音が役目を忘れる月で



言葉がはねるよ

ちろろと鳴くよ

つまらない文言もんごん

ひとつひとつが遺言

四方八方が欠けてばかり

でたらめに積み重ねてきた年月に

どうせ捧ぐものなんてなくって

『私ではお役に立てません』と

はねる言葉に

つるりと言われてしまえば

さあ、諦めようか


きみに

あなたに

そっとささやきます

声が役目を忘れる月の上で

ねえ、今宵

音を失った世界にあって

指を伸ばしてもらえませんか

そして歌いませんか


全ての全ては傷だらけ

ひとつひとつを

星明かりに溶け込ませて

涕涙ているいを忘れぬまま

きみの

あなたの

手を取ることを答えにしよう

音を失った月の上で

過ぎた年月の答えとしよう

決して平らではない月の上で


どうぞ重力を振り切って

誰かが見上げる月を踏みつけて

今宵、忘れ得ぬ喜びを拍動にして

夢が醒めるリクエストはけっこう

僕の

わたしの

手を取ってはいただけませんか?

絡める指が歌になる

声が役目を忘れる夜でも


秘めやかにまたたいて

軽やかな音律で

におやかに愛しましょう


きらやかにためらって

願いを鮮やかに打ち上げよう

つづまやかな夜会に

野花やかを添えるように


もし

わかりあうのに言葉が要るというのなら

そんな答えはなくていい

わかりあえなくて上等の

平らではない月の上

涙は素直に落ちない


でたらめに積み重ねてきた年月なら

足りないくらいでちょうどいい

今宵、諦めにこそ重なる夢として

望みが満ちるリクエストもけっこう


響きあわない月の上

涙なんて!

きみの

あなたの

手を取ることだけを答えにして

何もかもリクエストはけっこう

音を知らない歌が響く

兎のいない月の上


言葉がはねるよ

ちろろと鳴くよ

『そろそろ夜が明けますよ』と

でたらめに積み重ねていく年月

これからも

全ての全ては傷だらけ


胸の奥深くに息づくまま

分かちあわぬままの涙は

僕ときみが

わたしとあなたが

それぞれに持ち帰るのが礼儀


兎はいない

音を知らない月に

指を絡めた歌の残響が絶えない

きみにもあなたにも

僕にもわたしにも

もうすでに遠くの昨夜で

聞こえないまま




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