9話 再出発

 家のベッドの中で考える。もしかすると、自分は元々ゆきだったのかもしれない。次元超越というよりもありえる話だ。原因の一つは絵梨香さんとの関係だった。他にも理由があるんだろうけれど。


 まさか告白されるなんて思ってもみなかった。恋愛にはうとい。本棚にある少女漫画でも読んでみるか……と思い、ディスクの明かりをつけて読む。お……。乙女の恋愛劇というよりは、か弱い少女が自立して、気の置けない幼馴染に一目置く話だった。

 夜更かしはいけないから、1話だけ読んで閉じる。


 ソウ君とは3年目の付き合いになる。楽しい思い出しかない。だけど恋愛対象として見ていたかどうか。「自分が最初から女でした。だから、気持ちまで女の子になりなさい」と言われても、心まで追いつけるわけじゃない。私にできることは想いを伝えるだけだ。イエスとかノーとかいう話でもない。


 岸野さんのことも気になるな。これは好きというのか、尊敬しているというのか。とにかくモヤモヤとしていて区別できない。いっしょにいたいとは思うけれど、これが性的な欲求なのか、人としての尊敬の念であるかがはっきりしない。むしろ区別する必要もないし、何か決断を迫られているわけじゃない。


 ベッドの中に戻って、静かに目を閉じた。


*****


 月曜日の朝。ソウ君はあいかわらず、ふつうに接してきた。態度や喋り方からして、まるでこの間の話がなかったかのようだ。ふと教室にいた女子が、トイレにでも行ったのか、離席した。


「あの、ソウ君」

「友紀?」

「ソウ君とは、いっしょにいたい。けど付き合うって何か、わたしに教えてほしい」

「それって、オーケーってことか?!」

「どうだろう。オーケーなのかな。わたしで良ければ、付き合おうよ」

 

 はあ、とため息をつくソウ君。どうしたのだろう? と首を少し傾け、怪訝けげんそうにソウ君を見る。


「友紀のことはずっと好きだった。取られるんじゃないかと思っていた。もっと早く言えばよかったのに……」


 落ち着いているけれど、楽観的なソウ君にしては、後悔するのがめずらしい。


「遅いってことはないでしょ。過去のことを顧みないで。これからやり直せばいいんだから」

「それ、最初に俺が言った台詞だね。まさか返されるとは」


 ソウ君は穏やかに笑った。


 思い出そうとしても、頭が少し痛くなる。何を言っているのかは思い出せないが、わたしが始業式のとき、何か後悔することがあって、励まされていた……そんな気がする。


「残りの学校生活、いっしょにがんばろうぜ!」

「うん!」


 そういえばソウ君と最初に会ったとき、わたしは暗い顔をしていた。だけどわたしは、ソウ君に励ましてもらい、笑った。今度はソウ君を笑わせられた。少しは役に立ったのかな?

 

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