男を信じられない女

卑弥呼

第1話 恋愛

 恋愛はいつも突然現れる。そう突然に。

 そして突然消えて、ふと突然復活する。


 まだ吐く息が白く見えるくらい寒い日だった。

いつものように会社へ向かう準備をし、いつものように会社へ出勤する。

 お洒落なオフィス街の一角に私の勤める会社のビルもあった。

 同じようなメンバーが乗った通勤電車から、オフィス街に努める同じようなメンバーが雪崩のように電車をおり、工場の制作過程の商品のようにベルトコンベアーで流されているかのようにゆっくりと歩き改札へ移動する。

 改札からは、小鳥が巣立つように様々な方向へ向かって歩き出す。


 社会人一年生の私は、周りの人たちよりも少しは張り切って自分のオフィスへめがけて歩いていた。

 田中 彗。短大を卒業したばかりの21歳。

 明朗活発という言葉がぴったりな、元気で気が付く女性だとよく周りから言われていた。

 自分自信でも人に気に入られる方法や立ち回るのは上手いほうだと自負していた。


 営業部に配属されていたので、スーツにヒール。

 見かけはそこそこいけていると思っているので、歩き方も自然と「できる女」風に歩いてみる。


「おはよう。このまま歩いてたら会社つくの遅くない?先輩先にきちまうぞ?」

 背後から突然声がしたので、思わず「きゃ」っと声がでる。

「びっくりするから突然話しかけないでよ」


 同期の猛は、長身で色黒。昔から野球ばかりしてきたスポーツ青年だ。

 モテルオーラ全開の猛に、同期の研修で告白されて付き合うことにした。

 理由は同期の中で一番イケメンだったからだ。


 彼氏は居たが、丁度半年目に差し掛かり嫌気が差していた時だったので、きちんとお別れして猛と付き合うことにした。


「ほらいくぞ」

 私の手を取りぐいぐい引っ張っていく。

「見られたら恥ずかしいからやめて」

 ぱっと振り払って、先を歩いた。

「なんで恥ずかしいの?」

 私は立ち止まって振り返り、きっと猛をにらんだ。

「もう学生じゃないんで」

 そういって、足早にビルの中へ入っていった。


 突然 当たり前 のことを言われ、呆然と立ち尽くしていた猛も我に返り、

 慌ててビルの中に入った。


 オフィスはビルの20階にあり、市内の景色が一望できるので気に入っていた。

 オフィスには15人ほどの社員が働いていて、営業をするメンバーが配属されていた。

 私のデスクは窓際にあったので、気持ちが滅入ったりしたときは5分ほど景色を眺めることもできる。

 そんなオフィスが気に入っていた。


 新人なので朝は先輩たちよりも早く出社し、全てのデスクを拭いたりゴミを集めて出しに行ったりする。

 このオフィスには、私と猛の二人が新人として派遣されていた。

 IT関係の会社だったので、新人採用人数も多く各支店に男女二名づつ派遣されていた。

 研修でカップルになった男女を同じ部署に配属してしまったなんて、社長は思いもしないだろう。


 新人研修から付き合いだして、猛との付き合いも4か月目に突入していた。

 私は今まで彼氏との交際期間が半年以上もったことがない。

 自慢できることではないが、男は大体付き合いだして慣れてきたころ=半年ごろから正体が出始める。

自分のものだと確信できたら態度が変わる。


 付き合い初めは、こちらの希望を最優先にしてくれるし、もちろん友達との付き合いよりも私との付き合いを優先してくれる。

 送り迎えが必要でない場合でも、送り迎えをしてくれたり電話もメールも頻繁に送ってきたりする。

 ところがどうだろうか、私が彼氏に夢中になり出したころ・・・

 男は態度が豹変する。

 それが魔の半年サイクルだ。


 猛と付き合いだし4か月。

 先週の猛が言った。

「来週さー大学の飲み会があるからいくわ」

 私は答えた。

「ふーん。いったら?」

 付き合いだした当初はどの付き合いも断って参加しなかった。

 常に一緒に居たいといって、傍にいた。

 こいつもいつもの感じだな。そう思った。

 お互いが信用しあい、お互いの時間を大事にする。それって本当だろうか?

 むしろ必要な事なんだろうか?と思う。


 結婚している相手なら理解ができる。

 信頼しあっているから、お互いの自由な時間も信頼しあって邪魔っしないでおこう。

 でも付き合っている段階で、お互いを信じて自由に?何を?誰の為に?

 お互いの為に、自分たちの時間も大切に?だったら一緒に居なければいいんじゃない?


 そう思えて仕方がない。

 他人同士でなんの証明書も繋がりもない二人が、お互いを信じて自由にしましょうって?

 そんなことありえない。

 そんなこと信じたりしない。


「男の嘘にはもうあきあきしてるから。」

「え?何?」

 ふと振り返ると猛が雑巾をもったまま立っていた。

「ううん。聞こえた?」

 思わず声に出していってしまっていたようだ。

「いや、ぼそぼそ言ってたからなー。そっち全部拭いたの?」

「うん。終わった!ゴミ出してきてくれる?」

「えーいつも俺じゃん。一緒にいかない?」

 私はクスっと笑って、ちゅっと彼にキスをした。

「はい。これで行ってきてねー」

 猛は嬉しそうな顔をして、飛び跳ねるようにゴミを持ったまま行ってしまった。


 単純だ。そんな単純なところも好きになったところの一つだが、最近猛が私との時間よりも友達や飲み会の時間を求めるようになっていることが苦しかった。


 そう好きになると、束縛したくなる。

 私との時間をもっともっとと求めたくなってしまう。それが怖い。

 付き合い当初の私への時間の使い方と、4か月たった今とでは明らかに違ってきてるのだ。


 その違いが怖くて怖くてたまらなくなり限界がきてしまう。







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