No.44『残機』

『残機』


ブウーン キキーッ


佐原「うわぁー!」


ガシャーン


根岸「さ、佐原が車に轢かれたー!」


佐原「危ないところだった」


根岸「……いや、モロに交通事故だったろ今のは、なんで無事なんだお前」


佐原「平気じゃないよ、残機減ったし」


根岸「残機って……」


佐原「ほら、あの右上の数字」


根岸「佐原×3、あれか。っていうかお前残機あるのか」


佐原「そりゃあるよー。人生当たって砕けろと言うからな、残機がなかったら砕けられないだろう」


根岸「物理的に砕けるつもりなのか」


佐原「なくなると死ぬ」


根岸「車にぶつかっても死なない男のくせに、残機がなくなると死ぬのか」


佐原「そりゃ死ぬだろう、ゲームオーバーだ」


根岸「でも、あと3機もあるんだろ? そうそう減るもんじゃないんじゃないか?」


佐原「過去に女の子に告白して砕け散ったこと2回」


根岸「……残機、減ったのか」


佐原「もちろん、ハートブレイクは大ダメージだ」


根岸「告白も命懸けなんだな」


佐原「むしろ命も賭けられない男の覚悟など女子もいらないだろう」


根岸「正論のような、重すぎるような」


佐原「人生、当たって砕けろだ!」


根岸「いや、その言葉ってさ、そういう心構えで向かえ、ってことであって、砕けるの推奨してるわけじゃないだろ」


佐原「砕けることこそ人生さ」


根岸「瀬戸物みたいなやつだな」


佐原「とはいえ、あと3機では心元ない」


根岸「でも、事故やら告白やら、そうそう発生するイベントでもないだろう」


佐原「まあ、スペランカーと比べればマシなほうではある」


根岸「スペランカーは鳥のフンで死んじゃうしな」


佐原「でも俺の耐久度はビックバイパー程度」


根岸「一発か。あと壁にぶつかると終わりか。スペランカーと大差ないじゃん」


佐原「スピーダッ」


根岸「速度上がった。なんか意味あんの?」


佐原「さぁ?」


根岸「わからんのか。んで? どうやって残機増やすんだ? どっかにお前の頭部でも落ちてるのか?」


佐原「馬鹿か、頭部なんて落ちてるわけないだろ、ロックマンじゃあるまいし」


根岸「残機のある人に馬鹿とか言われた。じゃあ何?緑のキノコ?」


佐原「毒キノコじゃん、あれは訓練された配管工だけが食えるんだよ」


根岸「じゃあ何だよ」


佐原「スコア」


根岸「スコア制か」


佐原「ちょっとそこの電柱の裏に隠し8000点ないか見てくる」


根岸「おう、あるといいな」


佐原「……」


根岸「……」


佐原「なかった」


根岸「そうか」


佐原「まあ、3機あればしばらくは大丈夫だろう」


根岸「そうだな。ビックバイパー程度の耐久度でもまあ、大丈夫だろう」


佐原「低いテーブルに脛ぶつけると減るけどな」


根岸「日常生活が案外危険なんだな」


佐原「でもまあ、俺たちの世代なんて耐久度はみんな似たようなもんだろ?」


根岸「みんなお前のような特異体質なわけじゃない」


佐原「キノコ食ったマリオが一発目を耐えられるくらいでさ、あとは大抵一発で死んじゃうじゃん」


根岸「まあ、ゲーセン世代というか、ゲーセンのアクションゲーはだいたいそうだったな」


佐原「根岸は違うのか?一発じゃないのか?」


根岸「違うね」


佐原「RPGの人か!」


根岸「普通の人だよ」


佐原「じゃあ俺の左に浮いてるこのウィンドウは?」


根岸「……なにそれ」


佐原「お前のだろ?」


根岸「まあ、俺の顔が映ってる、よなぁ……」


佐原「1up?」


根岸「え、俺あれなの? ロックマンなの?」


佐原「でも、根岸の右上に残機表示無いな」


根岸「ロックマンって画面に表示出てたっけ?」


佐原「あー、なかったっけ。じゃあお前根岸マンか」


根岸「ひどいネーミングだ」


佐原「でもさ、1upって落ちてるもんだよな」


根岸「浮いてるね、このウィンドウ。しかも佐原の右側に」


佐原「ふむ」


根岸「どっかで見たような気はするんだけどな」


佐原「ああ、ちょっと根岸殴ってみよう。えい」


根岸「いてっ! きはくはじゅうぶん!」


佐原「ああ、なるほど。ウィンドウの根岸の顔が苦痛に歪んだ」


根岸「……魔導物語か」


佐原「つーことは何か、俺は、敵か?」


根岸「ウィンドウ的に言えばそうかな? えいっ」


佐原「いてっ!」


根岸「うん、敵だな多分」


佐原「残機が減ったあああ!」





閉幕

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