩の日程表には、俺の告白を聞く予定なんて、書き込まれていないのだ。


 それでも、俺は突き進む。

「はい、葉波先輩です。今ここには、先輩と俺しかいません。……俺と付き合ってください!」


「よ、よりによって、こんな時に! そんな、できないわ! 夢草君と付き合うだなんて! とても、今は考えられないし、私には……できない……」


 先輩の声が、あてどもなく泳いでいる。いつも見る頼もしい笑みも、どこへやら、眉間にしわを寄せる有様だ。

 まるで、大人に叱られた年端もいかない少女の顔に、なっているじゃないか。


 予想以上に拒否られてるぞ! 俺は声を振り絞る。

「お、俺が嫌いですか?」


「そうじゃなくて! そう……じゃなくて! そうじゃ……なくて!」

 先輩はなんとか、理由を探そうとしているが、うまい言い訳が見つからない。


「ごめんなさい!」


 ガサガサッ! タタタッ!

 先輩は読んでいた週刊誌を、雑な手つきでバッグに入れるや、逃げるように部室の出口へ!


 ガラガラッ! ピシャンッ!

 戸を開けたと思ったら、力いっぱいに閉めて、姿を消した。


 ポツンと1人、取り残された俺。


「俺は先輩目当てで入部した。先輩だけを見てて、部活らしいことは、何もやれてないくらいだ。

 ひと月以上過ぎて、ようやく決心をつけて、二人っきりの時を狙ったのに……。

 今、俺の未来が閉じた! 静けさが痛いよ……。

 ……『ごめんなさい』か、きっついな。……帰ろう。今ここに居たくないや」


 俺は重い足取りで、部室を後にした。



   第一章 闘う妖精


 先輩に振られた俺は、心をどこかに置き忘れたようだった。

 フラフラと校内から道路へ出て、その他どこか分からない所を歩いた。



 気がつくと、目の前にブランコ、その奥には木々。

 下を見ると片手で握れるくらいのパイプが尻の下にあった。俺は低い水平なパイプに腰をかけていた。


 どうやら、ブランコを囲む鉄製のパイプ柵に座っているようだ。

「どこだ? ここ」

 振り返って、ブランコの反対側を見る。


 公園だ。

 そこは、宅地と道路に囲まれた知らない公園だった。中央には、よく踏まれた土の広場がある。


 そうだな、バレーボールのコートが2面は取れる広さを持っているだろうか。

 そんな広場の端に、そのブランコはあった。


 さらに見渡すと、ブランコの他には、雨宿りができる屋根の下に寂しく置かれたベンチくらいしかなかった。

 外周はフェンスで囲まれ、その内側に何本か木が植わっているのが、見えるくらいだ。


 夕暮れが近いためか他に誰もいない。ここでも俺は一人だった。


「ここがどこかなんて、どうだっていいや、今の俺にとっては、どこでもいい」

 木々の間から夕日が見えた。


 まだ沈むには早い夕日の赤が、俺には別世界に見える。

 この世の果てで見るような命の赤だった。


 その赤を見つめていると、目がしびれてきて長く見ていられない。

 ギュッと目を閉じたら、俺の意識は薄れてしまいそうだ。


 このまま太陽と一緒に地面の底へ呑まれてもいい、そんなくらいに、俺は落ち込んでいた。



 ガツン!


 突然、背中に衝撃!


 ベチャ!


 俺は地面に伏していた。


 無防備な背中に、何かが当たったと思ったら、次には、目の前が地面だった。

 背中の衝撃は、思いのほか大きかった。


「いっってーーーーーー! いったい何が起きたんだ? ん?」

 俺は体を起こそうとしたが動かない。


「お、重い……」

 何かが俺の背中に乗ってるぞ!


「下の人! わたしのパートナーになってください!」

 上から女の子の声だ。


 突然、ぶつかってきて、俺の背中に乗ったやつの第一声が、これなのか?

「何を言ってるんだ! 早くどけよ!」

 かわいい声だけど、振られた男には、優しさと言う余裕は無いんだ!


「あっ、ごめんなさい」


 俺の背中が軽くなった。

 立ち上がって、すぐに声の主を見た。


 !!!!!!


「先輩! 葉波先輩! どうして、ここに?」

 どういう訳か、先輩の顔がそこにあった!


「え? 人違いです! わたしは桜、桃郷桜ももさとさくらといいます」

 桜と名乗った顔は先輩にそっくり、と言うより本人と同じ顔・同じ髪型だった。


 しかし、服装が違う。

 学校の制服を着ていない。

 丈の短い白っぽい柔道着みたいな服に、白帯を締め、下は短めの黒いスパッツを履き、靴はスニーカー。


 むき出しの黒いスパッツというだけで、男の視線を集めそうだが、柔道着の下には、Tシャツもスポーツブラも着けてないように見える。

 いわゆるノーブラのようだ。


 柔道着の襟が重なる所から垣間見える胸には、先輩と同じくらいに、白くて深そうな谷間が見える。胸の大きさも、先輩と同じくらいありそうだ。


 そんな胸がなんと! ノーブラなのだ!


 柔道の試合のように、襟をつかまれでもしたら、それだけで『こんにちは』と言って、ポロリと出てきそうだ。


 こんな姿、先輩とは対極的だよ。

 本人が言うように先輩じゃない!


 でも、一人の男となって見たら、なんともヤベー姿だよな。

「なんてカッコだよ!」


「わたしのカッコなんてどうでもいいんです! そんなことより、……あの、その、……わたしのパートナーになってください!」


 少々困り顔、眉間のしわも先輩そっくり。俺を振った先輩の顔が、すぐ目の前にある。


 今の俺にはきつい!


 ……いや、待てよ、この子が言ってるパートナーって、なんだ?

「い、いきなりパートナーって、意味が分かんないよ!」


 先輩の顔で『パートナーになって』と、言われるなんて……。

 ちょっとは、嬉しいけど、……やっぱ、切ないよ。



「ハハハ……。逃げ回っても無駄だぞ! 桜!」

 男っぽい女の子の声?


 そんな声が、俺の背中に突き刺さった!

 張り上げた声だからか、ハスキーっぽい高い声。


 でも、力がこもった熱い音だった。


 後ろから聞こえたぞ。公園の中央辺りからだった。

 振り返って見ると、ウェーブがかかった金色の長い髪を、フワリとさせた女の子が立っている。


 思わず、俺の口から声が漏れる。

「く、黒ビキニ! こんな公園で?」


 なんと、金髪の子はHな女王様のコスプレだ!


 着ているのが黒ビキニなのか、黒下着なのかは、俺には分からない。ツルツルっぽい皮で出来ているSM女王様のビキニ下着に見える。


 くびれた腰!

 むき出しの太腿!

 黒いブーツ!

 他の外見も、女王様を引き立てている!


 そして、胸もだいだい

 胸は皮製の黒ビキニの上側から、はみ出そうなくらいだ!

 スンゲー柔らかそうで、みずみずしい胸の肉が、ビキニから脱走しそうなくらいに盛り上がっている。


 なんて、立派な女王様なんだ!


 その女王様の顔は、気高くもかわいいのに、威張ったガキ大将のような、この世に怖いものが無いような笑みをまとっていた。


 公園で女王様姿は、まずいだろう!

 それとも、何かのイベントか?


 いやいや、ここには見物人が俺しかいない。

 なら、コスプレ同好会の危ないプレイなのか?



「お願いです! パートナーになってください!」


 桜だったっけ?

 ぶつかってきた先輩に似た子は、こればっかだな!


「状況が全くみ込めないよ! お前らは何者だ! 2人とも変なカッコ過ぎるぞ!」



「桜! 覚悟!」

 ハスキーさが取れた声の金髪女が、桜に殴りかかる。俺の疑問なんて、お構いなしだ!


 ブン!


 金髪女の拳が空を切る!

 桜は余裕でけていた。


「なんだよ! 暴力的だな! かわいい女の子同士なのに……」


 バスッ! ガスッ!


 金髪女が続けて攻撃!

 桜が防御!


 危険だ!

 俺は数歩離れて傍観者。


「ローズ! パートナーが見つかったの! 力を分けてもらってから闘いたいの!」

 桜が金髪女に言い出した!


 おいおい、パートナーって俺のことか?

 なるなんて、俺は一言も言ってないぞ!


 でも、2人は格闘モードに入ってる。例え会話でも、割って入れそうにない。

 今は見てるだけにしよう。


 金髪女は、軽く攻撃しながら、ズンズンと桜へ踏み込む!

 桜は防戦一方!


「ローズ! パートナーが見つかったの!」

「時間がない! 今の桜で十分だ!」


 バズッ!


 金髪女の本気パンチ!

 桜はいなす。


 グガッ!


 桜が反撃!

 金髪女の顔にパンチがヒット!

 上半身が僅かにのけぞる。


 桜は防戦から攻勢に出た。

 言っても聞かないと思ったようだ。


 桜と金髪女の闘いが本格的に始まった。


 ズガンッ! バシュッ! ズンッ! ダンッ! ガガンッ! ジャッ! ダズッ! ビュッ! ザッ! ザザッ!


 激しい!


 2人とも素人には見えない!

 格闘も極めるつもりなのか?

  コスプレ、1本じゃないようだ。


 ガグッ!


 桜は身をかがめたと思ったら、金髪女の軸足へ回転蹴り!


 スタッ! クルッ!


 金髪女はバランスを崩すも、倒れる方向へワザと体を倒し、両手を地面について、一瞬逆立ちになって、その地面を思いっきり突き放す。


 そして、空中で足を跳ね上げるようにして腰を捻って、体勢を整えて方向転換、自身の着地点を桜の身体へと合わせた!

 着地蹴りか?


 スッ!


 桜は、かがめた低い姿勢から体を丸め、両手を地面について、縮こまった逆立ちのような姿勢!


 ザギュンッ!


 着地蹴りで、落ちてくる金髪女の足を、桜はスニーカーの靴底で受け止める。

 そのまま、全身をギュッと伸ばして蹴り返した!


 ビュンッ! ヒュンッ!


 金髪女は再び宙へ!

 伸身のまま、体操選手のように一回転!


 スタッ!


 金髪女は、桜から離れた場所に着地した!


「なんだよ! こいつら! やっぱ、何かのパフォーマンスか?」

 俺は目で追うのがやっとだ。


 格闘素人の俺には、事前に打ち合わせて、練習してきた成果のように見えた。

 でも、拳や蹴りは確実に当っているように見える。

 ただのパフォーマンスには思えなかった。


 戦闘は公園狭しと前後左右に展開していく。

 その中で、俺は違和感に気付いた。


「お互い攻撃が少しずつ当たっているみたいだけど、顔や防御の腕も、きれいなままだ。ダメージは、案外少ないのかな?

 あれ? 花びら?」


 パンチや蹴りが当たった後、その衝撃で花びらが舞っているように見える。

 なんとも血飛沫ちしぶきの代わりのような演出だ。


「女の子から花びらなんて、俺は目がどうかしたかな?」


 戦闘をやっている桜の後姿が、金髪女に話しかける。

「ローズ、もういいでしょ! パートナーが見つかったのよ。あなたも強い相手と闘いたいんじゃないの?」


「時間がないんだよ。オレは桜を倒せば6人目なんだ。早く決着をつけたいんだ」

 金髪女は、桜の申し出を突っぱねる!


「うーん、力がないままだと勝てないよ!」

 桜は困った声、その声を裏付けるように、闘いは桜が押されている。


 攻防のベクトルが変わり、後姿だった桜の顔が見えてきた。

 やっぱ、先輩に似ている。


「先輩が痛めつけられているようで、なんか、ムカつくな!」


 俺はスーッと息を吸った。

「もうやめろ! 危ないぞ!」


 俺は闘いを止めたかった。

 先輩が暴力を振るわれる姿を見たくなかった。


「何だ? てめーは? お呼びじゃないんだよ!」

 金髪女が桜を蹴り倒し、俺に足を向けてきた!


 こっちへ来ようとしてる!

 怒りを束ねた怖い顔!


「相手はわたしです。他の人に手を出さないで!」

 倒れていた桜が、金髪女の足をつかんで止めた。


「やかましい! この! この!」

 金髪女が桜の手を何度も蹴ってる!


 蹴られた桜の手から、ピンク色の花びらが飛び散ってる。

 なぜか、そんな風に見える。


 血飛沫のようで、痛々しい。見ていられないよ。

「女の子同士で喧嘩けんかするなよ! ケガするぞ!」


「オレ達はケガをしねーんだよ!」

 金髪女はおかしなことを言っている。

「わたし達には、闘う理由があります! そんなことより、服を貸してください。上着でいいんです」


 桜も服を貸せなんて言っている。

 ケガなんて気にしてないようだ。



 桜は俺に悲痛な目を向ける!

「お願いです! 上着を貸してください!」


「上着? この学ランを貸すの?」

 俺が着ている上着は学校の制服で、黒い学ラン、いわゆる詰襟の学生服だ。


 俺はこの詰襟を気に入っている。

 正直、貸したくない。

 でも、先輩の顔で頼まれると気持ちが揺らぐ。


 激しい戦闘で、汚れるだろうな。

 きっと俺は複雑な顔をしてることだろう。



「上着を貸してください! お願いします!!」

 痛みに耐える先輩が叫ぶ! 


 いや、違う!

 先輩に似た桜だ!


 別人だけど、先輩の顔で『お願い』なんて、言われたら断れない!


 断れるはずがない!


 服くらい汚れても、いいじゃん!


「分かった! 上着だね」

 俺は上着を脱ぎ始めた。



【第一話、ここまで、250段落】

【次回は、第一章 闘う妖精(2/4)です。

 振られた先輩にそっくりな桜が危ない!

 華図樹は桜に言われるがまま、学校の制服を貸すことにしたのだが、服を貸すと一体どんなことになるのでしょうか?】

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