Minuet in Q-flat minor : Rondo-Sonata form Op.8107 1st mov.
ねえ、踊りませんか
何を何ともわからぬままに
さあ、踊りましょうよ
何を何とも知れぬままに
だって、踊らなきゃ嘘でしょう
あなたを誰とも呼ばぬままに
踊らなくては
では、何のために?
踊らずにいて何かあるとでも
踊ったところで何か変わるとでも
それなら
だったら
まるで、踊らなきゃ損でしょうよ
人生はメヌエット!
そしてあろうことかロンドソナタ!
何もかも燃えてしまっては
気づいていらっしゃらない?
何もかもとうに
焦げ屑として
あなたは崩れる灰の縫いぐるみを抱いては
毎夜の
あなたが胸に抱く永遠と声と命は
とうに煙として空に流れたのに
気づいていらっしゃらない?
灰燼の舞台で!
どうぞ踊るだけ!
手を繋いで
あなたを誰とも呼ばぬまま
呼ぶ気もないのです
呼ばれるつもりもないのです
互いの名前だって
炎が忘れさせてしまった
偽りの名を呼ばせないでください
偽りとして名乗らせないでください
燃え残った指先ひとつで
くすんだ灰色の化粧で
ひたすらに巡る舞踏
だって
まるで
この世界にはそれしかない!
踊らないのですか
阿呆のように見えるでしょうか
灰の縫いぐるみを抱くあなたを
あなたが毎夜見る夢がまさに素敵であるなら
この燃え殻の世界もなかなかに上等で
踊ってみたくもなるから
それで愉快かどうかなんて
踊って気が晴れるのかなんて
そんなの決まって知れたこと!
ちっとも!
これっぽっちも全く!
ゆるやかに
形式を尊重するのが美徳
死灰に綾取られる舞曲は
その一切が
らりるれろとへめヱれゑ
ドレミファならいろは歌
そんな具合に歪の歪なら
踊ってみても正気の常軌
ゆるやかに灰に成り行く
それが世界で命であれば
踊らなきゃ大嘘でしょう
誰に聞いても答えは同じ
ちっとも! 全く全然!
ほんの少しも
形式を尊重するのが美徳
踊りの合間の息抜きは座興
当然ちっとも!
明日は息をして嘘を吐くから
これっぽっちも!
隠れて消える苦悩を嫌悪のうちに恋うよ
全く全然!
さすらう詩人の
すばらしいよ
世界を見せては
そんなものどこにもないと一蹴する
正しさに
抵抗を止めるな
いつまでも湿ってはいられないね
正しさに痴愚を積むがごとくに
手を取って
これっぽっちの踊りだって
燃え殻の注ぐ煙の都で
どうぞ踊るだけ!
ご覧いただけますか
残り火で暖まるなど夢のまた夢
見えませんよ
あなたの顔なんて
その瞳ならなおのこと
泣いているのか笑っているのか
わからない
結ぶ手で
せめて生きていることを教えて
ねえ
ちっともでしょう?
これっぽっちも?
せめて結ぶ手で
ねえ、踊りませんか
何を何ともわからぬままに
さあ、踊りましょうよ
何を何とも知れぬままに
きっとこの世はいつだって
いかなるどんな瞬間も
今がまさに世界の終わり
それなら何をどうしたところで
燃え殻が注ぐね
きみの縫いぐるみはとうに灰になっているよと
僕が教えてやれないのと同じように
煙が目に痛いね
この世界が美しくも淫らで
踊らずとも愛する価値があるのだと
きっときみは言えないでいるんだろうな
くすんだ灰色の化粧で
ちっとも
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