No.86『煩悩;貪―愛、貪―執着、貪―堅』

佐原「神として」


根岸「神々として」


佐原「人間をつくろう!」


根岸「いえーい」


佐原「というわけで始まりました神々のための情報番組、It'sGOD」


根岸「はじまりましたね」


佐原「そんなこんなで、初回の今日は、人間をつくろうかと思います」


根岸「お、どこぞのなんかの宗教観だね」


佐原「イエス」


根岸「出た神々ギャグ!」


佐原「くるしゅうない」


根岸「で、人間をつくるわけですね」


佐原「そう。まあ最初だからね、大地とか自然とかつくったし、あとは人間つくって、明日は休日」


根岸「休日を最後にもってくるあたり、勤勉だよね神」


佐原「夏休みの宿題は最初にやっちゃうタイプ」


根岸「なるほど」


佐原「さて、で、人間をつくるにあたって上からこんな指示が来てます」


根岸「神々より上位の存在がいるのか……!」


佐原「『三つほど、制限をかけなさい』だってさ」


根岸「空は飛べない、とか?」


佐原「まあもうなんとなくできてるんだよ」


根岸「というと?」


佐原「もたず、つくらず、もちこませず」


根岸「……」


佐原「これで人間をつくるぞー」


根岸「え……。待って待って」


佐原「なんだ。もたず、つくらず、もちこませない人間をつくるんだ!」


根岸「何……、えっと、何を? 何をもたなくて、つくらなくて、もちこませないの?」


佐原「家庭とか、子供」


根岸「一世代で滅びるじゃん! あと家庭をもちこませない、って何」


佐原「自分ちのルール押し付けてくるヤツとかいるじゃんたまに。あれ」


根岸「えぇ……」


佐原「お前んちの麦茶の味なんか変」


根岸「えぇぇ……」


佐原「うちのはもっと薄い!」


根岸「知らんよ」


佐原「というわけで、そんな麦茶の味に無頓着な人間をつくるのだ」


根岸「麦茶メインになってるじゃん」


佐原「麦茶をもたず、つくらず、もちこませない」


根岸「すごい、別に困らなそうだ」


佐原「え、困るのがいいの?」


根岸「いや、なんというか、そういうわけじゃないけど。麦茶は制限する意味が薄いと思う」


佐原「麦茶は神々の飲み物ぞ! 人間ごときが飲むなぞもってのほか!」


根岸「庶民の飲み物ですよ麦茶は」


佐原「ダメか」


根岸「もうちょっとこう、いい感じの三つの制限探しましょう」


佐原「じゃあ、神々への安全性、命令への服従、自己防衛」


根岸「……まあ、うん」


佐原「どうよ」


根岸「天界と地上が別の世界だから、そもそも不干渉だと思うんですけど」


佐原「神々に叛乱しようとしたり、天界に近づこうとしたらドーンだよドーン。言語バラバラにしちゃる」


根岸「自己防衛ってのは?」


佐原「自殺されたら困る」


根岸「さっきは一世代で終わりそうな案を出してたのに」


佐原「うむ、さっきの案からの反省点と改善策だ」


根岸「なるほど」


佐原「どうよ。神々への安全性、命令への服従、自己防衛」


根岸「命令への服従はアレかなぁ……。もうちょっと神々って、人間に関わらないほうがいいと思います」


佐原「これもダメか」


根岸「そもそも、どこかで聞いてきたような三つの制限を持ち出すのはいかがなものか」


佐原「オリジナリティが無いと」


根岸「まあ、うん」


佐原「んー」


根岸「無制限ってのもアレだし、難しいなぁ」


佐原「OK、いっそ捨てよう」


根岸「何を」


佐原「三つの制限」


根岸「上からの指示じゃないんですか。いいのか捨てて」


佐原「物事に執着するのはよくない。神々は、人間の手本たる存在でなければならないのだ」


根岸「もっともらしいことを言ってるようだが、上からの指示に背くのはどうだろう」


佐原「……だよなぁ」


根岸「『命令への服従』」


佐原「そうそれ」


根岸「人間にもこれを背負わせるのはかわいそうです」


佐原「そうだな。じゃあもっとこう、人間らしいのでいこう」


根岸「人間らしさ」


佐原「自分を愛し、隣人を愛し、全てを愛せ」


根岸「愛しまくりですね。実現したら素晴らしい世界に―――」


佐原「ならないんだよそれが」


根岸「なんで。愛に満ち溢れた素敵な世界になるんじゃないんですか?」


佐原「愛する、っていうのは結局のところ、欲だからな。欲は他人と共有も共存もできないんだ」


根岸「そういうもんですか」


佐原「一人の男を、二人の男が愛したらどうなると思う?」


根岸「なにその状況」


佐原「つまり、そういうことさ。愛は共有も共存もできない。その何かは誰かの所有物であり、手に入らないからこそ欲しくなり、愛はより深くなる。愛から全ての煩悩が生まれるのだ」


根岸「状況への説明がさっぱりですが、言いたいことはわかりました」


佐原「人間らしさとは、つまり愛を持つということさ」


根岸「平和にはならないんですね。愛ゆえに」


佐原「そうそう。じゃあこれで、つくってみよう」


根岸「とりあえずやってみることって大事ですよね」


佐原「そう、失敗したらまたやり直せばいいのさ」


根岸「じゃあ、えっと」


佐原「えいやー」


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根岸「……」


佐原「お、できたできた」


根岸「……いやいや」


佐原「三つの制限もしっかりと搭載されてる。煩悩まみれだぜ」


根岸「……なんでアダムとアダムなんですか」


佐原「制限に性別いれなかったからじゃないかな。あと片方の名前はダンだよ」


根岸「えぇぇ……」


佐原「まあほら、性別なんて関係ないよ、いろいろと」


根岸「また一世代で終わっちゃうじゃないですか!」


佐原「だが意外と子煩悩かもしれないぞ」


根岸「子が生まれないでしょうに」


佐原「まあまあ、とりあえず成り行きを見守ろうじゃないか。この愛と煩悩にまみれた人間という生き物の」


根岸「あのちょっと」


佐原「何?」


根岸「そもそも煩悩って別の宗教観の設定ですよね」


佐原「イエス!」



閉幕

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