17話 体調不良になる
目が覚めると、ぼくは保健室のベッドの中にいた。誰かがぼくを避難させてくれたようだ。あの場で同席していた人たちを考えると、岸野さんが有力だろう。彼女には頭が下がらない。
どれくらい意識が飛んでいただろうか。下腹部が痛く、頭も重い。まさか意識が……。
体を横に倒して、カーテンの隙間を開ける。向かい側の時計によると、すでに次の時限が始まっていて、開始20分が経っていた。
勝手に動くのは危険だから、指示を待つことにした。だから、先生を呼ばないと。仰向けの体勢に戻り、声を発した。
「磯部先生、わたしの意識が戻りました」
「菅原さん? だいじょうぶなの?」
心配する声が聞こえた。声の主の先生が、サッとカーテンを開けるのが見えた。
「どうでしょう……。まだ体調がすぐれないのですが」
「熱を測りましょう」
体を起こして体温計を受け取った。熱を測ったら、37. 4度だった。
「きょうは早退しましょう。風邪と貧血かしら?」
風邪はともかく、貧血……? ゆきは貧血を起こしやすいのか?
先生の話が続く。
「症状はどうですか?」
「お昼休みのとき、目の前がクラクラして意識を失いました。今、頭が重いです。あと3日前から生理中で、お腹が痛いです」
磯部先生は右手を顎の下に添えて、考え込む仕草を見せた。知的な雰囲気が場を制する。数秒後、先生は口を開いた。
「まず、風邪が考えられますね。それと貧血と偏頭痛の症状もあります。体を温めること。生理中は鉄分が失われるから、貧血と関連していると思います。鉄分を取ったほうがいいです。偏頭痛については、カフェインを減らしたほうがいいですよ」
風邪と貧血と偏頭痛……。単一ではなく、複数の原因があるのだな。
体を温めたり鉄分を摂ったり、カフェインを減らしたりする。
「風邪の有無については、お医者様に診てもらいましょう」
「はい。けど、授業の出席はどうしよう……」
「私からクラス担任の先生を通じて言っておきます」
ぼくは「ありがとうございます」と言ったが、内心落ち込んでいた。受験生なのに、授業に出られないなんて。
「菅原さん」
と先生に呼び掛けられ、我に返った。姿勢がやや前のめりになり、正座していた足が外側に開きかけていた。ぼくはすぐに姿勢を正した。
磯部先生の顔を見上げると、先生はやさしそうな表情をしていた。
「岸野さんが貴方を運んできたのよ。心配そうな顔をしていたのが印象深かったわ。お友だちのためにも、ゆっくり休んで元気になってくださいね」
やはり、ぼくを運んでくれた人は、岸野さんだった。岸野さんには借りを作った。ぼくの体が女とはいえ、一人で運ぶのは重かったはずだ。先生か責任感の強い生徒も、手を貸してくれたのかもしれないが。
岸野さんはぼくを保健室まで運んでくれただけでなく、心配そうな顔をしてくれたそうだった。ぼくの体調を気にかけてくれている。養生して復帰しなくてはいけない。
「はい。ありがとうございます」
ぼくは背筋を伸ばし、岸野さんの分も含めて、深々と磯部先生に頭を下げた。
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