さあね
さてさて、さあね、と
何がどうでも知らぬ存ぜぬで
振り向くことを忘れたと
ましてや、語り撫でるなんて!
ずるを自分に許したくなることも
やっぱりどこかある
さあね
つんと、知らないふりをして
階段をひとつ飛ばしで上がって
危ないよ、って言われるから
結局、耳に届いてしまうので
ひとつ飛ばしで戻って
そして一段ずつ踏みしめて行く
そんな不器用さに自分で呆れても
さあね、って
素知らぬふりで
結局また見咎められないところまで登れば
ひとつどころかふたつみっつ飛ばしている
そんな人の生きざまへの拙い反骨を
どこか諦め混じりに
さてさて、さあね
派手に転んじまったら
自分だけのことで済まないと
重々承知のくせ
卑怯と怠慢、そして逃避、諦念
ずるなんかじゃないさ
正しい名前をつけてやる
正当性なんて見つけられない
振り向くかどうかでなんて
何の成算も生まれやしない
そんなこんなを是非に及ばずと認めたら
どうしたってずるの悪者で
今さら階段をひとつずつ?
もう十階建ての十階だってのに?
建て増しをするってんなら
きっと金槌で指を打つよ!
だってそんなの簡単の至極で
望みにそのまま嘘をつかなければ
それでいいだけ
けれどつい、ずるを選んでしまう
本当ってやつは怖いから
それでかわしたつもりにもなれないや
余計に傷が深くなるだけだと
重々承知のくせ
呆れて気にするくらいなら
最初から振り向いて
振り向きながら前を向いて
手を取り合って
一段ずつ上がればいいのに
そんなに器用じゃないよ
おそらくね
少なくとも
目は前にしかないのだし
さあね、って
押し通そうとして
ちょっとばかり強がってみたって
こう狭くちゃ逃げ場もない
きみの瞳の夕霧に捕まる
セルリアンブルーの声音に絡め取られる
潤んでいるね
僕がずるを求めるうちに
どこか、なりきれないでいるうちに
きみはすっかり板についてる
知る存ずる、一段さえ上れないと
さあね、で済むものなど
ちっともこの世にないとばかり
本当のそのままを
きみはどこかに隠したまま
上れれば気が済むなんて嘘だろう?
余計に傷が深くなる
ねえ、ずるの先輩さん
やり方をご教授願おうだなんて
思いやしない
知らぬ存ぜぬ混じりに
無理を承知で言おうじゃないか
十階建ての十階まで来ておくれよ
たったひとりで、その足で
僕が金槌の扱いを心得る前に
きみが無事に辿り着けたら
僕はきみに振り向いて
振り向きながら下を向いて
きみと手を取り合って
一段ずつ下っていくよ
それしかできない
立派にずるいかな
さあね
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