No.45『悪霊』
根岸「季節の野菜と、肉と、あとはうどんがあればいいかな」
佐原「がちゃがちゃ」
根岸「なんだこの金属音……」
佐原「がちゃん」
根岸「……」
佐原「……」
根岸「スーパーに……」
佐原「野菜コーナーに参上つかまつった!」
根岸「……変な人だ」
佐原「おっすオラ悪霊!」
根岸「……えぇ……」
佐原「鎧武者だと思った? 残念! 霊体でしたー」
根岸「……暖かくなってきたしな……」
佐原「変な人ではない! 私は戦国時代から生きる、由緒ある武将の悪霊である!」
根岸「生きてないよね」
佐原「どっこい生きてる!」
根岸「生きてたら、霊じゃないじゃないか」
佐原「生霊ってやつだよ」
根岸「それはまた別のやつだよ。肉体は死んでるんでしょアナタ」
佐原「うむ、合戦場でな……」
根岸「戦で死んだのか」
佐原「うん、カブトムシを戦わせてたら、後ろからズバーっと」
根岸「何やってんだ合戦場で」
佐原「無念でござる……」
根岸「そりゃぁなぁ」
佐原「ダンゴムシに負けるなんて……、俺のコガネムシ……」
根岸「そっちかよ。そして両者カブトムシですら無い」
佐原「というわけで無念なので、今日は、キミの守護霊になりに来た!」
根岸「最高に迷惑だな」
佐原「そう言うな、俺が守護霊になればすごいぞ!」
根岸「でも悪霊なんでしょ?」
佐原「悪霊ですとも!」
根岸「間に合ってますさよなら」
佐原「待て、呪うぞ!」
根岸「なんだそれ、話を聞くしかないのか」
佐原「ふふふ、俺の呪いで二重にしてやる!」
根岸「ぐあああ、目がぱっちり!」
佐原「ぐはははは! というかまだ何もしてない!」
根岸「元から二重だ」
佐原「ぐぬぬ」
根岸「買い物の途中なんで、帰っていいか?」
佐原「待て、今日は鍋物だろう!?」
根岸「そうだけど」
佐原「俺が守護霊になれば、灰汁とりとかするよ! 悪霊だけに!」
根岸「間に合ってます」
佐原「あとほら、俺が守護霊になれば、部活と勉強を両立できて、意中の人ともいい感じだぞ!」
根岸「進研ゼミかよ」
佐原「あ、この告白、守護霊がいってたやつだ! ってなる! 一日15分で恋愛もばっちりだ! 鍋を囲むのが彼女もいれて三人になるね!」
根岸「三人て、お前も混ざってるのか」
佐原「とるぜー、灰汁とか二人の距離とかー。さあ、はやく俺を守護霊に!」
根岸「断る」
佐原「ぐぬぬ!」
根岸「守護霊がどうとかはわからんけど、間に合ってます」
佐原「まあ、確かに、いるもんな既に、守護霊」
根岸「んー……。 ああ、お前からは見えるのか、俺の守護霊」
佐原「うむ、お前の守護霊はダンゴムシだ」
根岸「……ダンゴムシ……」
佐原「あの時のな!」
根岸「……えぇ……」
佐原「というわけで、再戦を申し込む! いいな!」
根岸「ちょっと、勝手に話を進めないで」
佐原「勝負だダンゴムシ! うおおおお!」
根岸「……よくわからんが鎧の人がみるみるボコボコに」
佐原「やられた」
根岸「ダンゴムシ強ぇ……」
佐原「うう、こうなったら奥の手だ」
根岸「守護霊になりに来たのかリベンジしに来たのか」
佐原「そのダンゴムシを倒せば、俺がお前の守護霊になるんだ」
根岸「え、何、そういうシステムなの?」
佐原「そう俺が決めた! 自分ルール!」
根岸「自分ルールってそういうのじゃないと思う」
佐原「自分ルール発動! 勝たなくてもお前の守護霊になれる!」
根岸「ならないで」
佐原「何故だ! かっこいいだろう、鎧武者が守護霊とか、男の子なら誰もが憧れるだろう? ましてや貴様はダンゴムシだ!」
根岸「俺自身がダンゴムシみたいな言われ方だ」
佐原「たのむよー、守護霊にしてよー、このままじゃただの悪霊なんだよー」
根岸「迷惑っぷりは間違いなく悪霊だよ」
佐原「バトルをし続けてうん百年……、誰にも勝てずにずっと悪霊さ!」
根岸「悪霊にもいろいろいるんだなぁ」
佐原「恨みつらみはありません」
根岸「ふむ」
佐原「ただ、俺には夢がある! 誰かの守護霊になって、誰かを守りたいんだ!」
根岸「それもまた未練のような気はするんだが」
佐原「夢があればだれでも悪霊になれる!」
根岸「前向きですこと」
佐原「しかし、ダンゴムシになら勝てると思ったのになぁ……」
根岸「完敗だったな」
佐原「前に負けたときは足技に手も足も出なかったんだ」
根岸「足技?」
佐原「そう、足技」
根岸「ダンゴムシの?」
佐原「そう、ダンゴムシの」
根岸「……どういうこと?」
佐原「足、たくさんあるだろ? あれやばい、すごい強い」
根岸「そういうもんなのか」
佐原「霊になってれば、足無いから、勝てると思った」
根岸「なるほど……? ダンゴムシの霊も足、ないんだ」
佐原「無いよ、霊はみんな足が無い」
根岸「……お前は?」
佐原「……?」
根岸「足」
佐原「……??」
根岸「あるじゃん」
佐原「ほんとだ!」
根岸「霊じゃないの?」
佐原「ぐああああ!」
根岸「なんか苦しみだした」
佐原「悪霊ではなかったのかぐおおおお!」
根岸「野菜コーナーに人が集まり始めた」
佐原「悪霊ではいられないいいい!」
根岸「成仏でもするんかな。あ、いやでも足あるからそもそも霊じゃないのか?」
佐原「ぽん!」
根岸「おお?」
佐原「というわけで、ただの霊になりました」
根岸「足は?」
佐原「あるけど霊なの」
根岸「前提も何もあったもんんじゃないな」
佐原「自分ルール的には、俺は、霊」
根岸「そうですか」
佐原「というわけで、悪いことしなくなったから、一緒に飯でも食おうぜ」
根岸「悪霊じゃなくなったってことなのか」
佐原「鍋だろ今日?」
根岸「そうだけど、なんで鎧装備した変な人と鍋囲まなきゃいけないんだよ、しかも初対面だし」
佐原「大丈夫、灰汁とりとかするよ! なにしろただの霊だからな!」
根岸「悪霊のときと同じじゃないか」
佐原「アクがとれたのにな!」
閉幕
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