合コンとかどうでしょう
「合コンのメンバー足りなくて、沙生来てくれない?」
そんなメッセージが、高校時代の友人から送られてきた。
特別仲が良かった訳じゃないのに、何故わたしなんだ。正直、面倒くさいと思ってしまう。
でも、断って後々気まづくなる方がもっと面倒くさい気がする。それに、行ったら案外楽しいかもしれないし、出逢いがあるかもしれない、うーん。
仕方ない、行くかあ。
「いいよー」
と返信した。
「それで、なんであたしが合コン行くことになってんの?」
秋は、はあーっとため息をついた。
実は、合コン参加の承諾をしたら、女の子がもう一人足りなくなったらしく、私に誰か誘ってと言ってきたのだ。
あぁ、 困る。
そんな事頼める相手居ないよ。だって、友達みんな彼氏いるし。
そこで思い出したのが秋だった。
秋とは最初の授業から何回か経ち、結構打ち解けてきた。彼氏が居るとかは知らないけど、何となくいなさそうな気がした。だから、
「いや、秋が良ければなんだけど、他に頼めそうな子いなくて」
「いつも一緒に居る二人は?」
「二人共、彼氏いるから」
「あたしに彼氏いたらどーすんのよ」
「えっ?秋彼氏いるの??」
それはあまり、予想していなかった。
「失礼だなあー、まあ居ないけど」
「じゃあ問題ないね」
「問題大あり、合コンとか面倒くさい」
「そんなんじゃ彼氏できないぞー」
と言いつつ、その言葉が自分にも当てはまりすぎてて、一人笑う。
「別に、今は要らないからなあ」
「そうなの?どうして?」
「だって、無理して作る様なもんじゃ無いでしょ、彼氏とかって」
「まぁ、そうだけど」
私もその意見には同意だ。
でも、新しい出会いを求めることで、運命の人に出逢えるかもしれない。
その確率が上がるなら私は合コンにだって行ってやる。
19年間も生きてきて、運命の人に巡り会えていないのだから、巡り会えるように努力する必要があるのだ、私はきっと。
だけどそれは私の考えで、秋に押し付けることはしたくない。
秋が行きたくないのなら、無理矢理連れていくなんて私には出来ない。
「じゃあ、気が変わったら言って」
「分かった」
秋が駄目だったら、もうあてがない。
私って友達少ないんだなあって、改めて自覚する。もっと交友関係広めなくちゃな。
頑張ろ自分、秋がダメだった位で落ち込むなよと、自分を慰めた。
合コン当日。
結局、一緒に行ってくれる人を見つけられなかった。
仕方がなく、合コンに誘ってきた麻理子にごめん見つけられなかったと連絡した。
麻理子からは
「こっちでも探してみるけど、沙生もギリまで探してみて」
と返信が来た。
秋にもう一度頼んでみるか、いや、流石に一回断られてるし無理だよな。
麻理子には悪いが、もう探すの諦めよう。
「はあー」
「なに溜息なんかついてんの?」
「へ?」
顔を上げると秋がいた。
「秋、どうしてここに居るの?」
「今日二限だけだから、図書館で映画でも観ようかなって思ってたんだけど、一人ベンチに座って黄昏てる沙生を見つけたから」
別に、黄昏ては無いのだけれど。
「っていうか、今日凄いお洒落してるけど何かあるの?」
「合コン」
「あぁ、今日なんだ。結局行く人見つかったの?」
「見つかってません…」
そもそも、秋以外誘って無いし。
「そっかー」
秋は少し考える様に顎に手を当てた。
何だか名探偵コ〇ンみたいだ。
「行こうか、あたし」
「えっ!?」
今なんと…!?
「だから、あたしが一緒に行くよ、合コン」
「本当に!?なんで!?」
あんなに面倒くさがっていたのに、どういう心境の変化があったのだろう。
「行ってもいいかなって、気分になった」
相変わらず自由な人だ。
まあ、理由なんてこの際どうでもいい。
「秋、ありがとう!じゃあお願いね」
「何時からどこ?」
「七時から、横浜のカラオケ」
「了解、あたし一回家帰るわ」
「うん、私はまだ授業あるから後で合流しよう」
「じゃ、後でね」
「本当にありがとう、あとでね!」
秋の後ろ姿が見えなくなってから、行く人見つかったよ、と麻理子にメッセを送った。
秋とは六時半に横浜駅で待ち合わせと約束をした。
そして、今は六時四十五分。
秋、来ないとかないよね?
でも、あの子自由人だしなあ。
それに、秋と学校以外で会うの初めてだし。
普段遊ばない人と待ち合わせをして、相手が少しでも遅れると、約束をすっぽかされたのではないかと不安になる。
我慢しきれなくなって秋にメッセを送ろうとした時だった。
「沙生、ごめん遅れた」
スマホから顔を上げると、悪びれる様子もなくニコニコ顔の秋が目の前に立っていた。
いいよって言おうと思ってたけど、言葉が出ない。
秋の顔をガン見する。
「なに?」
「えっ、いや化粧してるんだなあって思って」
慌てて目をそらす。
「普段から薄らしてたけどね、気づかなかった?」
「全然」
「本当に?それなら、来週から本気メイクで学校行くか」
カラカラと秋が笑う。
「遅れちゃったし、行こうか」
秋はそう言ってカラオケの方向に歩く、人が多く隣に並べない。それに私は少し安心してしまう。
正直、驚いた。
初めて会った時から、端整な顔立ちをしていると思ってはいたけど、化粧でここまで化けるなんて知らなかった。
今日の秋は、凄く綺麗だ。
綺麗な子なんて見渡せば案外いるが、その子達と秋は一線を画していた。
それに身長もあるし、スタイルもいい。
今日の合コン、秋が全部持っていっちゃうんじゃないなんて思ってしまう。
「ちょっと沙生、こんな美人連れてくるなんて聞いてないんだけど」
麻理子が私に耳打ちをしてきた。
久々に再会した友人に向かっての第一声には相応しくないセリフだ。
そんな事言われたって、今の秋を見て一番驚いているのは私だ。
そんな私達二人を尻目に、秋が自己紹介をした。
「K大学の船見秋です、よろしく」
男達が少しざわつく。
秋がほら次、沙生だよと促してきた。
「K大学に通っています、水野沙生です。よろしく」
こんな自己紹介でも、緊張してしまう自分がもどかしい。もう疲れた。
次に麻理子が、いつもより高い声で自己紹介をした。
「神崎麻理子です、S大学に通っています今日はよろしく!」
麻理子の自己紹介が終わり多分、麻理子の友人の女の子が自己紹介をする。
「山本はるみです、S大学に通ってます宜しくね」
「へぇー!じゃあ、船見さんと水野さんが同じ大学で、神崎さんと山本さんが同じ大学なんだ!」
秋の正面に座る黒縁メガネ男が得意げに言う。
その目が秋をチラチラ見ている。
「次は俺らが自己紹介しまーす!」
秋の正面から、黒縁メガネ(中野)、金髪(古谷)、古着男(三嶋)、黒髪ワックス付けすぎ(佐藤)が自己紹介をした。
多分、この人達の名前は明日には忘れてしまうだろう。
黒縁メガネが席替えをしようと提案して、席替えが始まった。
私の隣には三嶋が座った。秋の隣は中野だ。
「沙生ちゃんだよね?俺の名前わかる?」
「三嶋くんでしょ」
「覚えててくれたんだ!嬉しい」
こういう会話は疲れる。秋を見ると結構盛り上がっていた。
面倒臭いとか言ってたのに、楽しんじゃって。
「沙生ちゃん、飲み物何にする?」
ウーロン茶って言いたかったけど、多分この空気でこれは許されない。
「ゆずサワーかな」
席に飲み物が届くと全員で乾杯をした。
ゆずサワーを口に含む。カラオケのお酒だからと舐めていた。
結構強い。
ビールを頼んだ三嶋が、ぐびぐびと一気に飲み干した。
そして、チラッとこちらを見てくる。
面倒くさ。
「俺、ビール位なら10杯はいけるんだ」
「へぇー、凄いね」
恐ろしくどうでもいい。
麻理子を見ると、もう酔っているのか金髪男に寄りかかっていた。
以外だった。
この中で一番美人なのは秋なのに、秋を狙っているのは中野だけに見える。
案外 美人過ぎると、自分に自身のない男は手を出せないのかもしれない。
初対面である麻理子の友達の山本は、黒縁メガネ( 中野)の事が気になっているらしく、ワックス男(佐藤)に中野の情報を聞き出していた。
これ、誰も歌わないしカラオケじゃなくても良かったんじゃない、と思う。まあ、私はカラオケ苦手だからむしろ有難いんだけど。
そんな下らないことを考えていたら
「ねぇ、沙生ちゃんつまんない?」
いきなり三嶋に本音を突かれ戸惑ってしまった。
「そんな事ないよ、合コンとか初めてで緊張しちゃって」
緊張は嘘だが、合コンが初めてなのは本当なので、これくらいの嘘は許されるだろう。
「合コン初めてなんだ、可愛い」
三嶋が肩に手を回してくる。
うわぁ、チャラいなーお前じゃどきどきしないよ、本当に勘弁して欲しい。
でも、手を払うわけにもいかないので、お酒に逃げる。
早く席替えしないかな。
この様子を見ると席替えとか無さそうだけど…。
「沙生ちゃん飲みっぷりいいね、俺、飲める女の子好きなんだよね」
別にお酒が好きなわけでも無ければ、強い訳でもない。ただ、この空間があまりにもストレスで、お酒でも飲まなければ、やっていられないかった。
頭が痛い。
それに、意識も朦朧としてきた。
「沙生、大丈夫?ちょっと飲みすぎじゃない?」
秋の声がする。視界がグニャグニャして、本当に秋かどうかもわからない。
うぅ、気持ち悪い。
「トイレ行ってくる」
「ちょ、沙生大丈夫?」
心配する秋を置き、おぼつかない足取りでトイレに向かう。
トイレから出ると、三嶋が待っていた。
「沙生ちゃん大丈夫?」
「うん、さっきより大分ましになった」
正直、今立っている事が奇跡だと言ってもいい程やばい。でも、ここでは強がらなければいけない気がした。
「あのさ、このまま戻っても沙生ちゃん辛いよね?」
「え、うん」
なんか、嫌な予感がした。
「どっか、休憩できるとこ行く?」
これは、アレだ、私は誘われている。
酔った頭の中に、冷静な自分がやめろという。
これだけ酔っていても理性がある自分に安心して、フッと笑ってしまった。
これを同意と勘違いしたのか、三嶋が腰に手を回してきた。
ああ、気持ち悪い、触らないでと思う。拒否する言葉を発しようとするが、呂律がまわらない。
これはいよいよ不味い状況になっている。
このままホテルになんて連れ込まれたら抵抗できない。
怖くて涙が出てきた。
三嶋は、私の腰に手を回したままタクシーを呼んでいる。
その途端、後悔が押し寄せてきた。
なんで合コンなんて来ちゃったんだろう。
こんな事になるなら来なかったのに。
そもそも、運命の人に出会いたいなんて思わなければ良かった。こんな所に来て、出会えるはず無かったのに。ボロボロ涙がこぼれる。
私はバカだ。
「ばか」
腰にあった熱い手が離れる。
代わりに、手首に冷たい手が重なる。
「飲みすぎ」
聞き覚えのある声がした。
あぁと、さっきとは違う涙が溢れる。
その声に心底安心する自分がいた。
その手がふらふらの私を支える。
「秋ちゃんじゃん?どうしたの?」
「どうしたのじゃないでしょ」
「は?」
「酔った女の子に手出すとか、あんた本当に男?」
「いや、手なんてだしてないし、ただ辛そうだったから支えてただけだよ」
「あっそ、とにかくこの子は酔いすぎ。あたしが連れて帰るから」
「えっ?ちょっとまって、沙生ちゃん俺と休憩しに行く約束してんだけど?」
いやいや!してないし、三嶋の勘違いに怒りを覚える。
「そうなの?沙生」
否定したいが口が使い物にならないので、小さい子供みたいに全力で首を横に振る。
「違うみたいだけど、あんたの勘違だね」
「っ!」
「もう、酔った女の子に手出すなよ」
三嶋の顔が、みるみるうちに赤くなる。
「その女が悪いんだ!合コンに来て、あんだけ酒飲んで、男の前でヘラヘラしやがって!普通誘ってるって思うだろ!?ってか、別にお前とかタイプじゃねぇーし、調子のんなよ?あー、マジ萎えたわ」
三嶋はそのまま店を出ていった。
まだ恐怖で身体が震える私を、秋が抱きしめるように支える。
秋の体温が私の心も暖める、その温度があまりにも心地よく眠たくなった。
でも、まだ眠るわけにはいかない。
これだけは、意識があるうちに言っておかなければと焦る。
「秋、ありがとう」
精一杯の発音でお礼を言った。
しかし、相変わらず呂律がまわってくれない。
お礼すら言えない自分を恥じる。
それでも秋は私を真っ直ぐに見て
「うん」
と、優しく微笑んだ。
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