どこへ行こうか(抜け殻のままで)
煙草の吸い殻を増やすことばかり得意な抜け殻
いよいよもって秋も深まり
さあ、どうだい
きみの季節ではないのかい
背中に傷痕はひと欠片も見当たらず
それでいて中身はとうに空っぽ
何らの羽根があるではなく
殻を破れば息絶える
そして夏は終わった
なればこその
きみの季節ではないのかい
鳴いてみろよ
それができるものなら
どこへ行こうか
いずこなりとも
中身の消えた
とうに土に果てているはずの
抜け殻ならば
さあ行こうか
いずこともなく
すっかり忘れてしまっているものが
きっと数えきれないばかりにあって
例えば、あの日々に好んでいた煙草が
どのようにして口に合っていたかなんて
今さらだから
どこへ行こうか
いずこなりとも
とびっきりに愉快で
さじ加減で悲しくなるやつを
ひとつ頼むよ
抜け殻のチップを抜け殻は拒まない
行方知れずのピアノ弾き
指の触れぬ黒鍵と白鍵の合間に
ちょっとばかり弾んで
硬貨を置いたよ
決して弾かれやしない名曲を
聞いている心持ちで
さあ行こうか
いずこともなく
何を見るために?
何を聞くために?
行くつもりか
とうに見ているじゃないか
とうに聞いているじゃないか
何を成すべくして?
何を得るべくして?
行くつもりなら
去るつもりなんだろう
何を成せなくなるかわかっているか
何を失ってしまうのか承知でいるか
いずこなりとも
いずこともなく
抜け殻の放つ言葉が示す
どれほどの
わかりっこない
気づけば踊らされている
主人を失った鍵盤を
僕の言葉が揺り動かして
まるで見事に
けちのひとつもつけようがないほどに
抜け殻の身動きは
鍵盤は高らかになめらかに
月との恋を歌いあげているのに
求めたい手は
絡めたい指先は
はっきりと見えるのに
どこへ行こうか
ねえ、どこへ?
身を失った抜け殻のほら吹き
いくら鳴けずとも
月から転げ落ちるほどに無様であろうと
きみが人でなくなる日は永遠にやってこない
命でなくなる日なら
どの道を行こうとも待っている
人であることから逃れられずにいて
どこにも進まずにいようだなんて
ましてや抜け殻には
選べやしない
いずこなりとも
どこへ?
いずこともなく
どこへ?
抜け殻のまま
鳴いてみせたいと
そう思っていることだけは
わかるほどにわかる
人であるばかりの抜け殻は
嘘ばかりを積みあげて
あの煙草がどう口に合っていたかは
今さらでも
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