No.4『マンホール』
佐原「世界に」
根岸「……? どこかからか声が聞こえる……?」
佐原「世界に万単位で存在する穴だから、マンホール!ホールホールホール(エコー)」
根岸「マンホールから声……?」
佐原「地下の底からこんにちは!」
根岸「うお、人が出てきた」
佐原「こんにちは、マンホールの精霊です。首から上だけで失礼します」
根岸「蓋がヘルメットの上に乗ってる……地味にすごい」
佐原「ふふふ、私が誰かって? そう、私はマンホールの精霊っ!」
根岸「関わっちゃいけないタイプの人だ。さようなら」
佐原「待って!待って待って! 見たところあなた、マンホールに興味がおありの様子!」
根岸「ありません」
佐原「あぁっ、ちょっと……行かないでぇー」
根岸「……いわゆる変な人だな。関わらないほうがいい」
佐原「―――」
根岸「なんだったんだ、ほんと」
佐原「待ちたまえ!」
根岸「うお、別のマンホールから出てきた。移動速度早すぎるだろ」
佐原「マンホール・ワープ! 精霊にだけ許された未来の技術!」
根岸「さようなら」
佐原「あぁっ、ちょっと……」
根岸「いわゆる変な人だな。年度末だし、工事も増える」
佐原「まーつーのーだー!」
根岸「更に次のマンホールから……。何者だアンタ」
佐原「だからマンホールの精霊ですってば。あるいは未来人。あるいは地底人」
根岸「精霊よりは、交通整理の人だろう。ヘルメットだし」
佐原「ようやく話を聞いてくれる気になったかな? さて、あなたが落としたのは―――」
根岸「落としてませんさようなら」
佐原「ああん! ちょっとぉー」
根岸「しかし―――」
佐原「マンホールの精霊からは逃げられなぁい!」
根岸「しつこいなぁ」
佐原「ふふふ……。ん? ……見下されている!」
根岸「まあ、そりゃあそうだろう」
佐原「だが許します。マンホールの精霊は地下道のような広い心を持っているのです」
根岸「広いイメージないな、地下道。長いイメージはあるけど」
佐原「さて、じゃあ本題に入ろう」
根岸「……」
佐原「あなたが落としたのは、この金のボールペンかな? それともこっちのおおおおおお―――」
根岸「え?」
佐原「パタン」
根岸「落ちた! 精霊落ちた! 綺麗に蓋閉まった!」
佐原「死ぬかと思った!」
根岸「ごぶん!」
佐原「何か当たった?」
根岸「覗き込んだところにいきなり蓋が……っ」
佐原「ただいま!」
根岸「帰ってきた……。 はええよ!」
佐原「両手を離してはいけません。これ精霊の掟」
根岸「帰ってこなくてもよかったのに」
佐原「まあそう言わず、これを見ればあなたは私に感謝しますよ」
根岸「へぇ……」
佐原「あなたが落としたのは……。ん……。落と……した……の……は……? んん?」
根岸「どうした」
佐原「落とした! あなたが落としたモノを落とした!」
根岸「いいよ、さっきの流れからしてボールペンでしょ? 落とした記憶もないから、どっかでもらったようなボールペンだよ多分」
佐原「人のものをなくしてはいけない。これアマゾンの掟」
根岸「精霊の掟はどうなった」
佐原「とにかく、探しに行きましょう、さあ!」
根岸「え、俺も行くの?」
佐原「当然です、誰の探し物だと思ってるんですか!」
根岸「いや、探してないけど」
佐原「地下はあなたの常識が通じる世界ではありません、覚悟はいいですか?」
根岸「いや、行かないって俺は」
佐原「いいから!」
根岸「ちょ、足から引きずり込むなって、危ないって! わかった、わかったから。地味に力強いな!」
佐原「にやり」
根岸「なんだよその不敵な笑みは」
佐原「精霊の癖です」
根岸「入るから、下がってよ」
佐原「はいはい……」
根岸「なんでボールペンを探すためだけにマンホールに入らなきゃいけないんだ……」
佐原「にやり」
根岸「なんだよ……」
佐原「あなた、こんな話を知っていますか……? 世界に万単位で存在するマンホール……。 そのうちのいくつかは下水道とはつながっていないということを……」
根岸「……?」
佐原「地下世界へのマンホールというものがありましてね、そこには人と似た形をした生き物がすんでいて……」
根岸「都市伝説か?」
佐原「いえ、それがどうやら実在するようなんですよ」
根岸「……! 蓋が、閉まった! おい真っ暗だぞ!」
佐原「ようこそアンダーグラウンドの世界へ!」
根岸「地底人……? まさか、アンタが?」
佐原「思ったより驚きませんね、そう、私はかわいらしい精霊さんなんかじゃありません」
根岸「……可愛くはないもんな」
佐原「ひどい! 精霊ショック!」
根岸「精霊じゃないんじゃなかったのか」
佐原「精霊でもショックな出来事だったということです。今地下世界で流行してる言葉なんですよ」
根岸「知らないよ、なんだよその地下世界」
佐原「ところで―――」
根岸「なんだよ、連れ込んでどうするつもりなんだ、こんな真っ暗なところ」
佐原「地底人の、主食を知っていますか?」
根岸「……知るわけ……。いやまさか……。そのために俺を……」
佐原「にやり」
根岸「に、人間……?」
佐原「にやり」
根岸「マジかよおい! くそ、どこに居やがる! 真っ暗で何も見えねぇ! ぶ、武器になるものは何か、何か」
佐原「あ、足元に」
根岸「足元、これは! ボールペン!」
佐原「ありましたねー。じゃあ帰りましょうかー」
根岸「……ん?」
佐原「ん?」
根岸「んん?」
佐原「どうしました?」
根岸「なんだ、おい、俺は食べられるんじゃないのか?」
佐原「なんでですか、ボールペン探しに来たんでしょ?」
根岸「え、いや、うん。そうだね、そうだよね」
佐原「食べませんよー、人なんて、私は」
根岸「でも地底人なんじゃないの?」
佐原「いいえ、普通の人間ですよ、家庭もあります」
根岸「なんだよ、びっくりしたよ、地底人かと思ったよ」
佐原「いやー、でもさっきのとはまた別の都市伝説もありましてね……」
根岸「いいよもう都市伝説は、怖いから」
佐原「マンホールがね、人を食べるんですよ」
閉幕
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