No.90『有料課金ダウンロード謎の発光体』

根岸 佐原 登場


根岸「ちょっと待って」


佐原「なんだいきなり。右のお尻だけ暗闇で光るようになったか?」


根岸「なにその面白機能。いや違う。なんだアレ」


佐原「アレって何さ」


根岸「上の、アレ。セリフじゃないやつ」


佐原「どれ?」


根岸「一番上のやつ、根岸 佐原 登場、ってやつ」


佐原「ト書き、かな?」


根岸「……なんで急に」


佐原「ああ、そういうことか。―――そうそう、課金してみたんだ。有料ダウンロードコンテンツってやつだ」


根岸「……課金?」


佐原「そう、課金。課金アイテムだな、上のアレは」


根岸「え、何、そういうアレなの? これ。ゲームか何かなの?」


佐原「課金するといろいろなアイテムが買えるんだぞ?」


根岸「……え、いや、すごい普通のこと言ってるよね? お金払ったらいろいろ買えるよね?」


佐原「だが俺たちはデータだ! ただの文字の羅列だ! もちろん課金アイテムもデータ! ただの文字列!」


根岸「身も蓋もない」


佐原「一文字2バイト! 俺も根岸も4バイトの存在!」


根岸「それ、最近そうでもないらしいよ?」


佐原「そうなの?」


根岸「よくは知らんけど」


佐原「ふうん」


根岸「……」


佐原「……」


根岸「まあ……課金ねぇ……」


佐原「時代の流れってやつだね。ユーザーがゲームの完成度を買う時代」


根岸「ってことは、じゃあ何、誰かこれ読んでる人が課金して、アイテム買ってくれたの? みんなが課金するとちゃんとした小説になるの?」


佐原「ならない」


根岸「違うのか」


佐原「俺が買ったの。自分で」


根岸「登場キャラ自身で、自分の出てるモノに課金したのか……なんだそれ」


佐原「セルフサービス」


根岸「ゲーム内通貨で有料コンテンツ買った感じなのか」


佐原「まあ、ちょっと見栄えがよくなったろう? 無課金とは大違いだぜ!」


根岸「……↑」


佐原「……↑」


根岸「いや、もうスクロールの上のほうに行っちゃって見えないぞ」


佐原「なんてこった!」


根岸「無駄な課金だったなぁ……、いくらだったの?」


佐原「20円」


根岸「やっす」


佐原「しかしああ! ああしかし! 一度課金をしてしまった身体はもう歯止めがきかないのであります! ぽちぽち……」


根岸「え、何、スマホでぽちぽちするとコレに課金できるの? そんなシステムなの?」


佐原「ふ、ふへへ、課金しまくってやったぜ……」


根岸「……」


佐原「……」


根岸「特に何も変化がないようだが……」


佐原「ダウンロード中なのだろう」


ちゃぶ台 登場


根岸「便利な気もしてきたこの20円分。状況説明がいらない」


佐原「だろ? ほれみろ、何もなかった部屋に、テーブルが!」


根岸「うん、ちゃぶ台が」


佐原「4円」


根岸「やっす」


佐原「……まあそこに座りたまへ」


根岸「立ちっぱなしもなんだからな」


佐原「さて……。そろそろ夕食の時間だな……」


根岸「そうなのか。そんな時間なのか」


食べ物 登場


佐原「おー」


根岸「このト書き、なんかが登場したことしか表示しないのな」


佐原「一番安いやつだから」


根岸「そういうものなのか」


佐原「うむ。今日のメニューは焼き魚定食だ! 根岸は白米だけ!」


根岸「何故だ!」


佐原「根岸は無課金だからな」


根岸「えぇ……」


佐原「これが金の力だよ!」


根岸「っていうか無課金でも白米はもらえるのか……」


佐原「俺は3000円の課金でこれ!」


根岸「高っ! 焼き魚定食の値段じゃないだろそれ……」


佐原「ダウンロードコンテンツとか、ガチャなんてそんなもんだよ。―――多分、ゲームの中の世界とこっちとじゃ物価が違うんだ」


根岸「えぇ……」


佐原「ほらみろこの魚……、なんかグラフィックが残念でなんの魚かはわからないけど……。すごい美味しそうだろう?」


根岸「うん、まあ。もぐもぐ」


佐原「身が輝いててさ、脂がのってるから旬の魚なんだなきっと。焦げ目なんかももはや芸術といっていいレベル! グラフィックが残念でぼやけてるけど!」


根岸「うん、まあ。もぐもぐ」


佐原「白米食ってテンション下がってんじゃねぇ!」


根岸「いや美味しいよこの白米。漬物もお味噌汁もいらないくらい」


佐原「あ、夕食の時間終わり」


根岸「……唐突な」


佐原「うむ」


根岸「終わったのか」


佐原「うむ。あとはこう、寝る時間まで部屋の中でうろうろするだけだ」


根岸「……育成ゲームなのか?」


佐原「たまごっち的なやつだよきっと」


根岸「おっさんに飯と部屋を与えるゲーム……」


佐原「……」


根岸「……」


佐原「お、今アレだな、ご両親がリアルでそんなゲームやってるご家庭もあるんじゃね?とか思っちゃったな?」


根岸「いやいやいや」


佐原「―――さてそろそろ寝るかね」


根岸「……布団も何もないぞ。ちゃぶ台しかない」


佐原「あー、布団系のアイテムはまだない。アプデ待ち」


根岸「えぇ……おかしくね……」


佐原「そういうこともあるさ」


根岸「っていうか電気くらい使えるようにしとけよ。薄暗くなってきた。―――後、腹減ったぞ」


佐原「さっき食べたでしょ」


根岸「エア食事だろう」


佐原「だって何もしないと暇だろう? 何もないし」


根岸「……あのさ、俺はなんで今日呼ばれたんだ?」


佐原「……」


根岸「おい」


佐原「引越しの手伝い」


根岸「だよね?」


佐原「そうだよ?」


根岸「何も手伝う要素が無いじゃないか!」


佐原「暇な俺の相手をしてくれたじゃないか!」


根岸「引越し手伝いって、そういうアレなの!?」


佐原「うむうむ。そもそも荷物もなんもかんも明日届く。初日はこんなもんだ」


根岸「ちゃぶ台だけ持ってきたのか」


佐原「ちゃぶ台は大事」


根岸「じゃあなんだ、俺はお前の暇つぶしに呼ばれただけなのか……」


佐原「うむ、明日も引越し手伝いよろしくな! 明日は荷物が届くぞ!」


根岸「まじか……」


佐原「今日はもう日が落ちるしな」


根岸「せめて晩飯だけでもどっかに食べに出よう」


佐原「お金も全部ダンボールの中だ。明日届く」


根岸「おまっ! お前が『飯は奢るから手ぶらでいいぞ』って言ったんだろう!」


佐原「奢ったじゃないか」


根岸「エア飯!」


佐原「人聞きの悪い。ちゃんと課金したデータですよ?」


根岸「データじゃ腹は膨れないんだぞ」


佐原「わかったよ、なんか根岸に課金アイテム送っとくから」


根岸「いや求めてない。空腹をなんとか―――」


佐原「あ、ほらもう日が落ちる」


根岸「えぇ……」


佐原「じゃあおやすみおやすみ」




暗転




根岸「おい俺の尻が光るぞ!」





閉幕

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