6. 自分と向き合う(水曜・木曜日)

5話 干渉

 なんだろうと思う。ぼくはトイレの壁を見ながら思慮しりょに耽っていた。トイレにいるのは、個室空間プライベートスペースがあるからだ。壁一枚で学校という生活空間から距離を置けられる。

 月のものはほぼ収まった。少し長引いたのは、精神状態や風邪とリンクしていたからかな……。落ち着いてよかった。けれども、本題はそこではない。


 みんなからは「あまり気にしなくてもいい」と言われる。話したところで、精神病者扱いか気の迷いだと思われるのが積の山。ほんとうに過去のことを水に流していい気もする。ぼくの記憶なんてそんなものなのか……。


 ぼくのため息は枯れていた。吐けば吐くほど、周りに迷惑をかけている気もする。


***


 リベラル研(部活)で、ある同級生の女子部員への接待が続いたから、結局ソウ君とは帰りに話すことになった。タイミングを見計らい30分くらい経ったら、二人で抜け出す形になった。

 

 たいへんだったねと世間話をいくらかしつつ二人でテクテク歩いて数分、耳障りな音が聞こえるなと思ったら、通学路で工事をやっていた。


「あ……工事してる」


 その日午前中は使えていた。だけど「臨時工事のため一時通行止め」とあった。


迂回うかいしよう」


 ソウ君の提案にぼくは頷く。


 やや広めだった道路の脇から遠回りするから、道幅が狭くなる。その分、二人の密着度が高まる……なんて意識してしまうところ、恥ずかしく思った。


 工事の音がだいぶ弱まったところで、ソウ君は歩く速度を緩め、口を開いた。


「懐かしいな」

「……?」


 何が? 数秒、無言のまま歩く。


「ごめん。さっきから無心で歩いていて」


 ソウ君はサラッと謝ったが、少し申しわけなさそうな顔をした。

 この後ソウ君は、塾(必要な科目だけ取っている)に行くわけだから、時間を割いてくれている。罪悪感を覚えなくていいのでは。


「ううん、ありがとう」


 かぶりを振り、感謝を述べた。


「全部吐かなくてもいい。けど俺は、ゆきが言いたいこと、聞いてやるから」

「うん」


 絵梨香(回想だから敬称は略)との関係を話した。中学1・2年のときは仲がよかったのに、何かが原因で関係がこじれてしまった。うまく思い出せないことも話した。絵梨香は感情的にああいう態度を取っているわけじゃないこともわかっている。けど表面上は屁理屈にも見えることも。


「わたし彼女のこと、放っといてもいいのかな」


 一人称が自然になった感があるけれど、もちろん問題は話す内容だ。

 沈鬱した気分でソウ君に言った。歩く速度は緩慢だ。


「どうもしようがない。ゆきはゆき自身の人生を歩んでいるから。それに干渉されたくもないんだろ?」


 ソウ君にも答えはわからないらしい。割り切れないのが人間関係だ。


「わかった。悩むのは止めるね」


 ほぼ無意識に作り笑いをした。

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