No.67『そういうそれ機』

佐原「私は、学会に復讐してやるのだー!」


根岸「博士、夜なんで静かにしてください」


佐原「うむ、起きておったか助手の根岸くん、儂は今、決意を新たにしていたところなじゃよ。素敵に無敵、やる気に本気じゃよ!」


根岸「近所迷惑ですよ博士」


佐原「そうは言うがね、根岸くん、儂は、儂を追放した学会を許してはおけんのじゃよ! と、十数年ぶりに思い出したのじゃ!」


根岸「ほとんどもう忘れ去ってた過去じゃないですかそんなの」


佐原「しかし、思い出してしまったからにはしょうがない。湧き出る熱意と復讐心が儂を突き動かしてやまない! もう誰にも止めることはできんのじゃ! 恋の暴走列車は猛スピードで各駅停車じゃよ!」


根岸「後半何言ってるんだかさっぱりですが、とりあえず……博士」


佐原「おうおう!」


根岸「博士、学会とかに所属したことないじゃないですか」


佐原「……」


根岸「でしょ?」


佐原「Oh……」


根岸「なんの学会に復讐するつもりなのかはわかりませんが、追放された記録どころか、所属していた記録がありませんよ」


佐原「ひ、非公式の闇学会とか!」


根岸「少なくとも、私が博士の助手を初めてから、そんな話は聞いたことないですし、学会の案内のハガキ等も届いたことがありません」


佐原「常闇から出ずる深淵に絡まれし学会」


根岸「ありません」


佐原「……ないのかぁ」


根岸「ないです」


佐原「儂の熱意、止まっちゃったよ。どうしよう根岸くん」


根岸「今日はもう遅いですが、これからご飯にしますよ」


佐原「えー、でもー」


根岸「明日は朝からこども工作教室の予定なんでしょ、寝過ごしたらどうするんですか」


佐原「そうじゃった、明日はペットボトルロケットのつくり方を教えてもらうんじゃった! 忘れとったよ!」


根岸「教わる側だったんですか……」


佐原「ところで、さっきの熱意の流れで、作っちゃった新発明があるんだけど」


根岸「作っちゃったんですか」


佐原「どうしよ、これ」


根岸「一応、いつものやっときます?」


佐原「そうじゃのぅ、せっかく作ったしのぅ」


根岸「……」


佐原「……」


根岸「で、博士、今回はどんな妙な発明をしでかしたんですか」


佐原「ふっふっふ、根岸くん、今回の発明はしでかしたとか妙とか、そういう次元を超越しておるのじゃよ。 見るがいい、空前絶後抱腹絶倒のホンワカパッパ兵器!」


根岸「……これはっ!」


佐原「ふははははは!」


根岸「なんですか、これ……」


佐原「これぞ、きゅうきょくさいきょう無敵の新発明、その名も、『学会に復讐機』じゃ! ででーん!」


根岸「学会に復讐機……」


佐原「すごいじゃろ! これを使うと学会に復讐できるのじゃ!」


根岸「なんて、ぼんやりした機械だ……」


佐原「何を言う、こんなにも目的がハッキリした機械はそうそう……あるなぁ」


根岸「あるんですか」


佐原「掃除機とか、洗濯機とかが、同じ感じ」


根岸「あー」


佐原「と、まあ、これを起動させると学会に復讐できるわけじゃよ」


根岸「方法の具体性がまったく見えてこない」


佐原「まあ、復讐する学会がなかったってことで、このメカはゴミ箱行きじゃな、ぽいっと」


根岸「復讐の方法は永遠の謎に包まれた」


佐原「さて、じゃあお風呂入って寝るとするかのぅ」


根岸「いやいや博士、今日はまだ晩ご飯を食べてませんよ」


佐原「ん? 何を言うか、晩ご飯ならさっき食べたじゃろ。まったく根岸くんは、助手なのに痴呆かね、そんなことじゃいかんぞ。お腹空っぽのほうが、飯詰め込めるってアニソンもあったじゃろ?」


根岸「いえ、今日の晩ご飯はまだですよ博士」


佐原「マジかー、じゃあお風呂の後で食べるとしよう」


根岸「わかりました」


佐原「あ、ちょうどいいから、このメカを試してみてくれんかね」


根岸「なんかまた別の新発明ですか」


佐原「うむ、これは『おいしい』じゃ! ご飯がおいしく炊けるぞ」


根岸「……おいしい」


佐原「炊飯器の横に置いておけばいいから」


根岸「いや、え、なんですかこれ」


佐原「うん? ついでの新発明じゃよ、学会に復讐機を作っていたらパーツが余ったんでな」


根岸「え、なんかその、『ご飯をおいしく炊けるメカ』とかそういう名前じゃないんですか?」


佐原「機械じゃないぞこれは」


根岸「……なんなんですか、これ」


佐原「概念じゃよ」


根岸「……はい?」


佐原「『おいしい』という概念じゃよ。これを炊飯器の横において、ご飯を炊けばご飯がおいしく炊けるのじゃ」


根岸「え……なんで……?」


佐原「例えば、美しいものをみたら、美しいと思うじゃろ?」


根岸「はい」


佐原「そういうことじゃよ」


根岸「いやさっぱりだ」


佐原「そういうそれを、作ったのじゃよ」


根岸「どうやって」


佐原「そりゃもうちょちょいのちょいじゃよ」


根岸「毎度のことながら、わけがわからん……」


佐原「天才の儂が機械しか作れないと思ったら大間違いじゃよ!」


根岸「ペットボトルロケットのつくり方は明日教えてもらいに行くのに……。っていうかさっきの発明で次元を超越したとかなんとか言ってましたが、これのほうがもっと次元超越しちゃってるじゃないですか」


佐原「ついでじゃから、こんなのも作ったぞ」


根岸「今度はなんの概念が」


佐原「『機械じゃなくする』! ばばーん!」


根岸「もう、なんか二重括弧が無いと『そういうもの』なのかどうかがわかりづらい!」


佐原「これを横に置いて発明をすると、機械じゃなくなるぞ!」


根岸「何を言っているのかさっぱりです」


佐原「ふむ、では実際にやってみよう。たとえばー、そうじゃな、炊飯器を作るじゃろ、ちょちょいのちょーいっと」


根岸「待ってまずその速度で炊飯器が出来上がるのがすごい」


佐原「天才じゃからな!」


根岸「便利だなその言葉!」


佐原「普通に作ると、ほら、普通の炊飯器が出来上がる。だが、一旦バラバラにしてー、この『機械じゃなくする』を横に置いて、炊飯器を作るとー。ちょちょいのちょい」


根岸「!?」


佐原「ほら、できた」


根岸「炊飯器はどこにいったんですか……」


佐原「出来上がったのは『ご飯が炊ける』じゃよ。概念じゃな」


根岸「えぇぇ……わけがわからん……」


佐原「これを磨いだあとのお米の横に置いておけば、ご飯が炊けるぞ!」


根岸「……割と画期的な発明な気がする……博士なのに」


佐原「まあ問題といえば、機械じゃないから自爆スイッチが着けられないところにあるな」


根岸「どうでもいい」


佐原「あとは、概念が簡略化されちゃうから、さっきの『ご飯が炊ける』では赤飯や炊き込みご飯が炊けるかどうかは、ちょっと微妙なんじゃよ、たぶん」


根岸「ふむぅ……」


佐原「さてじゃあ、お風呂に入ってくるとするかのぅ」


根岸「何か、ちゃんとどこかで発表したらいいんじゃないですか、この『機械じゃなくする』」


佐原「学会に所属したこともなかったからのぅ。企業のツテとかもないし」


根岸「あー」


佐原「チャンスが無いのぅ」


根岸「機会がないのか」




閉幕

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る