No.29『カラーコーン』

根岸「ここも道路工事か、もう春なんだな」


佐原「ひと角60度!」


根岸「……ん?」


佐原「根岸!」


根岸「?」


佐原「根岸っ!」


根岸「……工事の音に紛れて、どこからか佐原の声が……」


佐原「根岸、ここここ!」


根岸「ふむ、わからん」


佐原「ねぎしぃー! 気づいてぇー! 俺に気づいてぇー!」


根岸「……んー?」


佐原「へい!」


根岸「△」


佐原「△!」


根岸「佐原?」


佐原「そう、佐原! おっすおっす!」


根岸「カラーコーンじゃん」


佐原「仲間と共に、道路を区切るぜ! カラーコーンです! ひと角60度!」


根岸「どうしたのお前、三角錐になっちゃって」


佐原「うん、いろいろ事情があってな、話すと長いんだが、聞いてくれ」


根岸「とりあえず、ここ工事の音でうるさいから、場所変えてもいい? 喫茶店とか行こうぜ」


佐原「ダメだ」


根岸「ダメか」


佐原「俺が動いたら、俺に乗っかっている黄色と黒のしましまバーが落ちてしまう。阪神ファン大激怒」


根岸「阪神ファンは激怒しないと思うけど、なるほど、仕事中なのか」


佐原「正しくは仕事ではない。これが俺の今の生き様なのだ。阪神ファンを下から支えるのだ」


根岸「よくわからんけど、かっこいいな。カラーコーン」


佐原「そうだろ! かっこいいんだよカラーコーン! ただの三角形だと思うなよ! とんがりコーンとポリンキーがライバルです!」


根岸「お菓子がライバルなのか」


佐原「三角形のものはだいたいライバル、とんがった生き方なんだぜ」


根岸「そうですか」


佐原「ひと角60度!」


根岸「決め台詞なのかそれ。っていうか正三角形じゃないだろお前」


佐原「ところで根岸」


根岸「なんだね」


佐原「お前、カラーコーンと会話する変な人になってるぞ」


根岸「お前がカラーコーンになっちゃって、話しかけてきたからだろうが」


佐原「ごもっとも! 三角形だけに!」


根岸「何がどうかかっていたのかさっぱりだ」


佐原「俺にもわからん」


根岸「謎だらけだな。で、まあ、それはいいとして、何でカラーコーンになっちゃったのさ」


佐原「うむ、話せば長いのだが、聞いてくれるか」


根岸「缶コーヒー買ってきていいか?」


佐原「いいよ、まあ賑やかなところだが、ゆっくりしていけよ」


根岸「佐原はなんかいる?」


佐原「コーンスープ」


根岸「承った」


佐原「コーンだけにな! ってああ、スルーされた!」


根岸「……」


佐原「……カラーコーン、カラーコーン、三角形のひみつはね……」


根岸「それポリンキーだろ。ほら、コーンスープ」


佐原「積み重ねやすいからだと、個人的には思う。ありがとう」


根岸「で? こないだまで人間だったのに、なにをどうしてカラーコーンになったんだ?」


佐原「コーンスープ飲めない! 開けて!」


根岸「ほら」


佐原「ありがとう。手、無いんだよなカラーコーン」


根岸「手があったら、積み重ねにくいだろうな」


佐原「あー、三角形の利点がゼロになるな。カラーコーン神話崩壊」


根岸「で、なんでカラーコーンに―――」


佐原「コーンスープ飲めない!」


根岸「口、無いもんな」


佐原「どうやって喋ってるんだ俺は!」


根岸「知らんよ」


佐原「まあいいや、コーンスープは香りを楽しもう。鼻も無いけど」


根岸「前向きだな」


佐原「カラーコーンだからな!」


根岸「よくわからんけど」


佐原「前も後ろも無いからな、むしろ全方向に前を向いている」


根岸「なるほど?」


佐原「そうそう、で、どうして俺がカラーコーンになってしまったかという話だな」


根岸「そう、それ」


佐原「あれは15の春のことだった」


根岸「15の春の頃はお前、人間だっただろうが」


佐原「ぽわわわわ~ん」


根岸「なにそれ」


佐原「回想にはいった効果音だよ」


根岸「なるほど」


佐原「転生モノって流行ってるじゃん?」


根岸「……回想は?」


佐原「まあ聞けよ」


根岸「おう」


佐原「転生モノが流行ってるから、俺も転生してみることにしたんだ」


根岸「ほう」


佐原「異世界に転生して、転生した俺はすごい強いの、そしてモテモテになるの」


根岸「ほう」


佐原「そんな願いが神に届いた」


根岸「……うん」


佐原「目覚めたら俺はカラーコーンになっていたのだ!」


根岸「うん?」


佐原「以上です」


根岸「そうですか」


佐原「……異世界にいけなかったぁ……」


根岸「そうだねぇ」


佐原「あとなんだよカラーコーンって、どうやって敵と戦うんだよ!」


根岸「まず敵ってなんだよ。ライバルはお菓子じゃなかったか?」


佐原「うん、ポリンキーとかはライバル。敵は、車とか、ほかの三角形とか。―――車はさー、あいつらつっこんでくる」


根岸「カラーコーンなんてぐしゃぁーってなって壊れておしまいじゃないか」


佐原「うむ、仲間が次々と倒れていった。あいつらの無念のためにも、俺は戦い続けなければならないんだ」


根岸「ちょっとバトルものっぽくなった」


佐原「負けるわけにはいかない!」


根岸「おお……」


佐原「うおお、俺の三角比が余弦定理でピタゴラスだぜ!」


根岸「ちょっとわけがわからなくなった」


佐原「いくぜ根岸、呼吸を合わせろ! 三・平・方!」


根岸「待て待て、ついていけない」


佐原「なんだよー、盛り上がれよー」


根岸「盛り上がれと言われてもなぁ」


佐原「全ての車や三角形と決着を付けるまで、俺は戦い続けるんだ」


根岸「なんなんだよそのテンションは」


佐原「三角形だからな! とんがった生き方だぜ!」


根岸「好戦的なカラーコーンだなぁ」


佐原「でも最終的にはみんな仲良しでいいんじゃないかなぁ」


根岸「急に丸くなった」


佐原「カラーコーンだからな」


根岸「終わりはとんがってないってことか」




閉幕

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