No.46『今夏のトレンド置物』

佐原「根岸くん根岸くん、できちゃったよ、夏に向けての大発明」


根岸「博士は何故、季節向けの発明とかしちゃうんですか。そんなことだから街の発明家の域を出ないんですよ。自動流しそうめん機とか作っちゃう人みたいな」


佐原「ふふふ、そんなことを言っていられるのも今のうちじゃよ根岸くん、これこそが、今世紀最後、限界突破の科学の申し子!」


根岸「今回もまた今世紀最後の発明なんですね」


佐原「しかも夏にぴったり!」


根岸「夏らしくなるまでもうちょっとかかりますが」


佐原「そこはほら、夏商戦は夏が来てから始めても遅いんじゃよ理論じゃよ」


根岸「……なるほど?」


佐原「ばばーん! これぞ!」


根岸「……ロボット?」


佐原「そう、これぞロボ悪霊!」


根岸「ロボなのはいいとして、悪霊ってなんですか」


佐原「悪霊は悪霊じゃよ。悪いこととかする霊。とり憑いて殺したり、怪我させたり、ブリッジした状態で高速移動したり、人面犬になったりするアレ」


根岸「人面犬は別物だと思いますが……。霊とか、オカルトじゃないですか」


佐原「そこがこの発明のすごいところ、かつ、ワシが天才たるところじゃな。SFと科学の融合。いってみればゴーストバスターズの掃除機みたいなもんじゃな」


根岸「えー……っていうかなんだこれ……、ふわふわ浮いてる……」


佐原「すごいじゃろ、足も無いんじゃよ。霊じゃからな」


根岸「なにこの無駄にすごそうな技術……」


佐原「ふふふ、ロボ悪霊で驚くのはまだ早い!」


根岸「ロボ悪霊というか、このふわふわ浮く技術に驚きです」


佐原「ロボ悪霊の特殊機能その1ぃ!」


根岸「ああ、発明紹介に……」


佐原「暗いところでぼんやり光る!」


根岸「あー、確かに、ホラー映画とかだとなんか霊体って微妙に発光してますよね」


佐原「家に置いておくと、夜中とかぼんやり照明として便利じゃよ」


根岸「かなり怖いなこれ……」


佐原「その2ぃ!」


根岸「はいはい」


佐原「腹からこんにゃくが発射できる!」


根岸「えぇ……なにそのいきなりアナログっぽい機能……」


佐原「背中のボタンを押すと、生暖かいこんにゃくが発射されるぞ」


根岸「子供のおもちゃ感がすごい」


佐原「そのさぁん!」


根岸「というか気になってる機能がひとつあるんですけど」


佐原「半透明!」


根岸「そうそれ、なんで向こう側が透けて見えるんですかコレ」


佐原「そりゃ霊体じゃし」


根岸「いや説明としてどうなのそれ」


佐原「霊感がなくてもちょっと見えるのがこのロボ悪霊のすごいところじゃよ」


根岸「いや、うん、すごいんですけどね?」


佐原「霊感が無いと悪霊が見えない! そんな困った声にお応えできちゃう、素敵な悪霊なのじゃよ、このロボ悪霊は」


根岸「なんで半透明なんですか、素材?」


佐原「霊だからじゃ」


根岸「なにも納得できない」


佐原「しかも霊だから、触れることはできん」


根岸「はい?」


佐原「触ってみそ」


根岸「うわ、ほんとだ、触れない……なにこれ……どうなってるんです? ホログラムとかそういうのですか?」


佐原「いや、ロボ悪霊じゃよ?」


根岸「肝心なところの説明が全部雑!」


佐原「雑とはなんじゃ、これ以上の説明はできん!」


根岸「なんでふわふわ浮いてるんですか! なんで半透明で触れないんですか!」


佐原「だって霊だもの、落ちてたらおかしいでしょ? 触れたらおかしいでしょ?」


根岸「っていうかどこがロボなんですか!」


佐原「ロボット三原則守るよ! ミサイル打てるよ!」


根岸「マジかよ……」


佐原「あとほら、ネジとかバネとか歯車で動いてるから、ロボ」


根岸「ロボって、そういうもんなんですか……?」


佐原「ちゃんと自爆スイッチもついてるし、どこからどうみてもロボじゃよ」


根岸「割とオーバーテクノロジーな感じがあるなぁ……。博士はどうやってこれを作ったんですか?」


佐原「ペンチとか、レンチで!」


根岸「一向につかめない」


佐原「まあ、半分はオカルトだし。しょうがない」


根岸「もう半分の科学部分の説明ももやもやしてるじゃないですか」


佐原「そんなこと言われても、天才が凡人に説明するのって大変なんじゃよ?」


根岸「いやそうかもしれないですけど……。ところで、このロボの動力とかは?」


佐原「霊力」


根岸「さらっとわけのわからんエネルギーを」


佐原「割と漫画やアニメだと実用化されてたりするじゃない」


根岸「ああいうのはフィクションじゃないですか」


佐原「現実だってフィクションのうちのひとつなのじゃよ」


根岸「なんだそれ」


佐原「ともかく、これで現代の悪霊事情は解決するのじゃよ。そういう画期的な発明として、このロボ悪霊はあるのじゃ」


根岸「ふわふわ浮く技術と、半透明で触れない何かを作る技術と、霊力とかいう謎エネルギーの応用のほうが発展性すごそうだ」


佐原「というわけで、起動テストしてみよう」


根岸「起動するとどうなるんです?」


佐原「自律行動するよ」


根岸「割とすごい」


佐原「自動的に、人を呪ったり、とり憑いたりする」


根岸「迷惑ロボじゃないですか」


佐原「でもロボット三原則があるから、人に危害は加えないはずじゃよ」


根岸「はやくも矛盾した」


佐原「してない。人を幸せにする呪いとかかけるかもしれん」


根岸「悪霊じゃない。悪の要素が無いですよそれじゃ」


佐原「まあ、なにはなくとも、起動してみんことにはなんともいえん」


根岸「えぇ……」


佐原「ロボ悪霊、起動! スイッチオン! ぽちっとな」


根岸「……」


佐原「あれ?」


根岸「どうしました?」


佐原「起動! えいや! そりゃ! ぽちっとなー!」


根岸「博士?」


佐原「……」


根岸「博士?」


佐原「……根岸くん……」


根岸「はい」


佐原「失敗じゃ!」


根岸「えぇ……」


佐原「起動スイッチが押せぬ!」


根岸「謎の技術すぎる……。解除とかできないんですか、半透明なの」


佐原「できない。半透明で触れないから悪霊なんじゃよ、触れたらそれはただのお化けの格好したロボじゃよ」


根岸「じゃあ起動できないじゃないですか」


佐原「なんてこったい」


根岸「というか博士、これ動かせもしないってことですか?」


佐原「そりゃそうじゃよ、触れないもん」


根岸「ずっとここにあるのかコレ……」


佐原「いや、これはもう失敗作じゃし、破棄じゃよ破棄」


根岸「破棄って、どうやって」


佐原「そりゃ根岸くん、発明品の破棄といえば当然―――」


根岸「当然……」


佐原「自爆スイッチを―――」


根岸「自爆スイッチを……」


佐原「……」


根岸「……」


佐原「押せぬ!」




閉幕

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