第2話 いつものパターン
一日の仕事が終わった。
今日は同行していた先輩に、遅くなったので直帰していいと言われた。
ただ伸と一緒にどこかに行くかもしれないと思い、会社へ戻る電車へ乗っていた。
「先に帰るわ」
猛からのメールだった。
猛は都内で一人暮らしをしている、自炊をしないので毎日必ず誰かとご飯を食べに行く。
付き合いだしてから最近までずっと私と食べていた。
外食にいったり、私が猛の家に作りに行ったり。
メールが届いたということは、私とは食べないと言うことだ。
「誰かとご飯いくの?」メールを返した。
電車がガタンゴトンと音を立てながら猛スピードで進んでい行く、まるで猛のところまで急いで連れて行ってくれているようだ。
電車の勢いとはうらはらに猛からのメールは一向に届かない。
「どうせ女の子でしょ」
思わず声に出して言った。
こんな日は家に戻っても考えてしまうので戻りたくない。
「今日は残業しますか」口から言葉がでた。
電車から眺める夕焼けはとても綺麗で、ここが東京の真ん中だということを忘れさせてくれる。
到着まで後何駅だったかな、そんなことを考えながらドアにもたれながら窓の外を眺めていた。
電車が止まりいつもの駅につく。
仕事はもうしたくないけど、家にも帰りたくはない。
突然女友達を誘う気にもなれない。
しぶしぶとオフィスへ向かった。
「そうだ!残業するのに何か買っていこう!」
オフィスで残業する人も少なくはないが、新人の私が残業するのは先輩から頼まれた仕事が終わらなかったり、チームでこなしている仕事が期日に間に合わないから皆で頑張ろう!というような時にしかしたことがなかった。
そもそも新人が残業できるのかもわからなかったが、兎に角オフィスへ戻る前にお菓子を買って帰ることにした。
なんだか新しい事を経験できるかもしれない変なワクワク感があった。
エレベーターで20階につき、オフィスに入ると珍しく1つ上の先輩しか居なかった。
「お疲れ様です」
そっとドアを閉める。
「あれ?彗ちゃん?どうしたの?まだいたの?」
一つ上の先輩 戸上さんだった。
「はい。あのー何か手伝うこととかないですか?」
戸上先輩はニコッと笑って、私の頭をポンと叩いた。
「なんかあったの?大丈夫?」
屈託のない笑顔で笑う先輩は笑うと刃が出て更に可愛らしい青年みたいになる。
猛と同じ野球青年で色黒でいつもお洒落だった。
「いえ。大丈夫です。ちょっと仕事したいなーと思って」
「そっか。じゃ飯いく?」
戸上先輩は、またにっこり笑ってスーツのジャケットを羽織った。
「俺はもう終わったし、新人ちゃんを一人では残せないんでね。飯いこ」
そういって、早々と帰り支度を始めた。
ぼーっと突っ立っている私の方向を出口のドアへむけて、背中を押して歩き出す。
私はそのまま、出口をでてエレベーターに乗った。
「何?お菓子買ったの?」
コンビニの袋を見ながら冷やかすように笑った。
「いえ。これは家で食べようと思って」
慌ててカバンの中へ押し込む。
「ふーん」
先輩は面白そうに笑いながら、エレベーターの開くボタンを押して、
もう片方の手で私を促し
「どうぞ」といった。
「あっ。すみません。」
慌ててエレベーターから降りた。
会社の近所にある焼き鳥やさんに入った。
先輩はなれた様子で注文をし、大きな声で
「おつかれーかんぱーい」と言って、私のグラスにぶつけてきた。
私は慌ててグラスを掴み負けないくらいの大きな声で
「かんぱーい」
といった。
先輩が笑いだしたので、私も思いっきり笑った。
これが私と先輩との関係の始まりだった。
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