No.89『このオチどっかで見たわ、も含めてループモノ』

佐原「すごい発明しちゃったよ、助手の根岸くん。きてみてさわって」


根岸「……富士通のパソコンでも置いてあるんですか?」


佐原「なんのことだね」


根岸「……いえ」


佐原「今回の発明は、これ! ててーん!」


根岸「なんですか? このボタン。というかまたスイッチ系の発明ですか、好きですね博士……」


佐原「ふふふ、なんだと思うぅ~? あーててみそー?」


根岸「自爆スイッチ」


佐原「甘ぁい! 儂が自爆スイッチばっかり作ってると思ったら大間違いじゃよ!」


根岸「違うんですか」


佐原「まあ確かに、自爆はロマン。でも今回のは違うの、ノーロマン!」


根岸「ではなんですか」


佐原「時間、巻き戻し、スイッチ。略してジマッチ!」


根岸「ウルトラマンの叫び声みたいな」


佐原「ジマッチ!」


根岸「あのですね、……博士の発明は、毎回すごいにはすごいんですが、原理がわからないんですよ。なんですか時間巻き戻しスイッチって。タイムマシンじゃないですか。大発明じゃないですか」


佐原「タイムマシンの原理なんか儂にもわからんよ。なにあれSFじゃん。ありえなーい。まじちょーありえなーい」


根岸「いやいやいや。これがそうなんですよね? SFなんじゃないんですか?」


佐原「いやいや、これはタイムマシンじゃない。ジマッチ」


根岸「時間を、巻き戻すんですよね?」


佐原「そうじゃよ?」


根岸「タイムマシンじゃないですか」


佐原「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


根岸「何が違うんですか」


佐原「いいかね根岸くん、タイムマシンというのは、今ここにいる儂らが、デロリアンにのって、過去に行くことを言うんじゃよ」


根岸「あ、はい」


佐原「これがデロリアンに見えるかね?」


根岸「え、そこなんですか」


佐原「そう、これはデロリアンではない。ましてや車ではない。故に、タイムマシンではない!」


根岸「はじめから間違ってる論法だ……」


佐原「まあそれはそれとして」


根岸「はい」


佐原「タイムマシンとジマッチの決定的な違いは、物体の移動そのものにある」


根岸「といいますと?」


佐原「例えば、タイムマシンでは過去に戻って、競馬で大穴を当てたりとか、そういうことをみんな考えるんじゃよ」


根岸「そうですね、せっかく過去に戻るんだから、その過去から現在までに起こりうる事象を知ってることで、いろいろやれることがあるでしょう」


佐原「そうそれ」


根岸「はい?」


佐原「過去に記憶を持っていけるとか、そういうのがSF」


根岸「んん?」


佐原「その事象がまだ起きてない過去に行ったら、その事象は起きてないのだから、記憶からも無くなるのが道理じゃろう。脳が記憶できるのは、あくまでも世の中で実際に起きた事象だけじゃよ」


根岸「え、だからその事象が起きた後に、過去に戻ればいいんじゃないですか?」


佐原「そしたらその事象はまだ起きておらんじゃろう」


根岸「あれ、混乱してきました」


佐原「まあ根岸くんのホンワカパッパな頭ではそれが限界じゃろう」


根岸「ぐぬぬ」


佐原「要するにSFなんじゃよ。タイムマシンなどというものは」


根岸「ふぅむ。……で、それですか。なんでしたっけ、シュワッチみたいなやつ」


佐原「シュワシュワしてない! シュマっ……ジマッチじゃ!」


根岸「噛んでるじゃないですか」


佐原「やかましか! とにかくまあ、これはSFじゃないんじゃよ。少し不思議なだけなんじゃ」


根岸「SFじゃないですか」


佐原「まあ、見ていたまえ、これがどういう発明か実際に使ってみせてあげよう」


根岸「ん……んー?」


佐原「どうしたんじゃ?」


根岸「ちょ、ちょっと待ってくださいよ?」


佐原「ほいほい」


根岸「さっきの説明の流れからいくと」


佐原「うん」


根岸「それ」


佐原「ジマッチ!」


根岸「時間を巻き戻すんですよね?」


佐原「そう、ざっつらいと」


根岸「で」


佐原「で?」


根岸「私たちの記憶は、今あるものを持って過去に行くわけじゃないんですよね?」


佐原「そう、巻き戻すだけじゃからね。その時点の記憶まで戻る」


根岸「……んー?」


佐原「なんじゃね」


根岸「押しちゃ、ダメじゃないですかそれ?」


佐原「なんで」


根岸「いや、ええと、それ押したら、『押した瞬間』から巻き戻るわけですよね?」


佐原「そう」


根岸「記憶も何も持たずに巻き戻るってことは、当然……」


佐原「うん、巻き戻しただけだから、同じように再生されるよ」


根岸「押した瞬間が、時間の最先端かつ、終着点になりますよね?」


佐原「むずかしくて何言ってるのかぜんぜんわかんない」


根岸「えぇ……」


佐原「まあとにかく、百聞は一見にしかずじゃよ。ためしにちょっぴり巻き戻してみようじゃないか」


根岸「いやちょっ―――」


佐原「ぽちっとな」


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根岸「記憶も何も持たずに巻き戻るってことは、当然……」


佐原「うん、巻き戻しただけだから、同じように再生されるよ」


根岸「押した瞬間が、時間の最先端かつ、終着点になりますよね?」


佐原「むずかしくて何言ってるのかぜんぜんわかんない」


根岸「えぇ……」


佐原「まあとにかく、百聞は一見にしかずじゃよ。ためしにちょっぴり巻き戻してみようじゃないか」


根岸「いやちょっ―――」


佐原「ぽちっとな」


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根岸「記憶も何も持たずに巻き戻るってことは、当然……」


佐原「うん、巻き戻しただけだから、同じように再生されるよ」


根岸「押した瞬間が、時間の最先端かつ、終着点になりますよね?」


佐原「むずかしくて何言ってるのかぜんぜんわかんない」


根岸「えぇ……」


佐原「まあとにかく、百聞は一見にしかずじゃよ。ためしにちょっぴり巻き戻してみようじゃないか」


根岸「いやちょっ―――」


佐原「ぽちっとな」


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佐原「ぽちっとな」


根岸「……」


佐原「……」


根岸「……巻き戻りました?」


佐原「……いや、巻き戻ってない」


根岸「なんでですか?」


佐原「巻き戻ったかどうかを認識できているということは、巻き戻っていないということじゃよ」


根岸「はい?」


佐原「まあ、天才の儂でも時間をどうこするアイテムは作れないということじゃな」


根岸「そういうもんですか」


佐原「SFじゃよ、SF」




閉幕

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