冬と春



「少し落ち着いたからしら?」



 大家さんが作ってくれたココアを少し飲む。泣いていたわたしを大家さんは優しく自分の家まで連れてきてくれた。

家が近くだからよって行きなさいと言われて、わたしは今ここに居いる。


 大家さんの家は平屋のかなり古い建物だった。外観は年月の重みを感じずにはいられないが、中に入ると白を基調とした洋風な造りになっていて、家具もカントリー風な優しい色合いで統一している。なんだかそのギャップが凄く心地よく感じた。


「いきなり取り乱したりしてすみませんでした。もう大丈夫です」


 秋のことを思い出すとまた泣きたくなってしまう。今は出来るだけ考えないようにしなくては。これ以上羞恥を晒すのは避けたい。


 安心してもらおうと、無理やり笑ってみようとしたが笑顔が引きつってしまった。

 大家さんはそんなわたしを見て眉を下げる。


「無理しなくてもいいのよ。辛い時は泣いてしまいなさい」


 凄い...。初対面の人にこんなにも優しく接することが出来るなんて。この人は一体どんな人生を歩んできたのだろう。

 わたしはただ、ありがとうございますと返すのが精一杯だった。


「そういえば、一人だけ行き先を知っているようなことを言っている子がいたわね」

「えっ?!誰ですか?教えてください」

「新藤さんって言ってたかしら」

「その人、どこに住んでるか分かりますか?」

「ごめんなさいそこまでは。でも、船見さんに家庭教師をしてもらっていたって言っていたわ」

「家庭教師...」


 秋がそんなことしてるなんて全然知らなかった。わたしは秋のなにも知らない。知ったように思っていただけだったんだ。


「でも、ここら辺の子らしいから調べれば案外見つかるかもしれないわね。わたしも協力するわ」

「ありがとうございます」



 悩んでいた。

秋を探すべきか。だって、なにも、言わないで居なくなるなんて探して欲しくないからそんな行動に出たに決まってる。


 それに、もし会えたとしてもわたしはどうすればいい?もう既に振られてしまっているのだから。


 大家さんから連絡があったのはそんなことに悩んでいる時だった。新藤さんの住所が分かったと嬉しそうに教えてくれた。たった二日で見つけ当てるとは、あのおば様実は探偵なんじゃないか?


 教えてもらったからには行くしかない。





「わたしが聞きたいくらいなんですけど」

「そうですよね」

 新藤みくという名前の少女は怒っていた。その怒りをわたしに剥き出しにしている。

勘弁して欲しい。

「受験に受かったから報告しようとしたら連絡つかないし、家行ったら引っ越してるし。」

「・・・」

「あなた、秋ちゃんの友達ですよね?本当に何も知らないんですか?」

「いや、知らないからここに来たわけで」

「ふーん」

「お時間とらせてごめんなさい。もう帰ります」

 玄関で立ち話もなんだし、早く帰ろう。



「あの」


「はい?」


「全然関係ないかもしれないんですけど、秋ちゃん前に海外で働きたいって言ってて。もしかしたらもう日本に居ないかも」


 なにその絶望的な情報は。知らない方が良かった。


「そうですか、ありがとうございました」


 本当に秋には振り回されっぱなしだ。

 それでも好きという気持ちは薄れない。

 わたしはどうかしている。

 この気持ちが消えるまでわたしは秋を探し続けよう。何年経とうと。この気持ちが消えるまでは。


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