No.68『お料理後進極』

佐原「……もぐ」


根岸「……もぐもぐ」


佐原「……」


根岸「……」


佐原「不味い! これは不味い!」


根岸「なんだこれ……」


佐原「なんだよこの料理! 不味すぎて右足がバナナになるわ!」


根岸「なんだよその突然変異」


佐原「初めて食ったよ、こんな不味い料理……」


根岸「お前が作り出したんだろ……、味見とかしなかったのかよ」


佐原「味見なんてのはな、自信のない素人がやる行為だよ」


根岸「お前はこの料理のどこに自信を感じてたんだよ」


佐原「……色艶かな」


根岸「……色艶」


佐原「そう、色艶」


根岸「この、チャーハン?か?」


佐原「それはピラフだよ」


根岸「米と具材の成れの果てから、かろうじて読み取ってるんだ。チャーハンとピラフの差なんて、この不味さの前では些細な問題だろ」


佐原「全然違う! 俺は、ピラフを作ったんだ!」


根岸「黒光りする米の山をピラフとは呼ばん!」


佐原「だがピラフなんだ! チャーハンではない!」


根岸「もはやこうなっては何が違うのかわからないって言ってるんだよ」


佐原「チャーハンは、中国人になったつもりで作るんだ!」


根岸「心構えかよ。ピラフは?」


佐原「ピラニアになったつもりで作る」


根岸「魚類じゃん。ピラフ微塵も関係ない」


佐原「でも、ピラフ作りの上手なピラニアなんだよ?」


根岸「知らないよ」


佐原「でも違うんだ! 俺はピラフを作ったんだ! それをチャーハンとか、侮辱にも程がある!」


根岸「いや、うん、悪かった。そうだよな、せっかく作ってくれたのにな」


佐原「まったくだよ! もう!」


根岸「いやごめん」


佐原「わかればいいよ。まあ、不味かったのは想定外だけどね」


根岸「そう、だね」


佐原「でもこっちのは美味しそうじゃない? ずずず……。不味っ!」


根岸「……うおっ、不味っ!」


佐原「今ならなんかロケットパンチ打てそうなくらい不味いなこれ」


根岸「……コレは、何を作ったつもりなんだ。スープ?」


佐原「餃子」


根岸「なんで液状なんだよ!」


佐原「斬新だろ?」


根岸「餃子の要素が何一つ無い! 斬新すぎて味も意味不明なことになってる!」


佐原「ううむ……。名状しがたく形容もしがたい、だが確実にわかるこの不味さ」


根岸「どことなくヨーグルトの風味なのは、醗酵してるってことなのか?」


佐原「いや、ヨーグルトいれたから」


根岸「……」


佐原「しかもアロエヨーグルト」


根岸「なんで」


佐原「栄養を考えて。お腹に優しい餃子!」


根岸「もういい、ツッコミいれてたらキリがない気がする」


佐原「青汁も入ってるよ」


根岸「緑色はそれかよ! どうやったら緑色になるのかと思ったら!」


佐原「アニメとかで料理ド下手な人が作る料理って、なんでああカラフルなんだろうな。不思議だわ。俺には緑色が精一杯」


根岸「緑色のヨーグルト風味液体餃子のほうが不思議だよ……」


佐原「でもほら、栄養はばっちりだから、青汁とヨーグルトで」


根岸「ばっちりかどうかは知らんけど、……餃子のさ、皮とかってどうなったのこれ、溶けたの?」


佐原「チャーハンに入ってる」


根岸「うん? ……いや、おかしい、っていうかチャーハンって言ったな」


佐原「チャーハンもピラフも似たようなもんだよ」


根岸「……お前……」


佐原「いやしかしこれ、すごいな、すごい。ノーベル平和賞もらえそうな不味さだよ」


根岸「味見、しようよ、せめてレシピ見ようよ」


佐原「レシピを見たら負け」


根岸「何と戦っているんだお前は」


佐原「主に、空腹かな!」


根岸「ああ、そうだな、俺もだわ」


佐原「……お、だがこっちのこれは食える」


根岸「……食えるけどさ、これはこれでおかしいよね?」


佐原「お菓子だから?」


根岸「お菓子なのもおかしいけどさ」


佐原「もぐもぐ」


根岸「クッキーでしょ? これ」


佐原「クッキーだね、これ」


根岸「不可解だよ」


佐原「何が」


根岸「だって中華スープの味じゃないかこれ!」


佐原「チャーハン、餃子ときたら、あとは中華スープだろう」


根岸「うん、セットメニューとしてはいいよ、あってる。っていうかもうチャーハンでいいのかよこれ」


佐原「もぐもぐ。ぐほっ、チャーハン不味っ! 思わず両足がキムチになる!」


根岸「……」


佐原「もぐもぐ。中華スープうめー。外はサクサク、中はしっとり!」


根岸「何歩譲っても、スープじゃないだろコレは……」


佐原「もぐもぐ、おいしいのに」


根岸「おいしいけどな? 相対的に! どうやって作るんだよこんな妙な中華スープ」


佐原「材料混ぜてレンジでチン。簡単簡単」


根岸「そんな馬鹿な……」


佐原「最近のレンジはすごい」


根岸「すごいなぁ……」


佐原「しっかし不味いなぁ、両腕もキムチになるくらい不味い」


根岸「なんかもう全身キムチじゃんお前」


佐原「右足だけバナナキムチ」


根岸「もうその単語だけで不味そうだ」


佐原「両手はロケットパンチキムチ。どーん!」


根岸「うお飛んできた! 危ないからこっち向けて飛ばすなよ、っていうかキムチ臭い!」


佐原「ほんと不味いよなぁ」


根岸「なんだかんだ食ってるな……」


佐原「まあほら、食えないほどじゃない、気がする」


根岸「マジかよ」


佐原「良薬口に苦しって言うし、きっと体にはいいんだと思うよ」


根岸「こんなにも舌と脳が拒絶するというのに」


佐原「そういやさ、食べるものと、食べないものの明確な差って知ってる?」


根岸「この流れなら、美味いか不味いか、だな」


佐原「そうなんだよ、でもさ、美味いか不味いかって、誰が判断するんだと思う? ナマコを最初に食べた人は、納豆を最初に食べた人は、それが美味いか不味いかわからないのに、食べたんだよ。 そして、食べて、知ったんだよ、美味しいってことを」


根岸「ふむ」


佐原「食べてみないとさ、わかんないんだよ、まずはね」


根岸「食べた上で、不味かったぞ、中華スープ?以外」


佐原「更に、味の感じ方はそれぞれだ、納豆がダメだって人もいるだろう、ナマコがダメだって人もいるだろう。誰かにとって美味しいものが、誰かにとっては不味いものかもしれない」


根岸「食べた上で、不味かったぞお前の料理は」


佐原「つまりさ、この料理も、もしかしたら美味しいのかもしれない!」


根岸「会話しろ会話、不味かったぞ。というか不味いぞ」


佐原「でも食べてるじゃん、根岸も」


根岸「そりゃお前、材料たちがかわいそう過ぎるだろ、捨てたら」


佐原「すごいよなぁ、不味いよなぁ」


根岸「衝撃的な不味さだよほんと、涙出てくる」


佐原「泣くほど不味いかうんうん、超わかる」


根岸「……」


佐原「……」


根岸「……」


佐原「……」


根岸「……」


佐原「……カニでさ、言うじゃん」


根岸「……カニ食べてると無口になるってやつか」


佐原「カニに匹敵した料理と、いえないだろうか」


根岸「いえない。これはテンションがゼロにされる料理だ」


佐原「そうかぁ……」


根岸「……」


佐原「……」


根岸「……」


佐原「なにがまずかったのかなぁ」


根岸「料理だろ」




閉幕

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