No.99『魔王には、無敵の結界があるんだったな?』

佐原「ごぼうしか持ってねぇ!」


根岸「……」


佐原「どうしよう根岸、ごぼうしか持ってない!」


根岸「OK、状況を整理しようか」


佐原「うん」


根岸「ここは魔王城で、これからラストバトルだな?」


佐原「うん、魔王はこの扉の向こうにいる!」


根岸「魔王には、無敵の結界があるんだったな?」


佐原「そう、聖なるナイフでしか切り裂けない! あの結界がある限り、全ての攻撃は魔王にノーダメージだ!」


根岸「聖なるナイフは、お前が持ってたんだよな?」


佐原「うん、昨日の夜、夜食を作ってた時点では間違いなく持ってた」


根岸「……そのナイフは?」


佐原「……」


根岸「どこ?」


佐原「流し台だああああああ!」


根岸「出発前に洗い物を済ませておかなかったのか!」


佐原「身奇麗にしてラストバトルに出たら死にフラグっぽいじゃん!」


根岸「おまっ! その理由でゴミ溜め込んでたのか!」


佐原「俺、この戦いが終わったらゴミ捨てるんだ……」


根岸「えぇ……」


佐原「明日、燃えるゴミの日だし」


根岸「……そうだな」


佐原「エンディングの、スタッフロールの後ろでは俺がゴミを捨てる感動的なシーンが流れるんだ!」


根岸「OK、状況を整理しよう」


佐原「うん」


根岸「所持品」


佐原「ごぼう一本!」


根岸「……」


佐原「以上!」


根岸「武器防具はあああああ!」


佐原「……昨日、夜食を作って伝説の兜を器にしたところまでは覚えてるんだが……」


根岸「それも流し台かあああああ! っていうか伝説の兜を豚汁入れる器にすんなああああ!」


佐原「根岸だって、伝説のお茶碗で食べてたじゃないか! 豚汁!」


根岸「いやお茶碗はいいだろ!」


佐原「伝説のお茶碗だぞ! 世界に一個しかないんだぞ! もったいなくてラストバトルまで使えないアイテムだろ!」


根岸「いや洗って何度も使おうよ、お茶碗は」


佐原「なんならラストバトルでももったいなくて使えないけどな」


根岸「いやお茶碗は使おう」


佐原「OK、状況を整理しよう」


根岸「うん」


佐原「伝説のお茶碗は!」


根岸「流し台だな」


佐原「おまええええええ!」


根岸「いや待て、待てって。―――使う予定なかったろお茶碗は、戦闘中に」


佐原「それでも、集めた伝説の武具はラストバトルに持ってくるのが礼儀だろ!」


根岸「いやお前の所持品は?」


佐原「ごぼう! いっぽん!」


根岸「……」


佐原「ごぼうしか持ってねぇ!」


根岸「服はあああああああああ!?」


佐原「ない! ごぼうしかない!」


根岸「おまっ、お前! すっぽんぽんで魔王城に乗り込んできたのか!」


佐原「なんと股間に伝説の剣が!」


根岸「やかましい」


佐原「いやあしかし、よくごぼう一本でここまで来たもんだぜ」


根岸「これまでの冒険はだいたい全部流し台に洗い忘れて来たなぁ」


佐原「どうする? 帰る?」


根岸「そりゃお前、魔王の結界が破れないんだから、向かっていっても無駄死にだろう」


佐原「ごぼうでなんとかなるかもしれない?」


根岸「なにそれ、伝説のごぼうなの?」


佐原「その昔、捕虜にした他国の戦士に食べさせようとしたら、木の根っこ食べさせるつもりかとブチギレされた伝説があるごぼうもある」


根岸「うん、そのごぼうは?」


佐原「一本93円」


根岸「売ってるやつだ……、普通のごぼうじゃん……」


佐原「根岸の武器だって、街で売ってたやつじゃん、普通の武器じゃん」


根岸「いやそうだけどさ、お前のは武器ですらないじゃん」


佐原「……手頃な枝、という逸話を知っているか?」


根岸「なんだよ突然」


佐原「まあ聞け、あるところに小学生男子がいた―――」


根岸「もうわかったよ、その小学生が手頃な枝を拾って武器にしたんだろ」


佐原「つまりごぼうも、武器!」


根岸「食材だよ。なんなら人間が食べるために品種改良した植物だよ」


佐原「ふっ……」


根岸「なんだ」


佐原「……なるほどな、これから魔王は、俺たちに調理される、ってことだ」


根岸「何をカッコつけてるのかわからんが上手くもないぞ」


佐原「上手に料理してやるぜ、いざ進めやキッチン!」


根岸「えぇ何、目指すはジャガイモなの?」


佐原「魔王だよ何言ってんだ」


根岸「ああ、うん」


佐原「扉を開けるぞ」


根岸「無理だろー、最重要アイテム忘れてきてるもん……」





佐原「開かない!」


根岸「ああ、確か話では鍵が必要なはずだが……」


佐原「ああ、こないだ倒した四天王の最後のひとりが持ってたやつか」


根岸「それだな」


佐原「……」


根岸「OK、状況を整理しよう」


佐原「ごぼうしかない!」


根岸「どこやったの鍵は……」


佐原「玄関の靴箱の上ええええええ!」


根岸「自分ちの鍵かよ……」


佐原「忘れないようにと思って、そこに置いといた」


根岸「うん。結果忘れたのか」


佐原「なんなら、ごぼう以外のすべてを忘れてきた」


根岸「すっぽんぽんだもんなぁ、ちょっと気がついてはいたよ」


佐原「なんと股間に伝説の剣が!」


根岸「とりあえず、扉開かないなら、帰るか」


佐原「ここまで来たのにか! 魔王はもうすぐそこだというのに!」


根岸「ごぼう一本で何するのさ」


佐原「扉を開け、魔王を倒せる」


根岸「万能じゃん、ごぼう」


佐原「ネギじゃないよ?」


根岸「万能ネギの話はしてないよ。―――っていうか無いよ、ごぼうにそんなポテンシャルは無い」


佐原「栄養あるんだぞ!」


根岸「栄養はともかく、扉は開けられないし、魔王も―――」


佐原「やってみなきゃわからないじゃない」


根岸「いや何を扉開けようと―――」


ゴゴゴゴゴゴ―――


佐原「開いた!」


根岸「えぇ……、ごぼうを鍵穴に突っ込んだだけで……」


佐原「倒した!」


根岸「えぇぇ……、ごぼうを魔王に突っ込んだだけで……」





閉幕

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