No.5『時間跳躍』

佐原「俺はさ、気づいちゃったね」


根岸「気づいちゃったかー」


佐原「時間跳躍ってあるじゃん? いわゆるタイムマシン」


根岸「あるねー」


佐原「あれさ、時間はいいけど、場所ってどうなると思う?」


根岸「どうなるのかねー」


佐原「たとえば今この場所で、時間跳躍をしたとしよう。10年前に戻る! するとどうだろう!」


根岸「ちょっと、静かにしてもらえるかな?」


佐原「あ、ごめん」


根岸「……いいけど」


佐原「いいの!? でさ! 10年前に戻るわけだよ! 10年前の今日!」


根岸「違う」


佐原「そう、違うんだ! 根岸も気づいちゃったか!」


根岸「違う違う、そうじゃない」


佐原「気づいちゃわなかったか!」


根岸「いいから、静かにしてくれる?」


佐原「いいから、って、何がいいんだよ! よくないよ!」


根岸「わかった。わかったから、後で聞くから。その……ミカン攻略?」


佐原「何もわかってない! 柑橘類! それ柑橘類! このいよかんが!」


根岸「誰がいよかんか」


佐原「そう、誰でもない。いよかんの話はしていないんだ」


根岸「……あのさ」


佐原「はい」


根岸「静かにしてくれる? もうちょっとなんだ」


佐原「ミカン攻略?」


根岸「ミカン攻略ぅ? なんだよそれ」


佐原「お前が言ったんだろ!」


根岸「ああ……あ……。あーあ」


佐原「どうした?」


根岸「ダメだ、失敗した。もうちょっとなんだけどな。お前がおっきな声出すからだぞ」


佐原「ずーっと画面見て、何してるんだよ」


根岸「ドミノ」


佐原「ドぉミぃノぉ!?」


根岸「の、動画」


佐原「声関係ないし! 俺のにぎやかさは影響ないしそれ!」


根岸「まあ、そうなんだけどさ。気分の問題だよ。―――ほら、あるだろ、映画とかで水中のシーンになると、こっちもつい呼吸止めちゃうような。あんな感じだよ」


佐原「なるほどね、からあげにレモンかけるかどうかは意見が割れるもんね」


根岸「……んん?」


佐原「ところで聞いてくれ、俺は気づいちゃったんだよ!」


根岸「ああ、そうだそうだ、なんだっけ、柑橘類の話だよな」


佐原「そ……そう……だっけ?」


根岸「ポンカンの話だろ?」


佐原「お、おう……そうそう、ってこのあんポンカン!」


根岸「アンポンタン?」


佐原「そんな柑橘類はない!」


根岸「ないなぁ」


佐原「えと、ええと、あれだほら、ええと、あれだよあれ、ここまでミカンが出かかってるんだけどなぁ」


根岸「さっき皮ごと食べてたやつか」


佐原「そう、それが喉のあたりまで、ってこのいよかん!」


根岸「いよかんではない」


佐原「みかん星人だもんなぁ、根岸」


根岸「地球人ですよ」


佐原「……ん? ……お、思い出した!」


根岸「思い出しちゃったかー」


佐原「なんだよ、思い出して欲しくなかったのかよ」


根岸「まあ、佐原の話は面倒な話が多いからな。着地点なかったりするし」


佐原「ひどいなあ」


根岸「んで、なにを思い出しちゃったんだ?」


佐原「そう、それそれ。 きいて驚け!」


根岸「見て笑え!」


佐原「我ら閻魔大王の……いやいやいや……。乗せるなよ」


根岸「乗るなよ」


佐原「余計なことを言うから、こう、話が逸れていくんだな」


根岸「まあ、そうだな」


佐原「ならばメインタイトルから会話を始めればいいわけだ」


根岸「そうね」


佐原「時間跳躍!」


根岸「おお! したのか今!? なんだ、過去とかに行って、今に戻ってきたのか!?」


佐原「そう! その証拠に徳川家康のチョンマゲがここに! ってバカぁ!」


根岸「乗るなよ」


佐原「つい」


根岸「あと何だよ、チョンマゲって」


佐原「とっさに思い浮かばなかったので仕方ないのじゃ」


根岸「そうじゃのぅ」


佐原「で、そうそう、時間跳躍の話だよ! 俺は気づいちゃったんだよ!」


根岸「本題まで時間のかかること」


佐原「誰のせいだよ」


根岸「大方、佐原自身のせいだよ」


佐原「まあそうだな」


根岸「そうだね」


佐原「で、そうそう、本題だよ」


根岸「はいはい」


佐原「たとえば、10年前に戻ったとするだろ?」


根岸「うん」


佐原「戻れないんだよ、時間だけじゃ」


根岸「うん?」


佐原「場所も、10年分動かなきゃいけないんだ」


根岸「……うん? 何、どういうこと?」


佐原「宇宙の膨張は知っているな?」


根岸「話がいきなりデカくなった」


佐原「宇宙まで行かなくてもいい、太陽系だけで見てもいい。地球は太陽の周りを公転してるし、地球だけでみても自転してるんだよ。 そんな中で、俺だけがこの場所から動かずに10年戻ってみろ、そこに地球は無いんだよ。多分、10年前のココは宇宙空間」


根岸「あー、まぁ、うん。 言いたいことはわかった、気がする」


佐原「っていうことに気づいちゃった!」


根岸「……うん。 え、何、終わり?」


佐原「え?」


根岸「え?」


佐原「終わりだよ?」


根岸「着地点の無い話だったな」


佐原「そう! そういうことだよ!」


根岸「いやそういうことじゃないよ」


佐原「違うのか!」


根岸「着地点が無いっていうのは、こう、結論がなくて、まだ途中だろ、って感じで―――」


佐原「ミカンってことか!」


閉幕

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