No.47『上昇志向』

佐原「……ぷくぷく……」


根岸「……ぷくぷく……」


佐原「はっ! そうか!」


根岸「どうしたよ、突然頭の上に電球なんか乗っけて」


佐原「人気者になる方法だよ! ひらめいちった!」


根岸「ひらめいちったか」


佐原「ヒラメだけにな!」


根岸「……まあ、ヒラメだけどさ、俺ら。今回は」


佐原「ヒラメだものな、俺ら。今回は」


根岸「なんかひらめいたの?」


佐原「そう、閃いたの。ピコーンって」


根岸「それで頭の上に電球が光ってるのか。古典表現だな」


佐原「カレイにヒラメいた」


根岸「……うん。っていうか頭の上に電球乗っけてたら、チョウチンアンコウみたいだぞお前。ひらべったいけど」


佐原「おお、これはこれで光に小魚が寄ってきて人気者になれるかもしれない」


根岸「解決したな」


佐原「待て待て、まあ聞いておくれよ根岸さん」


根岸「……何? 人気者になりたいの? ヒラメなのに?」


佐原「うん。海底で寝っ転がってる生活に飽きたので、ちやほやされたい。具体的にはカレイより持て囃されたい」


根岸「まず、カレイのほうが人気者なのかどうかが疑問だ」


佐原「それはともかく」


根岸「ともかく」


佐原「なにはなくとも」


根岸「なくとも」


佐原「人気者になりたい! みんなに構って欲しい!」


根岸「承認欲求だだ漏れだな」


佐原「自己愛もすごいぞ」


根岸「すごいな」


佐原「―――で、ほら」


根岸「ん?」


佐原「ほーらー」


根岸「なんだよ」


佐原「聞いて! 人気者になる方法! 知りたいでしょ!?」


根岸「いや、俺は別に……」


佐原「クールキャラか! この冷凍カレイが! 凍らせて出荷するぞ!」


根岸「ヒラメだよ、俺も」


佐原「いいから聞くのだ! 人気者になる方法ってなんだい、教えておくれよ佐原くん、頼むよー、あ、靴とか舐めます! 電球拭きますか! とか言えよー」


根岸「いいから喋りたいなら喋ればいいじゃないか」


佐原「おう! 喋る!」


根岸「素直だ」


佐原「人気者になるにはだな、まず!」


根岸「まず」


佐原「かわいい女の子になります!」


根岸「……なるんですか」


佐原「時代はかわいい女の子がゆるいトークをしてればちやほやされる旧石器時代!」


根岸「旧石器時代……」


佐原「間違えた、戦国時代!」


根岸「よくわからんが」


佐原「まあ、要するに、今の時代はほら俺と根岸のだらだらしたトークも、女の子が、あ、かわいいのね、だと思って読めば、心がどったんばったんしたり、違ったぴょんぴょんするんじゃぁというわけなんだけど、戦国時代っていうのはもう世の中に溢れてるよねってことで、こういうのが」


根岸「まるで要されてないんだけど」


佐原「つまり、かわいいは正義」


根岸「なるほど」


佐原「ジャスティス!」


根岸「なるほど?」


佐原「というわけで、俺らが実は女の子だった、とかでどうでしょうか」


根岸「どうでしょうか、って言われてもなぁ」


佐原「ヒラメはほら、外見じゃオスメスの区別つかないらしいし」


根岸「それって、人間から見てもわからん、ってだけじゃないの? 俺らはわかるでしょ、メス」


佐原「まあ、うん、体の大きいのはメス。大柄女子」


根岸「そうだね」


佐原「でもほら、人間から見てわからないならワンチャンあるよ。佐原と根岸、女の子デビューだよ」


根岸「女装だよねそれ」


佐原「大丈夫、かわいいは作れる!ってテレビで言ってた」


根岸「よしんば可愛くなれたとしても、男の娘ってやつだよなそれ」


佐原「ああまあ、実際どっちでもいいんだけどね、人気者になれるなら。本当の性別なんて。可愛ければいいんだよ、正義なんだよ。俺に惚れろ、ときめけ」


根岸「なりふり構わなすぎだろ」


佐原「大丈夫、読んでる人にはほら、文字だけだし、わかりゃしないって」


根岸「可愛いかどうかもわからないぞ」


佐原「……ほんとだ! なんてこった! 俺の美貌が伝わらない!」


根岸「そうだね」


佐原「叙述トリックっぽく、実は女の子でしたー、ってならない?」


根岸「だってその設定、必要だと思うか?」


佐原「……ほんとだ! 必要ない!」


根岸「だろ?」


佐原「ピコーン! 今回俺らがヒラメである必要性も、ない!」


根岸「気づいちゃったか」


佐原「気づいちゃった……」


根岸「なー、ないよなー」


佐原「ほんとだぁ……なにこれぇ……気づいちゃったよー」


根岸「また電球が光って、チョウチンアンコウみたいになってるな」


佐原「このネタのためだけに、今回ヒラメなの?」


根岸「魚類ならなんでもよさそうだよな」


佐原「まじかよー、ヒラメであるアイデンティティーもずたぼろだよー」


根岸「人気者になるどころじゃなくなったな」


佐原「他者に承認してもらうまえに、まずはヒラメとしての地位を確立しないといけなくなった」


根岸「ヒラメだ、って認識してもらえばいいのかね、誰かに」


佐原「漁師さんかな」


根岸「そう、かなぁ?」


佐原「ちょっと網か釣り針にかかってくるわー」


根岸「足取りもトボトボだなぁ、がんばれー、お前はヒラメだぞー」


佐原「おー、がんばるわー。大丈夫、下は向かないぜー」


根岸「ヒラメだもんな」


佐原「おう、下を向いたら地面しか見えないからな」


根岸「前向きなのはいいことだ」


佐原「上向きだけどね。まあ、とりあえず確認してもらいに行ってくるー」


根岸「頭の上の電球ついたままだぞー、そのままじゃ新種の魚類だぞー」


佐原「……新種だー、って話題になっちゃうかな?」


根岸「話題になっちゃうかもな」


佐原「巷で」


根岸「うん、どっちかっていうと、港で」




閉幕

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