第25話 まだ見ぬ予言書
その後、ニーナは日記を綴るうちに自らの文字を生み出し、その文字を持って文章を綴るようになる。
文章を書く事ができるようになったニーナがやりたがったのは、小説の執筆だ。以前読んだ、ギルベルトという作家が書いた小説。それが彼女に与えた影響は少なくなかったようで、ずっと物語を綴る事に憧れていたらしい。
ニーナの小説は読んだ者の心を打ち、飛ぶように売れた。そして、これを切っ掛けに読書を楽しむ者が増え、己も小説を書いてみたいと憧れる者も増えていく。
いつしか、新書店も古書店も関係無く、世間に出回る本の内訳に良書が増えていった。
そして、良書が次々と持ち込まれ、次々と売られていく竜王の谷の古書店で、ニーナとドラゴン達は、いつも楽しく働いている。
……と、ギルベルトは新しく製作中の予言書に書き記した。
今書き記した事は、ギルベルトが魔法で見た未来。まだ、実際にこうなると決まったわけではない。未来というものは、ちょっとした事で一気に様子を変えてしまうものなのだから。
だからこれは、今の時点ではまったくの夢物語だ。
だが、それで良いとギルベルトは思う。思ってから、作業机の上をちらと見た。
ペンが転がり、大量の原稿用紙が積み上がっている。
ギルベルトは、作家だ。作家が夢物語を記さなければ、誰が記すというのか。
手塩にかけて育てたドラゴンと、人間の子。その子達が幸せに暮らす未来を夢見て、何が悪いというのか。
「まったく……我ながら無謀な事を始めたもんだと思ったが……どっこい、思わぬ良書だったねぇ」
そう、独り呟いて。ギルベルトは予言書を閉じた。
育て始めた仔ドラゴンや人間の子が思いもかけず愛しくなり、将来を案ずるようになってしまったために作り始めた、ある意味、未来の育児記録。今ではもう、十冊目だ。一冊目はアインスに預けたが、二冊目以降はまだギルベルトの手元にある。……さて、これを一体いつ、どのタイミングで渡してやろうか。
考えながら、ギルベルトはニヤリと笑う。予言書の表紙を撫で、そして楽しそうに呟いた。
「この本の……あの子達の
楽しみだ。楽しみで仕方が無い。
そう呟きながらギルベルトは予言書を机の引き出しに仕舞い、部屋から出ていってしまう。
その後ろ姿を見送ったのは、部屋中に所狭しと並び、積まれている、大量の本だった。
(了)
ドラゴン古書店 宗谷 圭 @shao_souya
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