エピローグ

ハッピーエンド



 結婚式に参加するのは何度目だろうか。豪華な食事に大きなケーキ。きっと、あそこに飾ってあるタワーケーキも凄く高いんだろうな。幾らかな?

「さな、何ぼーっとしてんの?そろそろ御色直し終わった奈穂戻ってくるよ」

「ごめんごめん」

 奈穂は7年付き合った彼氏と今日結婚した。凄いことに、奈穂は初めての彼氏とゴールインを果たしてしまった。わたしは大学生の頃から奈穂達が付き合っていたことは知っていたけれど、相手の人と会ったのは今日が初めてだ。身長はそこまで高くはなかったが、顔立ちも悪くは無く、いい人そうだった。 奈穂、ずっと彼と結婚したがってたもんね。よかったね。

 メインの肉料理を食べ終えた里美がワインを一気に飲み干した。

「あーあ、嫌になっちゃう。この間、高校の友達の結婚式行ったばっかりなのに。本当に何なの、この20代後半の結婚ラッシュは!」

 そうなのだ、25歳を超えたあたりから結婚する友人が続出し始めた。

 まさに、結婚ラッシュ。わたしたち残りもの組には痛い現実だ。

「そんなこと言って、どうせ里美も直ぐ結婚しちゃうんでしょ?」

「んー、出来ればしたいんだけどねぇ」

 里美らしくない弱気な言葉。少し違和感を覚える。

「里美、なにかあった?」

「うんん、なにもないよ」

 無理に笑った顔が更に違和感を強めた。

 でも、深く聞けない空気をなんとなく感じる。それに、里美と会うのは約二年ぶりで知らない事が多すぎた。まずは、空いてしまった二年を埋めるところから始めなければいけない。

「今、里美恋人いるの?」

「いきなりどうしたの?いるけど」

「なんとなく。ねぇ、どんな人?」

 ワインを一気に飲んだせいか里美の顔はいつもより赤かった。そう言えば里美ってお酒弱いんじゃ無かったっけ?昔、里美の家に行った時潰れてた気がするんだけど。大丈夫かな?

「すごく優しくて、かわいい人」

「へぇー、珍しいね。前までなんか、マッチョな感じの人ばっかりだったのに」

「そうだっけ?でも、本当はかわいい人が好き」

 へへへー、と笑う里美は完全に酔っていた。

「そう言う沙生は彼氏いるの?」

「わたしは...」

 言いかけたところで照明がおちる。どうやら花嫁の再登場らしい。

 里美が一眼レフを構える。酔っているはずなのにカメラはバッチリ構えていた。素晴らしい。わたしも里美にならって携帯のカメラを花嫁に向ける。

 真紅のドレスを纏った奈穂は童話のプリンセスみたいで凄く綺麗だった。



「ちょっと、里美起きて!」

 二次会に移動してから一時間をすぎた頃、わたしの隣で完全に里美は潰れていた。

「どうしよう。もう家に帰らせた方がいいよね?」

 奈穂が困った様にわたしを見る。

「そうだね。里美の家どこかわかる?わたし送ってくよ」

「確か、私が前に住んでたところの近くだったはずなんだけど」

「お財布の中に住所分かる何かないかな?」

 人の私物を勝手に漁るのは気が引けるが、この場合は仕方ない。ごめん、里美。

 里美の財布を確認する。大量のカード、カード、写真。

「わー、かわいい人だね。友達かな?」

 写真には里美と知らない女の人が映っていた。とても仲が良さそうに。こんなに幸せそうな里美の顔をわたしは見たことがない。

 わたしはそっと写真を財布に戻した。

「友達だね、きっと」

「あ、住所発見!」

 奈穂はひらひらと個人情報の塊を見せびらかしてきた。こらこら、と思いながらもそれを受け取った。



 東京から里美の家は少し遠かった。もうかれこれ一時間は運転している。まぁ、あと三十分もすれば着くだろうけれど。でもさすがに少し疲れた。車を近くのコンビニに停める。

「里美、トイレとか大丈夫?」

 返事がないため置いていくことにした。

 トイレを済ませ、里美に水と自分にコーヒーを買っていく。

 コンビニから出ると停まっている車はわたしのだけのになっていた。少し外で休もう。

 買ったばかりのコーヒーを一口飲む。体が温まり溜息をついてしまった。そのまま空を見上げる。

 少し乾燥した空気、冷たい空気、それらが魅せる美しい星空。あぁ、今日も変わらずに空はこんなにも美しい。

 もう一口コーヒーを飲む。ずっとこの星空を見ていたい。でも、むりだよね、そんなの。

 そろそろ行かなくちゃ。

 温かい車内に乗り込む。

「里美、水買ってきたよ。飲める?」

「ゆかりぃ、来てくれたの?」

「ゆかりじゃないよ、沙生」

「えっ?」

 里美の顔がみるみる強ばる。名前を間違えたくらいで、そんなに焦らなくても。

「うわっ、ごめん、本当ごめん!」

「大分酔い覚めたみたいだね。はい、これ水」

「ありがとう...」

 車をコンビニから出し、国道を走る。夜遅いため車道は空いていた。この調子ならあと十五分くらいで着くかもしれない。

「なにも、聞かないんだね」

「え?」

 気まずそうに里美が窓を見ながら続ける。

「写真、見たでしょ」

「え、起きてたの?」

「起きるにおきられなくなったの。その後は本当に寝ちゃってたし」

「...ごめん」

「なんで謝るの。いいよ」

「里美から話してくれるまで待ってるから」

 信号が赤になった。ゆったりと速度を落とす。

「ずるいなぁ、さなは。そんなん言うしかないじゃん」

 以前信号は赤のままだ。早く変わってほしい。

「写真見たならわかると思うけど。わたし、あの人と付き合ってるの」

「そっか」

「女の人となんて、おかしいと思うよね?さなにはずっと言うつもり無かったんだけど。ごめんね」

「なんで言わないつもりだったの?」

「え、なんでって。...リアルの友達には知って欲しくないこともあるから、さ」

 里美がそうだったことにも驚いたけれど、それ以上に彼女の本当の姿を見れた気がして嬉しかった。

「別に良いじゃん、誰と付き合っていようと。里美はさとみじゃん」

「さなにそんなこと言って貰えるとは思わなかった。ありがと」

 お礼なんて言わなくていい。だって、これは昔のわたしが言って欲しかった言葉を言っただけだから。




 里美を家に送り届けてから二時間後、わたしはやっと自宅に辿り着いた。はぁーっと息を吐く。早くメイクを落として寝よう。お風呂は明日の朝入ればいいや。バサバサと着飾った服を脱ぐ。

 今日のわたしは少し飾りすぎていたみたいだ。色々と落とすのが大変だった。

「さな、おかえり」

「あれ?起きてたの?」

「なんか物音したから起きちゃった」

「あー、ごめん」

「いいよ。それよりどうだった結婚式?」

「凄く良かったよ」

「そっか、結婚したくなった?」

「ちょっとね」

「じゃあしようか、結婚」

「...いいよ」




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