第3話 信頼

 楽しかった時間はあっという間にすぎて、終電ぎりぎりの電車に慌てて飛び乗った。

 お酒もご飯もこんなに美味しい!と感じたのも久しぶりだった。

 少し猛への後ろめたさもあったが、あのまま一人でいたらストーカーのようにメールや電話をしてしまいそうで怖かった。

 猛が悪い。

 そうだ猛が悪いんだ。

 付き合った当時みたいに、私優先で過ごしてくれていたらこんなことにはなっていない。どうして男は、付き合いだした当時と慣れてきたときと態度が変わってしまうんだろう。

「信頼関係ができたから」

 と言われたこともあったが、果たしてそうだろうか?

 飽きてきたから。

 自分に気持ちが100%向いたと感じたからではないのだろうか。

 こちら側としては、告白されて付き合いだして大好きになってきたところで態度が変わってしまう。ということを繰り返していた。

「だから半年周期なんだよね」

 私は電車から見える夜景を眺めながら、誰にも聞こえないくらいの声でつぶやいた。


 電車から月を眺める。

 夜空に浮かぶまあるい月、満月だった。

 今日からまた何かが変わってしまうかもしれない。そう感じた。

 猛が悪いんだからね。


 電車の窓から流れる景色を見ながらもう一度つぶやいた。


 コートのポケットに入れていた携帯がぶるっと震えた。

 きっと猛からだろう。

 私はポケットの上から動き続ける携帯をそっと抑えた。

 今は話したくない気分だった。


 電車は真っ黒な世界をまるで二つに裂くように猛スピードで走っているように見えた。まるで私の心の中みたいだなと感じた。

 電車を降りたくらいでまた携帯がブルブルと震えていた。

 話したくないそう思った。


 改札をでて自宅まで徒歩10分ほどのところに我が家はあった。

 生まれてからずっと住んいる家。

 ご近所の皆さんとも顔見知りで通勤する朝なんかは挨拶をしながら駅まで向かうくらいだ。

 今は皆寝ている時間なのでどの家も真っ暗だった。

 戸建てが密集しているので、歩いている靴音がカツカツと響く。

 近所に響かないようにそっと門扉をあけて中に入った。


 我が家は比較的遅くまで起きているので、リビングに明かりがついていた。

「ただいまー」

 靴を脱ぎお気に入りのスリッパを履いてリビングへ向かう。

 リビングの扉を開くと、まだ大学生の弟がテレビを見て楽しそうに笑っていた。

 私に気付くと にやり と笑い。

「彼氏とデートですか」

 と冷やかすように笑った。

「残念ー今日は先輩と飲みにいってました。」

「ふーん」

まるで関心がないようにテレビへと集中しだした。

「そうなのよね、先輩とご飯に行ってました。」

私はテレビを見ている弟に語り掛けるようにそういって、二階の自分の部屋に戻った。


なんだか疲れたな。お風呂に入って寝ようと思ったらまた携帯が鳴った。

猛だった。

迷ったが後でややこしくなるのも嫌なので電話に出ることにした。

「もしもし?」

「やっと出たよー。何してんの?」

「え?今帰って来たところだけど・・・どうしたの?メールの返事もなかったし。」

一瞬間が空いた。

自分が返信もせず私をほっておいたことを思い出したのだろう。

「友達と飲んでて全然気が付かなくてさ」

「ふーん」

「彗こそこんな時間までどうした?」

「たまたま会社に残ってた戸上先輩がご飯行こうっって誘ってくれていってきた。」

「戸上先輩と?」

「うん」

「・・・」

急に黙ってしまったので、私も何を話していいのかわからなくなる。


「どうしたの?明日も早いしもう切るね」

そういって猛の返事を待たずに電話を切った。

疲れている日は喧嘩をするものしんどい。

もう少しで電話を掛け続け、結果怒られる状態の喧嘩をずるずるとしていた自分が

今では違う男性とご飯にいき気持ちに余裕がでて、相手の態度も気にせずに電話を切れる。

そう悪いのは猛なのだから。


私の気持ちを違う方向に動かすようなことをする猛が悪いんだ。

私はベッドの上に置かれた少し寂しそうな携帯を見ながらつぶやいた。

「もう手遅れかもよ」





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