5話 対峙

 来てしまった。

 私はあえて家で昼食を済ませてから、喫茶店の前に来た。短期決戦に備えるためだった。


 青色のシフォンブラウスにカーキ色のカーゴパンツという格好だ。どうしたことか、違和感をあまり覚えなかった。ズボンはともかくブラウスを着ているという事実が、感覚が麻痺していることの様に思える。

 


 店内の隅の日が当たるところに絵莉香さんがいた。深窓のお嬢様みたいに見えて意外な気がした。


「よく来たね、友紀」


 と一言。続けて「あなたは約束を破らない人だから」と言って、力のない笑みを見せた。絵莉香さんの目元が、少し下がっているように見えた。


 穏やかな口調やちょっとした心遣いにおどろいて、ちょっと呆然ぼうぜんする。


「うん」


 言葉少なげに応答し、薄桃色のハンドバックを座席に置いて座った。


「少しやつれてない?」

「え?」


 意外な言葉だった。

 一瞬、指を軽くあごの下に付けて考えた。


「いや、なんでもないよ」


 すぐに謝る絵莉香さん。私は「うん」と言って頷いた。


 席に座ると、数秒間絵莉香さんが沈黙した。


「友紀、ごめんなさい!」


 いきなり深々と頭を下げられたから動揺する。声が大きいためか、中年より少し若い給仕さんが一瞬こちらを見たが、すぐに顔を元の位置に戻した。


「いきなり何?」


 私が伺ようにしてくと、彼女は「実は……」と口を滞らせながら話し始めた。


「中2のとき、友紀をおとしめたのはあたしだったの……。なんとなくみんなが、よそよそしくなかった?」

「ええと、どうだったっけ……」


 気分がわるくなった。疑問が一気に解氷していく気がする。コップの水を一杯飲む。


「ごめん。お手洗いに行ってくる」


 トイレの中に入った。

 心の奥底に封印されていた記憶が蘇るようだった。誰の記憶かはどうでもいい。


 この間まで仲良しだった友だちが、なぜかそれとなく私を拒む。こっちが笑顔で接しても、口元が引きずった愛想笑いを返される。

 なんだこれ……。


 5分ほど経っただろうか。ヘロヘロの足で席に戻った。

 無言……。心は動かないはずだけど、目だけがつり上がるのを感じた。


「許してもらえるとは思っていない。だから」


 語気が強まる。


「あたしはこれ以上、友紀とは関わらない」


 私はうつむいた。ふざけんな……。謝罪だけで足りると思うな。

 だけど、目の前にいる女の子を殴る気にはなれなかった。


「うん、いいよ。けど二度とわたしの前に現れないでね」


 硬い表情のまま冷たく言い放った。良心が痛む気がする。けれど、暗い感情による抑圧感が上回っていた。

 絵莉香さんの目に動揺が走った。

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