No.94『積分定数みたいなものじゃよ』
佐原『根岸くーん! 助手の根岸くーん!』
根岸「はいはい、呼びましたか博士……ん? ―――なんだこれ……生……粗大ゴミ?」
|
根岸「というか、博士が居ない……。―――また変な発明かな。助手呼びロボとか、そういうたぐいの……。あるいはこの何か、肉塊のようなゴミが博士に違いない。臭いし」
佐原『くさくない! 根岸くんのアホ!』
根岸「……居たんですか。もう少しで博士への思いの丈を込めた暴言の数々を吐き出すところでしたよ」
佐原『あぶね! あっぶねぇ! そんなの聞いた日にはハートブレイクでギザギザハートが事故って死んだのさだよ!』
根岸「……その妙なテンションよりも気になることがあるんですが」
佐原『気づいた? 気づいちゃった? これが、これぞ、これこそが、これってばよ、これじゃんか、令和最初の大発明! つまりは儂エピソードゼロということなんじゃよ』
根岸「なんで……、ああいや、そうですね。何で吹き出しで喋るのかとか、このゴミは何なのかとか、どうして今月の給料の振込みがないのかとか、いろいろ聞くことはありますが、そうですね。―――そういう発明なんですね、わかりました。ではこれで」
佐原『マッチョ! ―――逆だった、ちょっと待って! 興味持って! もっとこう、来いよ! こっち来いよ!』
根岸「……うわあめんどくさいなあ」
佐原『素直すぎる! ちゃんと給料分は働きなさいよ根岸くん!』
根岸「いや今月の給料はまだ振り込まれて―――」
佐原『いいから』
根岸「はぁ……。で、なんで吹き出しで喋ってるんですか。漫画みたいに吹き出しで喋れる発明ですか?」
佐原『のんのんのん』
根岸「違うんですか。じゃあその吹き出しは……」
佐原『ふふふ、さすがの根岸くんでもわからんかね』
根岸「ええ、わかりませんのでおしえてください」
佐原「感情込めてよもっと。棒読みじゃん」
根岸「給料分です」
佐原「わかったよ今月はなんか手当つけるから」
根岸「うっわ全然わかんないです博士! なんですかそのすごそうな発明! 教えてください! 金なら払う!」
佐原『うわびっくりした。え、ええと―――そう、世の中のなんかアレな願望を叶えちゃうのが儂の使命なのじゃよ。これぞ、二次元になれるブレスレットじゃよ! ででーん!』
根岸「……」
佐原『ででーん』
根岸「……二次元に」
佐原『二次元に』
根岸「これ、僕たち、文字だけってそもそも何次元なんですかね? 二次元でいいのかな」
佐原『―――いやそういうメタっぽいのはいいから』
根岸「二次元になれるんですか」
佐原『そう、これで漫画でもアニメでも好きな世界に入れるのじゃああああああ!』
根岸「なんかアレな願望ですね……」
佐原『チノちゃんに会いたかった』
根岸「……」
佐原『チノちゃんに会いたかった』
根岸「真顔で二回言わないでください」
佐原『というわけで、儂のアレな願望を叶えるため、二次元になれるブレスレットを作ったのじゃよ! じゃじゃーん!』
根岸「ちょっと身体ごと横向いてみてください」
|
根岸「うわあ……」
佐原『でもねー、ちょっち失敗しちゃったのじゃよこの発明』
根岸「二次元になれてるじゃないですか」
佐原『うん、あくまでもこれ、二次元になれるブレスレットであって、二次元の世界に入れるブレスレットではないんじゃよ』
根岸「……ああ。コンセプトから間違ってたんですか」
佐原『ぷちこちゃんに会いたかった……』
根岸「いい大人が本気で悲しげだ」
佐原『ぷちこちゃんに会いたかった……』
根岸「二度目」
佐原『儂としたことがなぁ……』
根岸「ちなみに、この……、これは? この、生粗大ゴミっぽいものは今回の発明と関係あるんですか? 捨てていいんですか?」
佐原『ああそれ、それ儂』
根岸「捨てていいんですか?」
佐原『儂だってばそれ』
根岸「捨てていいんですか?」
佐原『いやダメじゃよ、常識的に考えて。―――儂の三次元部分なんじゃから』
根岸「捨てていいですか?」
佐原『話を聞け』
根岸「博士が二次元になったことで、三次元だった頃の博士を構成していた肉とかそういう部分ってことですよね?」
佐原『そうそう。理解はやいね、さすがは助手。要するに積分定数みたいなものじゃよ。微分したらいなくなる』
根岸「捨てていいですか?」
佐原『助手ぅ! ダメじゃろ? ダメじゃろ普通に常識的に一般的な平均にならした思考を持って考えれば、ダメだってわかるじゃろ? 儂が三次元に戻れなくなるじゃん!』
根岸「戻るんですか」
佐原『戻るよ! ……戻して!』
根岸「……はい?」
佐原『もどしてぇ……』
根岸「そのブレスレットで戻ればいいじゃないですか」
佐原『根岸くんのアホ! 何を聞いていたのじゃ! センター試験でマークシートがなぜかひとつズレてることに時間ギリギリで気付く呪いにかかれ!』
根岸「戻れないんですか?」
佐原『これは、二次元になれるブレスレット、じゃよ』
根岸「……ああ。不可逆なんですか」
佐原『タスケテェ……』
根岸「三次元になれる何かを作ればいいのでは?」
佐原『上位次元に上がるのはすっごい難しいんじゃよ』
根岸「二次元になるのは簡単だったみたいな言い方ですね」
佐原『というわけで、なんとかして助手』
根岸「なんとか、って言っても」
佐原『このままだとお給料も振り込まれないぞ!』
根岸「なんでですか」
佐原『ペラペラで静脈認証が通らなかった』
根岸「えぇ……」
佐原『というわけでなんとか! へるぷみー! 助けてくれなきゃあの子が誰かとキスしてしまうよ!』
根岸「……じゃあ、とりあえずこれで」閉幕
佐原『え、閉じちゃうの? 大丈夫なの?』
根岸「まあ、次回までには戻ってるでしょう、たぶん」
佐原『だといいなぁ』
根岸「閉めますよー」
閉幕
閉|幕
閉幕
閉|幕
閉幕
閉_幕
閉幕
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。