No.3『想い』

佐原「根岸、これ」


根岸「これ……って……。 小さい紙袋……、えぇ……? なにこれ……ってえぇ? なに? 今日バレンタインでなに佐原お前、なに?」


佐原「ひろったんだ」


根岸「え、ああ、そうか、そうだな、そうだよな。 そうか、佐原がもらったのか、よかったな、そうだな。バレンタインだもんな」


佐原「いや、拾ったんだよ」


根岸「うん?」


佐原「拾った」


根岸「拾ってきちゃダメだろそれは」


佐原「いやしかし」


根岸「どう考えてもバレンタインのチョコとかクッキーとかそういうのが入ってる紙袋だろ?」


佐原「開けてないからわからんけどな。かわいい爆弾かもしれないぞ?」


根岸「なんだよかわいい爆弾て」


佐原「爆発すると小さいこけしがいっぱい出てくる」


根岸「かわいい、のか?」


佐原「微妙」


根岸「微妙だなあ」


佐原「これさ、やっぱりバレンタインのアレかね?」


根岸「時期を考えたらまあ、可能性は高いよね」


佐原「こけしじゃないのかぁ」


根岸「何をがっかりしているのかはわからんが、そもそもお前へのプレゼントじゃないだろう?」


佐原「うん、拾った」


根岸「いいんだろうか……」


佐原「よくはないだろう」


根岸「だよなあ」


佐原「この場合、想いはどこへ行くんだろう」


根岸「ん? なにをいきなり詩的なことを……」


佐原「いやさ、込められた想いっていうのは、受け取り手がいれば伝わるだろ?」


根岸「うん、まあ。 お世話になってますチョコにしても、本命チョコにしても、相手が受け取ればその想いは伝わるわな」


佐原「そうなんだよ、伝わったあとにそれを相手がどう思うかはまた次の問題として、とりあえず伝わるんだよ」


根岸「そうだな」


佐原「でもさ」


根岸「うん」


佐原「このプレゼントに込められていた想いは、どこへ行くと思う?」


根岸「なるほど。宙ぶらりんだ」


佐原「な? どこにも行き場がないんだよ」


根岸「かわいそうなプレゼントだな、そう考えると」


佐原「だから俺は、この想いを引き取ってあげようと思う」


根岸「あ、そういう理屈か。 それはダメだ、ちがうぞ。救済でもなんでもない」


佐原「だって今年もバレンタインに何ももらえなかったんだ! 俺もなんか欲しい!」


根岸「まあ待て、落ち着け、それは落とし物だ。そもそもどこで拾ってきたんだ」


佐原「映画館。隣には女子高生っぽいのが座ってて、映画終わったあと起きたら置いてあった。これはもう落とし物っていうか、俺へのプレゼントだろ!?」


根岸「違う、間違いなくただの忘れ物だ。っていうかお前、映画も寝てたのか」


佐原「ほれみろ、中に入ってた手紙にも佐原センパイへって書いてある!」


根岸「勝手にお前! ひどいやつだな! っていうか佐伯センパイ宛だな」


佐原「俺は今日から佐伯になる!」


根岸「誰だかは知らんが、なれない。なにを言ってるんだお前は、いいから落ち着け」


佐原「佐伯センパイへー、今日はデートしてくれてありがとうございましたー」


根岸「手紙読むな馬鹿! 誰だか知らんがその子が哀れすぎる!」


佐原「デート前にデート後のことを手紙に書くんじゃねぇー!」


根岸「いいじゃん別に、その子の自由だろうが、いいからやめなさい!


佐原「むきー!」


根岸「ほらお茶でも飲んで」


佐原「……ずずー」


根岸「落ち着いたか」


佐原「準備いいなあ根岸。ずずー」


根岸「まあ、お茶くらいはな」


佐原「チョコも美味い」


根岸「開けてるし! 食ってるし!」


佐原「まあまあ根岸落ち着いて。ほらお茶飲んで」


根岸「……ずずー」


佐原「もぐもぐ、落ち着いた?」


根岸「ひどいやつだなー」


佐原「まあほら、行き場をなくしたラヴをね、保護してあげたんですよ。このままじゃ宙ぶらりんだったからね」


根岸「宙ぶらりんのままのほうがマシだったんじゃなかろうか……」


佐原「むぐっ」


根岸「詰まった? ほらお茶飲んで」


佐原「痛たたた、ちょ、お腹痛い……」


根岸「あー」


佐原「え、ちょっとなにこれ痛い……え、何? 罠? バレンタイントラップ? 佐伯センパイは恨まれていた?」


根岸「違うと思うぞ。きっとラブラブだ」


佐原「じゃ、じゃあこの腹痛は一体……っ」


根岸「あてられたんだろう」


閉幕

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